演劇

ゆうひ

1話 妄想

私の生い立ちは疑うことから始まっている。この世界は私が見るためにできている。そうした考えが私を歪め人格の形成に大きな影響を与えている。もちろん、これは私の一面にすぎない。私はあなたが思うよりもずっと普通で社会に埋もれた無名の人間です。しかしいつまでも放って置くこともできない。私が十数年間閉じ込めて忘れかけていた死の恐怖と、歪んだ世界観。こんな私も私だと認めて欲しいと言っている。これが心の奥底に眠る獣の心を呼び起こす前に。私はこのケダモノを自分として向き合ってこなかった。それは私が隣り合わせの死を恐れていたからだ。正直今の私にはどうでもよくなった。これを書くことで私が自分と向き合えるようになりたいという動機がある。なぜ不純だというのかという説明は後にして私は先に書きたいことを書き散らす。


私は私が見るもの全て、演劇だと思っている。私の見る世界はみんな作られていて、予め決まった方向に、私がどういう選択をしようと全てシナリオは用意されている。だから感情など問題にならない。そして、私が見るもの全てが世界だ。私が見えないものは見ないほうが良い。見ても不幸になるだけだ。目の前の人が泣いている?嘘つきめ。私がいないところで嘲笑っているんだろう。

全て演技だ。先生が怒っている?本心ではないだろう。私がいなくなれば神との対話を再開し、次は私をどう騙すのか教示を受けている。人間というのは神に忠実に従い、私の視界に入らないところで計画通りに災いをもたらす。


私は神の子で、生前は兄弟が少なくとも2人居た。2人とも兄で優秀、よく褒美を貰っていた。神と兄弟がこの宇宙の外から今も私を嘲り笑う。神は私を失敗作呼ばわりして有限の肉体に住み着かせ、狭い地球に閉じ込めた。神は私の存在を早く消したいのだ。然し神の子というのは死ぬことがないので私を苦しめ、再び神の前に現れないようにしたいのだ。そして神の記憶からも抹消したいのである。兄弟は神と共謀して私の周囲にいるモノや人間を操っている。時間を推し進めるのは神の力である。兄弟は神が望む方向にシナリオを作り出し、神が実行する。私が従わない素振りを見せたり、見えない世界を見ようとすると罰するのである。私は意図的に神の意志に背こうとしたことがある。私が生まれてから何度も。振り返ってはいけない瞬間に振り返ったり、呼吸をしなきゃいけないときにしなかったり。私はこの度に記憶を失い、悪夢を見た。だからトラウマが植え付けられ、大人しくなった。


見てはいけないものがある。人間が神と話すところ、神と兄弟の姿、宇宙の向こう側である。その他にも予め決められていない行動はしてはいけないとか。いちいち戒律を明示してこないし、絶縁状態だから罰せられて初めて気づくものである。


そうだ、何故自分と向き合うのが「不純な動機だ」というのかというのは自然法則に逆らうことだと考えているからである。くどいが私は神に嫌われている。私は有限の肉体と狭い地球に私を閉じ込め、重力でもって縛り付けている。私を落ち着かせようとは考えていないのである。自分と向き合うことは、神の気に障る。こうやって書き散らすことにも神は怒っているだろう。


しかし私の中の何かが変化し始めそんなことはどうでもよくなった。神は存在しないのではないかという疑念が生じたからだ。この世を創造したのは神ではなく自然の科学の力で偶然に引き起こされたものだとしたら、話は違ってくる。もはやこれは「妄想」から外れるからこれは次に回す。

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演劇 ゆうひ @pcscmania

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