青 私は王叶だ 8
3.戦闘、これはチュートリアルです 2
戦いの流れが変わる。先ほどとは打って変わり、王叶からも攻めるようになっていた。
「キミ、思ってたよりもとても親切なんだね。その親切ついでにさ、顔くらい見せてくれもいいんじゃないかな?そっちはこっちのこと見えるみたいだし、これは不公平だよ?」
「残念ながらそこまで親切にする義理はありません。ですが...、見たいのでしたら、あなたも覗けばいいのです。まあ、出来ればの話ですが」
「そっか。掛けてるんだね、鍵。いくら頑張っても見えないわけだ。じゃあさ、せめて名前だけでも」
「それでしたら。____紫の機神、サークルラプターになります」
「そっちじゃないんだけどなぁ...」
機神同士の戦いは激化して行くが、会話は本当にそれであっているのかわからないような中身。
余裕があった。それどころか「戦うことが楽しい」と王叶は思い始めていた。
思うように動く手足。なんとも素晴らしい。
ちょっとした全能感が彼女の中を駆け巡っていた。
「あ、主?ちょっと...、落ち着かないか?」
「キミは黙っててルグル。今さ。すっごくいいところなんだ」
出した言葉が一蹴される。それはまるで親の言うことを聞かない子供。
よく言えば自由気まま。悪く言えばわがまま。これが本当に等織理王叶なのだろうか。
ルグルフェンには、わからなかった。
「等織理王叶。あなたに話があります」
「なに?急に改まって。あんまり馴れ馴れしく呼ばないでほしいな」
冷たく突き放すように放たれた言葉。だが相手はまったく気にしていなかった。
「簡潔に言いましょう。見ての通り世界は滅びかけています」
「うん。そのようだね」
世界から色が消えている。滅びかけているなんていう話も納得出来る範囲のことである。
「この世界がおかしいことは見ての通り事実だね」
「だから端的に言いましょう等織理王叶。あなたには王としてこの世界を救っていただきたい」
それはあまりにも漠然としたことだった。こんな話、真面目に答えるバカはいないだろう。
「なにそれ?」
これは当然の反応だ。誰だっていきなり乗っかりはしない。
しかし相手は真剣そのものだった。
「あなたには王の資格があります。だから____」
「ねえ、そんなつまんなさそうな話よりもさ、もっと戦おうよ!私はさ、もっともっともーっと!この力を試したいんだ!」
だが等織理王叶には、何も聞こえていなかった。戦うことに夢中だ。それ以外に目が行っていない。
むしろわけのわからない提案をしてきた相手よりも、今の彼女の方がはるかに危険だった。
「あ、でも戦ってくれるってならキミの言う通り、王になるのもありかも知れないなあ」
だから、ルグルフェンは_____
「主、いや王叶!いい加減にしろこのバカ娘がぁ!」
力の限り王叶を引っ叩いた!無論加減はしたが。それでもかなり痛かったのだろう。
「ンナァ!?何すんだよルグル!痛いじゃないか!」
突然のことに驚く王叶。無理もない。だが何も言わせない。そんな意志でルグルフェンは言葉を吐き出す。
「黙れバカ!簡単に力に溺れてからに、ほんっとバカ以外の何者でもねえ!バカっ!」
「ど、どうしたの急に?て言うかそんなにバカバカ言わないでも良いじゃないか!」
「どうしたのはこちらのセリフなんだよ!バカにバカと言って何が悪か!」
「本当になんなの!?」
「ワイはバカで寝坊助で頭良さそうにしてて、でも抜けとるいつものお前はどこに行ったかって聞いてるんだよ!」
「ちょ、ひどくない!?いつもそんな風に見てたってわけ!?」
「そうだよ。ほんっとなんでこんなやつをワイは主などと。_____でも、」
「でも何?なんなのさ?」
「やっぱ、なんでもない」
「なにそれ」
ひとしきり吐き出したあと、ルグルフェンはかなり落ち着いていた。
もう少しで何か恥ずかしいことを言ってしまっていたかもしれない。
そんななんともいえない雰囲気が等織理王叶にも伝わったのだろうか。
彼女もまた、気が抜けてしまった。自然と落ち着きが戻っていた。
「ありがと。ルグルフェン」
「別に。従者として当然」
「お取り込み中すみませんが、私からの提案、考えていただけますでしょうか」
空気の読めない敵なのか。それともこちらが悪いのか。どちらかはわからないが、まだ例の件は片付いていなかった。
「ねえ、キミの話なんだけど。私には王の資格?が、あるんだよね?それで世界を救って欲しい、と。具体的には何をすれば良いのかな?」
「あなたのシャスティーク、私のサークルラプターに加え、残り二体の機神を手中に収めれば」
「後は自ずとってことかな。あやふやだね」
「主、やはり胡散臭いぞ」
いくら機神が万能だからといって、これではあまりにも、である。
「ねえ、キミの目的って何?」
「あなたに王として世界を救っていただくことになります」
だがその言葉が王叶にとって決め手になった。
今、目の前にいる相手は、信用できない。
「______そっか。うーん。それだったら私は、____私のために王様になりたいかな」
「今?なんと??」
驚きを他所に勝手に話を進める王叶。
「少し思い出してきたよ。そう。私は王叶。等織理王叶」
その声は、その言葉は一つずつ何かを確かめるかのようで。
「この至極高等学校の生徒会長」
「そうでしたね。でも今のあなたはただの王の資格を持つだけの者。学園という国を持たないあなたに_____」
「黙れ」
またも一蹴。でも、今度は違う。大事なものがある。そのための言葉。
「はっきりと言わせてもらおうかな。私はキミのための王様になんてなりたくないってことをさ」
「理由を聞かせて頂いても?」
「キミが私の仲間になる気なんてさらさらなさそうだから?かな」
「そんなことはないのですが...」
「ねえ、ルグルフェン。それにシャスティーク。私が王様になるって言ったら、キミたちはついて来てくれる?」
「何をいまさら。ワイは貴様に従うしかないのを分かっているくせに」
『某は契約済みにつき、貴殿の命が尽きるまで付き従います』
「だそうで。こっちは決めたよ」
流れは、完全に王叶が手にしていた。
「だから、キミもさ、決めなよ。_____今ここで私に従うか。それとも私を従えるか」
それは威圧。常人には到底出せないであろう荘厳な威圧。
今この時、等織理王叶は、紛れもなく「王」そのものであった。
誰も言葉が出せなかった。
「______そうですか。こういうこと、になりますか。なら仕方ありません。今回はあなたを諦めます」
無音を切り裂くのは名も知らぬ相手。でもこちらのことは知っているかのような思わせぶりな話し方。
「ですがあなたは機神を集める以外に道はありません。なにせこの学園、復興させたいのですよね」
王叶たちの背後に広がる光景。誰かの、彼女の生活があった場所。こんなことになっているなんて一切思っていなかっただろう。
「な、_____なんで、それを...?」
「おい、主。一体どういうことだ!?」
どうやら初めて聞いたようだ。いや実際のところついさっきまで本人が忘れていたのだから聞いたことがないのは当たり前のことでもあるのだが。
「その程度のこと機神を用いれば容易いということです。それに、もっとも素晴らしいことだって。いずれまた戦うことになるでしょう。その時までにもっと機神を使いこなしておいてください。はっきり言ってあなた、まだまだ下手くそです」
ここまでの物言い、やはり初対面とは思えない。
「やっぱり?それにしてもキミ、私とどこかであったことある感じだね。最後に名前くらい教えてくれないかい?」
「ではまたお会いしましょう。その選択、せいぜい頑張ってくださいね」
どうやら答えたくないようだ。王叶たちをここに連れてきた時と同じように空間を切り裂き、紫色の機神は帰っていく。
それをただ見ているだけしかできない。やつが言うように機神を集めるのなら、チャンスだったであろうに。
でも出来なかった。今動くのはかなり危険だ。
紫の機神「サークルラプター」、そしてその乗り手は強い。本当なら嘘であってもやつの提案を飲んだ方が正しい。
でもそれだけはどうしても等織理王叶が許さなかった。ただそれだけのこと。
はっきり言って情報も力も何もかもが足りない。それでも進むしかない。
「ねえ」
「なんだ、主?」
「とりあえずこれからどうするか、考えよっか....」
「それも、そうだな...」
『某もそれに賛同です』
こうして多くの謎を残したまま、戦いは終わりを迎えたのだった。
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