赤 ガントリーナは笑い続ける 4

2.出発前(2)

 

 この世界の話をしよう

 等織理王叶はかつて、至極高等学校の生徒会長であった。

 この世界においては学園は国だ。学生が主体の学園国家が複数入り乱れているのが今のヘブン。

 だが国があれば争いは起こる。他校間との間においてその争いを諌めるもの。それがアームヘッド競技だ。

 力を持った若人。それらを取りまとめるのが大学園国家「転王輪学園てんおうりんがくえん」及びその理事長「転王輪全統てんおうりんすべすべ」だ。

 そしてかの学園を含む「せんとギルバニアハイスクール」、「鉄弩級でっどきゅう工業高校」、「菩提ヶ原ぼだいがはら高等仙術学校」。この4つが四天王とされるアームヘッド競技強豪校なのだ。

 転王輪学園は優秀な生徒の引き抜きを行い、王叶は交換留学生として通っていたのである。

そして至極高等学校は中堅クラス。留学の拒否はできるわけもなく、あの学園へ行ったのであるのだが.....。

 紆余曲折あれど母校への凱旋。懐かしのマイルーム、そう、寮の自室である。

 その中で一人、物思いに耽っていた。

「ああああああああああああああああああっ!」

 ……というよりも、いじけていた。

「やっぱり言い方、よくなかったな...」

『主。落ち着いてください』

「そうは言ってもさあ....」

 部屋の窓からなだめる巨大ロボ。シュールだ。なにがあったのか。話は少しだけ遡る。


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 部屋からでてきた男。見たところただの男。 そのせいでむしろどこからどう見ても怪しい男。

「うちの至極高等学校の卒業生。または謎の人と言われてる人」

「あははは.....、僕はただの管理人だよ」

あっさり出来た答え合わせ。警戒体制を緩める。

 それにしてもなんとも言えない笑顔だ。安心感を与えるようで何を考えているのか。そもそも考えてないのかも全くわからない。だが敵意は少なくとも、ない。

 王叶の中に期待が籠る。仕方がない。目の前に人がいる。事実がある。

「あなたがいるってことは、他のみんなも?」

「そのことなんだが.....、すまない」

 しかし宙に放たれた言葉は、やはりとでも言うべきもの。

 管理人も少し顔に影が籠る。

 当たり前だ。いきなり一番口に入れたくないものを無理やり入れられたら誰だって嫌なものだ。

 だからといって一言で済ますことができるわけがない。そんな言葉で返されたくないこともまた事実。

「.....ああ。そう、なんですね。どうしようもなかった。そういうこと、なんですね?」

「その…、なんだ....」

「いや、別に責めてる、ってわけじゃないです。ただ....、色々聞かせてもらってもいいですか?」

 つい当たりが強くなってしまう王叶。でもこれは当然の権利だ。この学園の長として、知っておくべきことだ。それが例え分かりきっていることだとしても....

 それに応えるように管理人は答える。

「わかった。改めてまずは謝罪を。本当に申し訳ない。

「私、別にそこまでは言ってないですよね?」

「聞こう、王叶。割とこの感じは本気まじだ」

 重い。先ほどとは違い優しい顔は崩さないものの、明らかに空気が変わった。

 だが管理人は話を続ける。

「この学園の住人は消えた。霧のように消えた。それはこの世界で起きていたこと。大人たちはみんなわかっていた。ずっと昔からだ。でもどうすればいいかわからなかった」

 与えられたのは衝撃だった。心が、痛い。逃げたい。聞きたくない。

「知っていても忘れる。君のように誰もが。だから転王輪全統は全てを統べていた。この世界の王はあの爺さんだよ」

「いや、はあ?あなた、何を言って.....」

「黙って聞くんだ王叶、お前はここの長だったんだ。嫌でも聞き流してでも最後まで聞くんだ」

 ルグルフェンの言葉は正しいかはわからない。でもたとえ国の長だからと言っても、10代そこそこの女の子が聞いて耐えられるものかどうかは別だ。

「本来あそこにいくべきだったのは君と.....彼、だったね」

「その彼、と言うのは私は知りませんけど、確かに候補者は2人。急に消えて、その後の消息は」

「わからないだったね。生徒は全員消えた。そして記憶からも消える。きっと彼も例外じゃないさ。モノクロになったのは、人が消えたのは君が出ていって間もなくだった」

「っ!出ていったわけじゃないッ!」

「だとしても、だ。引き抜きはモノクロになるところから行われる。直前に出て行った者など裏切り者としか扱われない」

「で、でも、この事態を.....大人は知っていたのでしょう?なのになんで.....なんでなんでなんでッ!なんの対策もしなかった!あなたは腰抜けだ。なんで、なんで一人ひょっこり生きてられるんですか!」



「使命があるからだ」


 強い意志を伴った言葉。圧倒された。

理屈なんてない。王叶の言い分の方が正しいのかもしれない。でも、たとえそうだとしてもそれを捻じ曲げるほどのもの。

「大丈夫だ。みんな、誰も君を裏切り者だなんて思ってなどいない。事実も全て話したさ。そしてその上で皆が受け入れた。君が王として世界を救ってくれると。それはきっと彼もそう思ってる」

「はあっ!?なんなんですかそれはっ!?て言うか結局彼って誰なんですかっ!?意味がわからないっ!知らないっ!もういいです、聞きたいことは大体聞けた!部屋はまだありますよねっ!勝手に休ませて貰います!」

 勝手がすぎる。あまりに突拍子もなことを言われ、なんだか調子が狂う。確かに王叶は王になると言った。確かに言った。

 だがそれはあの時勢いで言っただけだ。

 そもそも王とはなんだ。なんなのだ。そんなものおとぎ話の中だけの存在だ。

 もうなにも、なにもかも今は、今だけはどうでもいい

 休みたい。ただその一心だった。

「待て王叶、勝手になんかじゃない。至極高等学校生徒会長等織理王叶、君の部屋だ。鍵を持っていけ」

 投げられた部屋の鍵をしっかりとキャッチする。

「しっかり休め。今はそれでいいんだ。そして少しずつ受け入れろ。君が王になることを」

 だがその言葉はズカズカ歩く王叶の足音によって届いているかどうか怪しいものであった。

「主が、王叶がすまない」

「謝ることなんか何一つないさ。さっき謝ったけど、本当に謝るべきは僕の方なのが事実なんだよ、エヴォリスくん」

。「エヴォリス」。

確かにルグルフェンはそうだ。

このヘブンにしかいない別世界の生命体。だからこそ、その一言はあまりにも大きかった。

『ん?何故貴方がエヴォリスをご存知なのですか?』 

「ああ、それは簡単だよ。だって君たちを作ったのは僕、いやそれじゃちょっと偉そうだな....、正しくは僕等なんだ」

「な!?え!???な、な....なんやてええ!?」

『なんとまあ。....もしや貴方は?』

「まあそれは置いといて」

「置くな置くな置くな置くな置いていくな!そんな重そうなもの持ち上げたくないのかもしれないが今一番大事な話じゃないのかそれは!?」

「いや、一番ではないのだけは確かだよ?」

「そうだとしても雑ぅ!雑すぎる!もう少し丁重に扱えやあ!」

 なんなのだろうか。この人は。確かに謎の人と言われるだけのことはあるのだろう。いや謎というよりもむしろ変の方が合っているのではないのだろうか。

「時間がないからさっさと済ませるよ。どうせいつか知るんだから別に良いんだよこのことは」

「ワイらのことよりも大事なことってなんだよ

「機神はこの世界を救えるってことだよ」

「あー、なるほどそりゃ大事だ....とはならないからな!?」

「あとは....、等織理のことをしっかりと見といてやってほしいってことかな。彼女は放っておくと危ういからね」

『でしたら某は主のところへ行ってきます』

 でかいからあんたじゃ部屋まで行くのは無理だろという突っ込みを言う前に、シャスティークは外側から回り込んで行った。


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「ねえ、私は、どうしたらいいと思う?」

 言葉が欲しかった。ずっと嘘と共に生きていたんだ。忘れていた後ろめたさもないわけではない。

 とにかく今は信じられる何かが欲しかった。

『厳しいようですが、それを某に聞くのは間違いかと』

「どうしてさ」

『某は、道具です。アームヘッドという、機神という道具なのです。それに操られるようでは意味がない』

「それって王はどうとかってやつ?」

『まあ大体は。王叶殿、貴殿なら大丈夫です。某がいます。それに....』

「それに...何?」

『あのルグルフェンもなんだかんだ必ず力になろうとするはずです。いやむしろ某よりも心強い存在....かもしれないですね。認めたくないですが』

「ふふっ.....やっぱ、わかんないや」

『同感です』

 少しだけ王叶の気が晴れた。だが、だからこそ、ふと落ち着いたからかこそ思う。

「....そのままにしてきて大丈夫だったかな」

『なにがです?』

「ルグルと管理人さん」

 謎の生き物とよくわからない掴みにくい人、この二人だけにしてしまったことだ。

「噛みついてなきゃいいけど....」

『まあ狼ですしねえ』

 そう冗談を言いながらも、どうにでもなるだろうと二人して部屋で待つ。

 だがしばらくして.......



「っ!!!!!!!なにこの音!????」

『戦闘!?まさかあの二人が?!?」


 銃声とそして断続的な光が始まる。

 

 安息は安易と砕かれてしまった。


 




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