赤 ガントリーナは笑い続ける 1

プロローグ


 従者とはどうあるべきなのか。いつだって彼は考えている。

 主人を立てることが正解なのか。それとも時に主人に歯向かい、諫めることも正解か。

 そんなもの誰にわかると言うものか。

 今わかることなど、また朝がやってきた、ただそれだけである。

 そして朝が来たのなら彼がすることは一つ。

「お嬢、朝になります。今日は小テストです。早くご登校を」

 それは主人を起こすことだ。彼の1日はここから始まる。

「ええ、おはよう。ですがちょっと待っていただいて?」

 ドアの向こうから声がする。

 主人とは大体支度に時間がかかるものだ。多分そうだ。だから部屋の前で待つ。これは従者ならば当然のこと。男なら尚更。どんなことがあったとしても向こうから呼ばれるまで...、いや、もし呼ばれたとしても、それが本当に一刻を争う緊急でなければ入ってはならない。

 従者とはそういうものだと彼は考えている。

「これでよし。ご機嫌よろしくってよ、謝梨」

 出てきたのは巻かれたカールがそのまま空間に突き刺さりそうなほど見事なドリルを二つ携えた金色の髪を持つ少女。

 アームヘッドを用いた競技において四強と呼ばれる「聖ギルバニア学園」。その理事そして生徒会長を勤めるロールシャッハ家。

 その娘の一人であるガントリーナ=ロールシャッハ、それが彼女の名前だ。

 そしてその横で兎にも角にも従者従者している少年の名は「須磨梨謝梨すまなししゃなし」。

 たわいのない会話、決まったルーティン。何度繰り返したのだろうか。

でもこれが彼女たちの日常。

 ちなみに二人の歳は同じであるが、立場はわきまえる。

 これもまた従者であろう。

 もうとりあえず、須磨梨謝梨はどこからどう見てもどうしようもなく例え天地がひっくり返ろうと、従者なのであった。

「あら、あの方。今日はお休みですのね。めずらしいこと」

「どうやらそのようで。体育のペアが一組減りますね。お嬢。今の間に級友に声掛けをなさってはいかがで?」

「うっ...。よ、余計なお世話ですわ!その時になればどうにかすればいいのです!」

「いくら自分の地でないからと言って、上に立つものが他者とお話ができなくては、全くもって話になりませんよ」

「そ、それは…、そうですけど」

 だが変わるものもある。変わってしまったものもある。

 母校ではない転王輪学園において、彼女は、お嬢は、ガントリーナ=ロールシャッハは、極度の人見知りであった。


 

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