第4話 写生
「夏休み終わってしばらくたつけど、まだ暑いねー」
「いつになったら秋になるんだろうね?」
「そう言えば、君は部活とか入ってないの?」
「そっか、入ってないのかー」
「中学の時も帰宅部だったもんねー」
「でも、高校では入ってみたら?部活」
「何か夢中になれることがあった方が楽しいんじゃない?」
「うん、確かにいきなり言われても、何の部活に入っていいのか分からないよね」
「うーん、そうだなあ。君の好きなこと、好きなこと……」
「そうだ!小さい頃、君は絵を描くのが好きだったよね!」
「覚えてない?よく二人で色々な絵を描いたの」
「桜の木とか、犬とか、公園の風景とか色々」
「美術部に入ってみたら?」
「ふーん、ビンゴみたいだね。『興味がある』って顔してる」
「そんなこと言わないで、入ってみなよー。別に上手くなくたっていいんだからさ」
「それに、小さい頃の君は絵が上手だったし」
「今だって上手かもしれないよ?」
「そうだ!今、描いてみない?」
「そんなこと言わないで、描いてみようよー、ほら座って座って」
「私も久しぶりに描いてみようかな」
「紙とペン、ある?」
「ありがと。さて、何を描こうかな?」
「よーし、じゃあ、あの三毛猫を描いてみようか!」
「ちょうど日陰で気持ちよさそうに寝てるし」
「うーん、なかなか難しいなあ」
「このへんに影をつけるか、うーん」
「そうだ。あの猫ね、近所の猫なんだけど、半年くらい前からよくここに来るんだ」
「寒い日はあんまり来ないけど、陽が出てる日は日向ぼっこしてて」
「暑い日は木の下の日陰で寝てるんだ。今みたいにね」
「猫ってかわいいな。そう思わない?」
「ふふ、そうだよね。君は動物が好きだもんね」
「よし、描けた!君はどう?」
「あっ、もう描けてたんだ。早いねー」
「どう?私の絵」
「個性的?あはは、何それ」
「君のはどうかな?」
「おー、やっぱり君は絵が上手だねー」
「本格的な感じだ」
「ふふ、楽しくなってきたね。次は神社、描いてみようか」
「うーん、これはけっこう難しいなあ。細かい描写が多くて」
「そう言えばこの神社ね、私が生まれるずっと前からあるんだって」
「だけど、人は誰も立ち寄らない」
「その理由は、この近くにもっと大規模な神社があるからってことと」
「あやかしがいるからって理由でみんな怖がっちゃってるからなんだよね」
「まあ、私の姿は人間と同じだから、私を見ても怖くないだろうけど」
「まあ、そのおかげで人目を気にせずのんびりできるんだけどねー」
「それに、君と二人でこうしてのんびり写生ができるのもそのおかげ」
「私は、君と一緒にいる時間が楽しいんだ」
「ん?君も?ふふ、嬉しいな」
「さあ、描けたよ!君はどう?」
「やっぱりもう描けてたんだ、相変わらず早いねー」
「私のは、どうかな?」
「よかった!今回のはけっこう自信あったんだ!」
「君の、見せて」
「上手だねー。さっきも言ったけど、本格的な感じ」
「美術、向いてるんじゃない?」
「懐かしいなー」
「実は、君が小さい頃に二人でこの神社の絵を描いたことがあるんだ」
「小さい頃の君の絵は、夢にあふれてた」
「今の君の絵は、絵を描く楽しさであふれてる」
「どっちもすごく大切なことだと思うよ」
「今、絵を描いてる君の横顔は、ほんとに楽しそうだった」
「だから私まで熱を入れて描いちゃったよ」
「そんなに夢中になれることなら、やってみてもいいんじゃない?」
「そっか、やってみようと思ってくれたなら、よかった」
「根詰めないで、楽しむってことを忘れないでね。今みたいにさ」
「ああ、楽しかった!また一緒に写生、しようね!」
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