制約

北川曜

第1話 神

 生きていて自分に疑問に思う事はないだろうか。自分は何の為にここに存在していて何を成し遂げようとしているのか。胸を張って公言できるだろうか。少なくとも僕はともできなかった。

 

 高校生になって一年間部活に入らず自分のやりたい事をしていた。とはいってもほとんどゲームでたまに勉強をするくらいだった。友達はできたと思う。こんな言い方なのは、学校で喋っても内容を家まで持ち帰る事ができないからだ。そのいっときは楽しくてもすぐに忘れる、いやむしろ楽しいかどうかも覚えていない。そんな色のない高校生活を送っていたら二年生になった。

 二年生になって最初の授業は進路ガイダンスだった。自分のなりたい将来についてまたそれを叶えるにはどうすればいいかをプリントに書かされた。やりたい事はなかった。だから書かなかった。違う、書けなかった。30分ほど経ったとき個々で書いた文を班でシェアするよう指示が出た。円を作り時計周りで渡していった。5分読んだら次へ、どんどん回し全て読み終わった。僕が読んだ計5枚のプリントにはしっかり夢が書き込まれていた。ある人は看護師またある人は学校の先生など、正直羨ましい。僕にないものをみんなは持っていたから、まだ何者になりたいのか決められない幼稚な僕は、プリントに名前だけ書き教卓に出しチャイムと共に教室を後にした。

 何もない1日は思ったより長く、意識だけはっきりしていても時間は早くは進まない、何も考えず黒板にコツコツと書き込まれる様を見ていた。

 放課、誰とも接する事なく帰路を行く。ずっと悩んでいた、僕は何者にもなれないのか。それとも何者でもないのか。心臓がいつもよりゆっくり動く、気だるく気持ちの悪いビートを刻む。もうダメだ、やるせない気持ちはどんどん侵蝕していく。僕はその場にうずくまった。少し休もう、そう思ったときちゃ猫が目の前を突っ切った。反射で顔をやった。そこには山の木々の間に長い階段があった。おかしい、この階段には身に覚えがなかった。僕は恐る恐る登ることに決めた。

 5分ほど登ったとき鳥居が見えた。大きくて綺麗な赤に染まっていた。へとへとになりながらも後少しと踏ん張りを見せて登り切った。目に映ったのは神社だった。しかしその神社は大きいとはいえ、前に賽銭箱があるだけで、神社で連想される手水舎や授与所などがなかった。不審にも思ったがそういう神社もあるんだなと割り切り前に進んだ。

 僕は賽銭箱の前に立った。いい機会だと思いこの頃自分が何なのかわからないこの気持ちを神とやらに解消してもらおうと思った。財布を取り出して500円玉を握った。何故だかわからないこの瞬間、今日何もできなかった、思いつかなかった僕に対して怒りと悔しさが沸々と浮かび上がって、それは僕の中で破裂した。僕は手に持っている500円玉を思いっきり賽銭箱に叩きつけた。中で乾いた音がした。力を入れ強張った感触のある肩を回した後手を2回叩き一礼した。「僕の願いが届きますように。」一応声に出してみて神社を後にしようと振り返ったとき、目の前に僕と同年代ぐらいのロン毛で肌が白く可憐な巫女姿の女性が立っていて僕を見つめていた。その雰囲気は無機質で存在そのものを疑うような透き通った空気が漂う。「おい、お前今のは何だ。」低い声で僕に問いてきた。「ただ願い事をしただけですよ。」女性は怒っている。何となくそう感じて丁寧に返答した。「金を投げつけ願い事だ。お前はそんなんで願いが叶うと思っているのか。」確かに良くなかったかもしれないが何故他人の俺にそう強く言ってくるのかわからなかった。「何なんですか。あなたが願いを叶えるわけでもないのに偉そうに、僕にも悪い点はあったけどそんなに強く当たることないじゃないですか。」ストレスをぶつけたことを人にとやかく言われるのはすこぶる嫌な気分にさせる。僕は強く女性に当たってしまいまた自分が嫌になった。そんなとき女性は頭をかきながらため息をひとつだし半ば呆れた声でいった。

 「私がここに祀られている神だ。」「は?」良くわからなかった。女性は何かに影響されたのだろうか。「はは、神っていないんですよ。ちょっと厳しいですって、うん。」「何か思い浮かべてみろ。今欲しているものを思い浮かべてみろ。」そう言われたとき僕の中で乾いた喉が警告音を鳴らした。ダカラが飲みたい。そう頭の中に浮かび上がった。そのとき「その願い叶えてやろう。」その女性が手を叩いたとき僕の手は確かにダカラを握っていた。これはマジックではない。僕は驚いた。非科学的存在が僕の目の前で確かに存在している。神はいるんだ。そのロマンの塊のような真実に興奮し鳥肌が立った右腕を手で優しく包みながら神に目をやった。神は変わった表情をせず僕を見つめながら言った。

 「お前に手を貸してやろう。」予想外の発言に僕は戦慄した。

 




















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制約 北川曜 @kitagawayou

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