青 私は王叶だ 2

1.はじまりの出逢い 1



時間は過ぎてあっという間に昼餉、校舎の屋上。

「あーあ...。キミのせいで放課後居残りじゃないか」

「ワイに言うな。それにな主よ。そもそもそういうのは個人の努力であってだな____」

「待って。長くなるよね?それ」

「せめて聞く姿勢だけは持て...」

 二人で話しているように見えるが、実際には片方の声、ルグルフェンと呼ばれる者の声は聞こえていない。

 つまり一人でぶつぶつと話しているようにも見えるわけで。

 これを誰かに見られるのはそれなりにまずいと思われるのだが、今の彼女にはそんなことはどうでもいいことのようだ。

「あーもう最悪。なんのためにこの学校に来てるんだか....」

「ほお、ちなみに、なんのためにだ?」

「えーっと。なんでだったっけ?」

「てんでダメだな。なぜワイはこのような者を主人などと....」

「はぁ...、これのせいでしょ?」

 取り出されたのは少し大きめのペンライトのようなアイテム。だが見てくれに反してかなり厄介な代物だ。

 それは繋ぎとめるための延命具、または超がつくほど強力な首輪。その名は『ヴァークスパーク』。

 そもそも彼、ルグルフェンはこの世界の、惑星ヘヴン由来の生き物ではない。

 種族名『エヴォリス』。彼は自分のことをそう言った。

 その見た目はこの世界特有の半機械生体兵器『アームヘッド』を構成するパーツとよく似た身体をしているものの、それをそのまま小さくしたようなもので、種族としてはそれなりに小型の部類なのだろうと見て取れる。

 だがこの世界において彼らの種族は異物。それゆえにヘヴンではその身を保つことが困難であった。

 彼は今、この世界で生きるためにも、そのヴァークスパークに収容されているのだ。ちなみに故郷へ帰る手立ては一切ない。

 そして厄介なことにこれがある以上、ルグルフェンは王叶を主人として従わなければならないのである。そのふざけた設定の解除方法も分からない。


 まあ、不満が無い、わけでもない。


 しいて挙げるとするなら、自由すぎるところを直して欲しいぐらいのものである。

 王叶の方も同じく、ルグルフェンのことを厄介とは思っていない。この学園で話し相手がいてくれることは正直嬉しいと考えているくらいだ。問題があるとすれば____

 このヴァークスパークを貰った記憶はあるものの、誰からもらったのかを王叶が覚えていないことだろう。いずれにせよ目を向けるべきは今のこと。

 この昼休みをうまく活用し、とにかく再試の勉強を。

 だが二人しかいない屋上に突然、一陣の風が吹き荒れる。

「あーっ!やっと見つけましたよ!王叶センパイ!」

 それは一つ下の後輩、天願司あまはらつかさ。とにかく騒がしいやつである。

「なんだ、天願か。あのさ、私は転校してきた身だからこの学校には君と同じくらいしかいません。よって先輩じゃない。はいQ.E.D.。わかった?」

「ん?でもセンパイは先輩ですよ?そう決めたからそうなんです!」

 なるほどなかなか良くできた娘だ。

「まあセンパイだからこんな気安く話しかけてるんですけど」

 前言撤回。こいつ...。なかなか手強そうな後輩であった。

「ていうか誰かと話してました?一人にしか見受けないようですが?」

「別に?ここにはそう、見ての通り私しかいないね。だから聞こえたとしたらそれは私の素敵な言葉たちだと思うよ」

 とてもひどい誤魔化し方だ。あとで思い返せばきっと赤面まっしぐらであることは間違いない。

「ですよねえ〜。センパイいつもひとりですもんねえ」

「誰がぼっちだ誰が!」

「まあそれは隅っこの方に置いといて。実は極盛ごくもり先生から言伝がありまして。要件だけ伝えろって言われてるんでそんな話すつもりもないんですよ」

「置いとかないでよ...。あの極盛先生が?私に?」

「そですそです。えっと、なんかですね、「君が忘れてるものがあるから放課後かならず来い」とかなんとか」

「えぇ...。あの人の授業受けたことないんだけど.....」

 選択科目の範囲がまったく違うので受けたことがない。しかし教師から呼び出されているのだ。それなりに何かはあるのだろう。

「____はぁ、仕方ない。行きますか」

「ではまた放課後!サラダバー」

 彼女は飛ぶかのように消えていった。

「え?キミも行くの?」

 その声は全く聞こえていなかっただろう。

 仕方ない、行くしかなさそうである。王叶はなぜか、あれには逆らえないのであった。

 その後のテストはなんとかなった。

 とにかく王叶とルグルフェンは待ち合わせの場所へと向かうのであった。

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