第5話 価値
「だいぶ涼しくなってきたね、もう秋かな」
「そう言えば、部活は上手くいってる?」
「そうなんだ!今度、コンテストがあるんだ」
「どう?上手くいきそう?」
「そっか、まだなかなか難しいよね」
「芸術は深いからなあ」
「ふふ、まあ私にはよく分からないけど」
「最近悩んでるのは、そのこと?」
「ふふ、わかるよー。最近、君の様子がいつもと違うもん」
「で、どうしたの?部活のことじゃないの?」
「え?勉強とかのこと?」
「君は中学の時から成績はよかったよね?」
「そっか、高校に入ってからうまくいってないんだね」
「運動も?」
「そうだね、昔から運動は得意じゃなかったよねー」
「で、それで落ち込んでるの?」
「まあ、勉強は高校に入って難しくなったってこともあるだろうし、そんなに焦らなくてもいいんじゃないかな」
「努力してるわけだし、少しずつでも成果が出てくると思うよ」
「ほんとにそう思うの?努力なんかしたって無駄だって」
「そっか。まあ、確かに努力がいつも必ず結果に結びつくわけじゃないけど」
「でも、君は一生懸命努力したから今の高校に入れた。違う?」
「もう少し長い目で見てみたら?結論を出すには、まだ早すぎるよ」
「え?君はほんとに、『自分に価値がない』なんて思ってるの?」
「かなり落ち込んでるねー」
「じゃあさ、『人の価値』ってなんだと思う?」
「ふふ、答えられないでしょ」
「だって、『価値』なんて元々ないもん」
「人ってさ、なんでもすぐ『価値』を作りたがるよねー」
「例えば学校だったら、『勉強と運動ができた人がすごい』みたいにさ」
「君はさっき、『勉強も運動もできない自分には価値がない』って言ったよね」
「でも、もっと広い視点で見てみようよ」
「確かに勉強と運動ができることはすごいと思うよ。だけど、それが全てなのかな?」
「『価値』は、人の勝手な妄想だよ」
「人それぞれ、得意なことは違う。君みたいに絵を描くのが得意な人もいれば、字を書くのが得意な人だっている」
「だけど、多くの人はそれすらも否定してしまう」
「それはすごく悲しいことだと思うんだ」
「それに、もちろん何も得意じゃない人もいるよ」
「でもね、何かが得意だから『価値』があるっていうのも違う」
「何においても『価値』っていうのは、人がつけたもの」
「他人と比較したり、物事の出来不出来で勝手につける。そんなもの、元々ないのに」
「私は、君の心がもっと自由であってほしいんだ」
「『価値』なんて人が勝手に定めたものにとらわれずにさ」
「どんなに立派で人から見て『価値』がある人でも、心が笑ってなければ意味がないんだよ」
「楽しければいいんだよ。自分の歩む道が、楽しくて素晴らしいものであれば、それでいい」
「だから、もっと自信をもって歩んでほしいな」
「ふふ、振り切れたんだ。それならよかった」
「もう行くんだ。塾の時間?」
「そっか、バイバイ」
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