青 私は王叶だ 6

2.逃走にダイナミックさはいらない 2



 その場にはたった一人だけだった。

「オーゼ、想像以上だよお前が選んだあの子は」

‘‘それはよかった。前から目をつけていた甲斐があるというもの’’

  彼女もまた見えない何かと話ができる。その様は不気味と人に言われても仕方がない。

 幸い、ここには彼女以外誰もいない。あるのは無数に輝く石だけだ。

「天願、君が出ていくというのかい」

“そのようだな”

「まったく...。本当に想像以上だよあの子は....」

 空いた穴からかなりの風が吹き込んでいるにも関わらず、逢世は気にもしなかった。

 揺れるのは髪だけ。何一つ彼女にとっては問題にはならない。



***********



「落ちてるっ!落ちてるよぉ!!」

「な〜るほどぉ、学園は空の上にあったのか!」

「冷静な観察はいいからっ!今はっ!どうすればいいか!とにかくルグルも考えてっ!」

 そう!とりあえず壁を壊して逃げればいいだろうなどと考えた王叶の突発的行動によって、二人は絶賛空をダイビング中である。

『ご安心を。某の中にさえ居れば安全です』

 どこからともなく声がする。降りかかってくるかのように。

「「誰っ!?」」

『某は某です。青の機神、シャスティークにございます!』

 シャスティーク。契約した機神。アームヘッド。話せることにも驚きだが、そうとなると話は早い。

「ねえ!シャスティーク!飛べる?」

『貴殿がそれを望めば。ですが今は無理かと』

「何それっ!?」

 なんなんだこいつは?と思いたくなる王叶であったが、どうやらそうもいかないらしい。

 ルグルフェンが何かに気づく。

「おいなんか学園の方から飛んでくるぞ!あれはどうする!?」

 ラクストル。転王輪学園が有する飛行アームヘッドだ。そしてどう考えても助けに来たという雰囲気ではない!向こうはこちらを確認したと同時に攻撃を始める。

 落としに来ていることは明白だった!

「ねえ!シャスティーク!戦える?」

『貴殿がそれを望めば。ですが今は無理かと』

「ふざけんなぁぁぁぁ!」

 一体全体何なのだこれは?「なんでも出来る」、そんな気がするのに、「何も出来やしない」。わけがわからないものを摑まされた。そんな怒りを込めながら王叶は叫んだ。

 その時である!

「その機神の言うとおりです!貴方はまだ機神のなんたるかをわかっていない!」

 声の方を見やる。それはまた別の機神であった。色は紫。右手の手裏剣を回転させながら飛んでいた。

「今度は何!?何者!?」

 だがその質問をよそに、その紫の機神はあっという間に敵を片付けていた。

 王叶は咄嗟に落ちたラクストルに目を向ける。どうやらオートパイロットだったようだ。そして怪我人が出なかったことが彼女を安心させた。

 自分の入っているシャスティークは未だ落下を続けているのではあるが....。

「さて、片付いたことですし、安全なところで話をしましょうか」

 紫の機神からその言葉が放たれたと同時に、右手の手裏剣が投げられる。だがそれは王叶達を落とすために投げられたものではなかった。

「なんでえ、外してやがる」

「いや、これでいいんですよ、オオカミくん」

(____え....?あいつはルグルフェンを認識できている?)

 驚くべきことはそれだけではない、外したかのように思っていた手裏剣は何もない空間を切り裂き穴を作り出した。これが目的か。

 正直何が起こっているのかわからない。王叶は今、目の前で起こっていることを整理して全力で飲み込もうとした次の瞬間.....。

「あ゛あ゛あ゛あああぁぁぁ!!!!」

 鈍く重い衝撃が走った。


 痛い。


 衝撃が、シャスティークにぶつけられた痛みが、まるで自分のものかのように身体中を襲う。

 どうやら相手は胴体に蹴りを入れてきたらしい。考える暇も与えてくれないのだろうか?

「手荒な真似をしてすみません。ですがこれは重要なこと。体感していただく方が早いかと思いましたので。では、このまま安全な場所まで運ばせていただきますね」

 蹴られた先は切り裂かれた穴の中。

 そして抜けた先には王叶にとって懐かしい光景が待っていた。

 でも、一点。そう、たった一点だけ違うことがあった。だがそれが最も大きな一点だったのならばどうだろうか。


 王叶は、自分の目を疑った。


 なにせ視界の先には、まるでモノクロ写真の様に白と黒しかない世界が広がっていたのだから...。





 



 

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