第13話「メッってした」
第十三話『メッってした』
「言い忘れておった。余の孫は不思議な力が使える、この場での嘘は死に繋がると知れ」
セゾン三世の言葉に困惑する王妃と第二王子。
孫とはいったい誰を指すのか?
該当しそうな年齢の者は席に着く謎の少女のみ。
だが二人は謎の少女がオルダーナである事を知らない。
となれば、残るは――
そう考えて二人はハッとする。
確かに、肉塊は王孫である。
王妃は咄嗟に王を非難した。
「陛下はっ、アナタは息子の仇をっ、バケモノを孫と呼ぶのですかっ!!」
「……仇? 町娘を
王に言われて周りを見れば、冷えた視線しかない。
王妃は困惑する。
誰もバケモノを恐れてはいない、謎の少女と侍女に至っては撫で回している。
「女。短剣か、酒か、選ばぬなら我が孫のイザークに任すが?」
「ヒ、ヒィッ。わた、わたくしは『ハデヒ王』の妹でしてよっ……」
「イザーク、その女を――」
「ヒィィ!! お待ちになって!! さ、酒を賜りたく……うぅぅ」
「イザーク、酒を頼む」
王の言葉と同時にテーブルへ酒杯が出現。
何とも
王妃は震えながら酒杯を手に取り、最後の頼みとばかりに涙を流して王へ媚びる。だが、その行為は火に油を注ぐだけに終わった。
王が侍従から
第二王子と商人が見つめる中、毒酒などきっと脅しだと願いながら、王妃は酒杯を一気にあおった。
カランと床に落ちる銀杯。
王妃の両眼がグルンと白目を剥く。
効くのが早すぎんかと苦笑するセゾン三世。
ビクンと体を震わせた王妃はそのまま倒れるかと思われたが、背筋を伸ばし、王と肉塊に一礼して玉座の間を後にした。
セゾン三世は何も言わず、冷ややかに元王妃を見送る。
それを見ていた商人は『やはり弱小国の王よ』と嘲笑を浮かべた。
王妃は隣国の王族、それを気にして死を与える事すら出来ない愚王。商人はこの城から出た後の報復を考え始めた。
商人とは対照的なのが第二王子アセン。
彼は去り際の母を注意深く見ていた。その赤い瞳と唇から覗く長い犬歯が彼の脳裏から離れない。
アレは母ではない。
城内で知らぬ者は居ない
いったい母は何をして父を激怒させたのか?
立ち去った王妃がイズアルナーギに何かされた、商人以外それは皆理解していたが、王妃がどこへ向かったのか知る者は少ない。
イズアルナーギと王、そしてオズゥとオルダーナだけが元王妃の行方を知る。
宰相アーライは代表してセゾン三世に問うた。
「陛下、『あの女』はどこへ?」
「フンッ。今まであ奴が喰ろうた『キノコ』を狩りにな」
「それはまた……心中お察し致します」
「それと、実家へ向かわせた」
「ほほう、ハデヒ王国に?」
それを聞いてギョッとしたのは商人。
何やら雲行きが怪しい。
生唾を飲み込み、そっと耳を澄ます。
「然様。あの売女、こちらの軍事機密と農作物の出来、さらに漁獲量や鉱石の採取量もハデヒに流しておった。証拠はイザークがたっぷり持っておったわ」
「くっ、道理で相場が……ふざけた真似をっ!!」
「アーライ、それも今日で終わりだ。ハデヒもイザークが蹂躙する」
「おおっ!! それはそれは、クックック。さて、あの国が幾日もつか」
商人は安堵した。どうやらただの夢想だったようだ。
王妃の間諜行為に気付いた事は驚いたが、その他は現実から逃避した妄言ばかり。報復の算段を考えた方がましだと判断する。
眼前の王と宰相はまだ妄言をやめない。
「して陛下、そこな下郎は
「ん? あぁ、そ奴は商売の知識が有るからな」
「なるほど。イザーク殿下のオヤツですか」
「腹を壊さねばよいがの」
ハッハッハと皆が笑う。
商人は
オヤツとは? 腹を壊す?
何が面白いのか分からない。
愚王の周囲は愚者ばかりかとゲンナリする商人。
ふと、横目で『息子』を見る。
彼もまた困惑しているようだ。
第二王子には通じない隠語なのだろう、商人は少し探りを入れたい。
さて
取り敢えず脚の激痛を我慢し微笑んでおく。
恐れる必要は無い、今は媚びるに限る。
商人の笑顔に何の感情も表さず、セゾン三世はアーライに呟いた。
「イザークに渡す前に、ケジメを付けねばな」
「陛下、つまりそれは……」
「ハァ、余は二十余年も他人の子を養育しておった」
「やはり……」
アーライは悲し気に王を見つめた。
第二王子以外の者は商人が居る時点である程度予想していたが、さすがに第二王子も気付く。信じたくはないが状況が推測を補強する。
口の中が急激に乾いていく、体の震えが止まらない第二王子アセン。
フと隣を見れば、商人が『大丈夫』と口を動かしていた。
コイツは阿呆か?
第二王子は『実父』を見て殺したくなった。
何を
この阿呆は今までの出来事を見ていなかったのか?
貴様の両脚はどうなった?
貴様の『妻』はどうなった?
次々と湧き上がる不満と不安に呼吸が荒くなる第二王子。
そんな
その際、息子とその家族も連れ帰り、後日ハデヒ王家の力を借りて、息子を次のポアティエ王にする算段である。
許し無く口を開くなと言われているので、仕方なく挙手し発言の許しを待つ。
それを見たセゾン三世はアゴ軽く動かし発言を許した。
「畏れ入ります。確かに、左に
再び絶叫を上げる商人。
今度は両腕の肘が逆に曲がった。
激痛どころの話ではない。
先ほどと同じように甲虫兵が商人を拘束し顔面を殴る。
コイツは何がしたいのか?
第二王子は頭痛を覚えた。頼むから大人しくしてくれ。
のたうち回る商人。
両腕の骨が折れた商人を見るセゾン三世は『おや?』と首をひねる。
「はて、まだ虚言を弄する前の段階で下郎の骨を折ったようだが……」
イズアルナーギの念話をまだ届けてもらえない王はオズゥに問う。
すると、オズゥが口を開ける前にオルダーナが答えた。
「陛下、あの者は陛下を脅して
「ほぉ……」
こめかみに血管を浮かべ、獰猛に笑うセゾン三世。
第二王子アセンはフルフルと首を左右に振り、商人は激痛と驚きで困惑していた。
セゾン三世が剣呑な雰囲気を出したところでオズゥが挙手。
王が頷き発言を許す。
「イザーク様が『もう食べた』から要らぬと仰せに。出来れば生かして帰すのが良いとの事」
「クックック、然様か。腹を壊さんように言っておけ」
「うふふ、畏まりました」
「商人よ、もう
「うぇ? あ、あぅえ、帰るっ!! アセンもっ!! うぇあっ、脚痛いっ!!」
「ちょ、待て、離せ貴様っ!! ちょっ」
近衛兵と甲虫兵に引き摺られて行く二人を皆が見つめる。
今回は何がどうなったのか分からない。
王に説明を求められ、苦笑しながらオズゥは語った。
曰く、イズアルナーギが商人の知識を
曰く、現在の商人はただの阿呆。
曰く、商人は財産の全てをポアティエ王に譲る。
曰く、第二王子一家は城内の記憶を全て失う。
曰く、商人とハデヒ王家の王族が接触すると、商人は爆発する。
最後のやつは酷いなぁ、一同はそう思った。
阿呆になった商人は財産を自らセゾン三世に差し出し、その後必ず隣国へ足を運び、いつの日かハデヒ王族を巻き込んで爆死する。
第二王子一家は極刑を
唯一助かりそうなのは他家から嫁いだ王子妃だけだが、城での記憶は全て失う。
イズアルナーギは祖父を困らせた存在に、軽く『メッ』をした。
モッコスはその優しすぎる主の天罰に股間をモッコモコにしたと後に語った。
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