青 私は王叶だ 5

2.逃走にダイナミックさはいらない 1


「こいつから仲間の反応がする。いや、でも、さっき感じたものとは少し違う。もっと何か固まったようなものを感じたのだが....」

 少し落ち着きを取り戻したからか、ルグルフェンはここに降りるきっかけにもなったことを思い返していた。

 どうやらその答えが今目のまえにあるシャスティークと呼ばれたそれではなかったようだ。だとしたら一体なんだというのだろうか。

 当の機体は武器をぶら下げ、ただ前だけをまっすぐ見つめることしかできない人形のように佇んでいる。

「触れてみるといい。もし君が適合者ならそれに乗ることが出来る」

「乗るって、どこにそんな入り口が?」

 そうなのだ。これはおそらくアームヘッドの一種であることは間違いない。でもどこにも入り口が見当たらないのである。

「センパイ、胸のクリスタルです。そこを触ってください。そしたら全部わかります。さあ、早く触ってください」

「天願、今日はいつになく押しが強いけど何?どうしたの?とりあえずこれね。これに触ればいいんだね?」

「主。そんな簡単に触っていいものなのか。せめてワイの答えの疑問を片付けてからでもいいのではないか。どう考えたって怪しいというのに」

 ルグルフェンが止める。


 でも彼女は止まらない。


「でも、多分こうしないと何も始まらないよ。キミを助けたときだってそうだったでしょ」


「____それは」

 言葉に詰まる。


「それにさ。キミは私の従者なんでしょ?その辺、そろそろわかっておいてくれると、私的には...、嬉しいかな?」


 ああ、何も言い返せない。本当に敵わない。


 だけれども、なんだかこの感じが、ルグルフェンにとってどうしてかとても心地がよかった。

「ワイは別に好きで従者やってるわけではないのだが...。だが、まあ、そういうやつだったな。よし王叶、さっさとやってしまえ!」

 照れ隠し混じりの感情と言葉。それを受け、王叶はコアに優しく触れた。

 その瞬間ものすごい量の情報が濁流のように彼女の中に流れ込む。


 それは悲しみだった。多くの者を犠牲にしたという深い悲しみ。


 それは意志だった。動き出し自らの正義を貫きたいという強い意志。


 まるで小さなコップになったかのようだ。収まりきらない。あふれ出しそうになるほどの思いを、等織理王叶は受け止めた。

 そして彼女が目を開けると、そこは広く無数の星が輝く宇宙のような空間だった。

「____適合。いや、それを通り越し契約まで!?素晴らしいっ!素晴らしいぞ等織理王叶ぁ!!!」

 外で何か言っているのが聞こえる。だがしかしあのような体験をした今の彼女にとってはその程度のことでしかない。

 それに奴は、極盛逢世は....。

 本当に触れたらわかった。たしかに等織理王叶はわかったのであったが...。

「ねえルグル。キミ、見たかい?______て!うわぁああああああ!?なんで実体化してるの!?」

 目の前のルグルフェンは本来の大きさに戻っていた。

 彼女の平坦な胸よりは下くらいか。小型とはいえ、それなりに人と同程度くらいだ。

 だがこの状況に驚いている場合ではない。

「ああ、見えたよ。あとどうやらワイはここなら自由になれるらしい。といってもあまり派手には動けないが...。で、これからどうする?」

「決まってるじゃないか。もちろん...、とんずらるよ!」

 王叶が右手を動かす。なぜかはわからない。だがそうすれば動くような気がした。

そしてその勘は当たっていた。王叶が手を動かしたのとまったく同じように、シャスティークは右手に持っている剣を振り回し、壁に大きな穴を開ける。

 それこそ機神はもう彼女の手中という事実を表していた。そのことに極盛逢世が気づいた時には、既に遅し。

「何をしようとしている王叶!」

「えっと...。あなたとは多分仲良くできそうにないので。だから逃げますねってだけの話です。あぁ、あと、気安く名前で呼ばないでいただけます?」

「そうか。君は敵に回るということか。では勝手にするといい。しかし、逃げ回れる場所がこの世界にあればの話だがね」

「それって?」

 とてもひっかかる言い方だ。極盛逢世はまだ何かを隠している。

(天願はどうなんだろうか)

 ふとそう思った。だからこそ逃げ出すその瞬間、王叶は彼女の方を見た。

 最後に見た後輩の顔は、とても申し訳なさそうな、不安そうな、だけど希望を持っている、複雑な混ざり方をしていた。

 それがとても気になってしまったが、この場から離れることを何よりも優先しなければならない。

 ひとまず彼女を敵と考え割り切った王叶は、機神と共に穴から地上へと飛び降り______

「「え!??」」

 驚きは悲鳴に変わり、勇ましさが高さと共に落ちていったと、そう、天願司は感じたのだった。






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