凶暴な戦後の高校生達が異世界に行き、勇者や魔王達に喧嘩を売りまくったら……

グレコローマン・タカ

第1話 登場! ワシが男虎拳じゃい!

 ──ゴーラ国──


 聖カルテーヌ大聖堂ではいつもの様に修道士たちの朝の会が開かれていた


「新しい朝を迎えさせてくださった神よ、きょう一日わたしを照らし、導いてください。

 いつもほがらかに、すこやかに過ごせますように。

 物事がうまくいかないときでもほほえみを忘れず、いつも物事の明るい面を見、最悪のときにも、感謝すべきものがあることを、悟らせてください。

 自分のしたいことばかりではなく、あなたの望まれることを行い、まわりの人たちのことを考えて生きる喜びを見いださせてください。

 アーメン……」


「アーメン……」


「さぁ皆さん、朝食をとりましょう……あぁそうでしたね、サンディ……貴方にとってはここでの朝食は最後になるのね」


 マリー司祭は朝食の前で穏やかな表情で祈りを捧げるサンディという修道士に話しかけた。


「ええそうです……随分前から決心はついていたのですが……やっぱり寂しいですね」


「サンディお姉さま!」


 隣にいたマキという修道士がサンディの胸の中に顔を埋め、うっすら涙を浮かべながら別れの淋しさを吐露した。


「サンディお姉様……私は忘れません私が孤児になり此処へ預けられた時、不安で誰とも心を開けずにいました。それでもお姉さまが根気強く私に接してくれて私は……」


 聖カルテーヌ大聖堂ここは戦争やモンスター討伐など様々な事情で孤児になった者を預かる施設である。

 そこでは皆、奉仕活動、そして一般的な教育を受けられる。ゴーラ国では年齢が18になった者を成人と定めここで育った子供たちは、このまま修道士として生きていくか、何処か別の道に進むか選ぶのである。

 そして、サンディはヒーラーとしてギルドに就職する事を選んだのである。


「マキ……そんな顔をしないで、泣くことなんてないのよ二度と会えなくなるわけではないのだから」


 泣濡れた顔で見つめるマキにサンディはまるで聖母のような慈愛に満ちた眼差しを向け優しく諭す。


「お姉さま私、神様にお祈りいたしますわ……お姉様の新たな人生の旅路に幸在らんことを」


「マキありがとう、じゃあ私も神様にお祈りするわマキの泣き虫が治りますようにってね」


「まぁお姉様のイジワル」


「フフフ……」


「フフフ……」


 ──昭和30年日本──


「ワシは……髑髏ヶ峰高校総番、鬼嶋仁きじまじん言うもんじゃあ……貴様かぁ……最近、獄門高校の総番になった男虎拳おのとらけんちゅうんは……」


「おぅよ……ワシが正真正銘、獄門高校総番、男虎拳じゃい、髑髏ヶ峰の総番がワシになんの様じゃ……」


「ヘッ別に対した用は無いんよ……ワシも番になったんは最近の事でね……どうじゃ新人同士、腕試しちゅうんは?」


「ヘッあんたも好きだねぇ……おどりゃ誰に物こいてるんか分かっとんのか!! ぶちのめしたるわい!!!」


「男虎拳……たま取ったらぁ!!!」


 廃れた路地裏に2人の怒号が響き渡った。

 日本ではこの頃政府により『もはや戦後ではない』と言う宣言が発表される前年の事である。

 この年に日本のGDP(国内総生産)が戦前の水準を上回った年である。

 日本は徐々に戦後の傷跡も癒え始め高度経済成長の兆しが見えていた。

 しかし、問題は貧困の格差であった。若者たちは、毎日のように喧嘩に明け暮れていた。

 日本が豊かになっていく一方、まだまだ戦後の歪みの中に生きている若者も少なくはなかった。

 拳たち若者は大人に対しての不信感は戦後10年たった今でも拭い切れるものではなく、己の体の中にある爆発寸前の悔しさを発散せずにはいられなかった。


「オラ〜〜〜!!!」


 拳の右ストレートが仁の顔面目掛け飛んでくる


「うっ……」


 仁の体はそのまま1、2メートル程吹っ飛びそのまま仰向けになって倒れた所へ、拳は馬乗りの体勢を取りトドメを刺そうとするが、馬乗りになるより一瞬早く仁が両膝を曲げ襲いかかる拳の土手っ腹を突き上げた。


「ゴフ……」


 仁は脇に落ちていた角材を手に持ち、起き上がり様、拳の脳天目掛け思い切り振り下ろした。


「ど〜り〜や〜〜〜!!!」


「くっ……」


「なっ……!?」


 拳は角材を左手で受け、なんとか頭だけは守り抜いた。

(チッ骨がイカれたわい)


「ちぇりあ〜〜〜!!!」


 再び拳の右ストレートが仁の顔面を捉え、仁の鼻からは鼻血が滝の如く吹き出し、吹っ飛ばされながら後ろにあった電信柱に激突した。


「ガハッ」


「鬼嶋仁! 今度こそトドメじゃ〜〜〜!!!」


「フンッ」


「ギャッ」


 仁は自分の鼻血を思い切り吹き出し、拳の目に当たった。


「オラ!」


 視界を奪われた拳に頭突きをかます仁、しかし、拳はその攻撃に耐え、仁の後頭部を抱え込みお返しとばかりに頭突きをやり返す。

 仁も呼応するかの様に、後ろに倒れながら拳の後頭部をガシッと掴み頭突きを喰らわそうとする。

 拳は咄嗟に反応し向かってくる仁の頭突きを頭突きで迎え撃つ。

 そして……何度もお互いの意地比べの頭突き合い。最後はまるで示し合わせたように二人同時に大の字になり地面にどっと倒れた。


「はぁ……はぁ……ワレ……強いのぉ……」


 まず拳が話かけた、ボロボロになって体中に痛みが走る、しかしその声はどこか充足感に満ちていた。


「はぁ……ワレもなぁ……喧嘩でこんなにスッキリしたのは久しぶりじゃあ……」


「……こんなボロボロになってスッキリしたとはのぉワレ頭の打ち所が悪かったんと違うか?」


「フッ……アホぬかせ……」


「ハハッ……もう日暮れじゃのう……わしゃ、そろそろおいたましようか」


「拳よ」


「ん?」


「次はワシの完全勝利じゃい!」


「フッ……アホぬかせ」


 拳は仁に微笑を浮かべながら夕日に向かい家路を歩いて行った。


「母ちゃん今帰ったわい」


「お帰り……ハハハッまた随分とやられたんじゃね、アンタが喧嘩で負けるとはね」


「負けとらんわい、引き分けじゃい」


「へぇ〜……夕餉ゆうげまでに銭湯に行ってきんしゃい」


「あいよ」


 拳は馴染みの銭湯(松の湯)に向かった。


「う〜す」


「あら拳かい、いらっしゃい……ハハハッまた随分とやられたじゃないかアンタが喧嘩で負ける事もあるんだね〜」


「ま……負けとらんわい! 引き分けじゃ引き分け」


「へぇ〜そうかい」


「ん? 今日はワシが一番風呂か」


「そうなんよ……いつもならもう混み始める時間なんに……」


 夕暮れ時になるとどこの銭湯も人で溢れる。当然ここ松の湯も同じであるが何故か結界でも張られたように拳以外の客の姿がないのである。


「おばちゃん、ワシが気づかんかっただけで営業中と定休日の看板間違っとるんと違うか?」


「う〜ん、ちょっと見てくるわ」


「まったく相変わらずおっちょこちょいじゃわい」


 拳は誰もいない浴場に貸し切り気分で揚々と入っていった。


「茜流して もう日が暮れる〜

 胸の思いも つい燃える〜

 エッサホイ エッサホイ〜ってか」


 ──シュッ──


「海はギラギラ 船足遅い〜とくら……ん? アレどこじゃ此処は? ん? アンタ誰なん?」


 突然拳は全裸のまま見たこともない洋風の部屋に居た、そして目の前に頬を赤らめている金髪の少女が立っていた。


「ん? 金髪? もしかしてアメリカ人か? は……ハーイ?」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」










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