13日目 遠征

 昨日決めた段取りに沿って、俺は朝早くから狩人組合に向かい台車を引き取る。

 受付は昨日と同じ女性で、俺が声を掛けるまでずっと事務作業をしていた。朝早くから忙しく働いている。

 既に台車は準備されていて、事務所の外に置かれていた。

 

 台車は以前砂漠の村で使用した折り畳みのものに比べても大きく、人が10人乗っても問題なさそうだ。

 俺は取手を持ち、架台を背に、台車を引いて集合場所へ向かった。


「貴方の荷物は?」


 入口へ既に集まっていたハクとハツは、大きな鞄を背負っていた。

 中に食料と野営用品が入っているようだ。

 鞄とは別に肩に弓を、矢筒を腰に下げている。

 

 ハクが台車のみ引いてきた俺を怪訝に思い尋ねる。


「俺の荷物はこの槍だけだ。俺に食料や水は必要ない」

「……本当に大丈夫ですか?」

 

 色々言いたいことがありそうな顔をしているハクだが、疑問を口の中で噛み殺して巣に向かうと決めたようだ。

 俺と組むことに後悔を感じている用にも見えるが、気の所為だろう。


「俺は荷物持ちが得意だ。お前達の荷物も台車に乗せてくれ」

「ありがとよ! にしてもアンタ昨日より言葉が聞き取りやすいな!」


 ハツはハクより陽気で、気軽に俺に話しかけてくる。


「そうだな。昨日はカクタイ訛りが抜けなくて、聞き取りづらかったんだろ? 少しは王都に慣れたようだ」

「いやー、そうだぜ。地方の部族の言葉は、カクタイ族以外にもいるんだけどよ、何言ってるかわからねえもん! 今のアンタはいい感じだぜ。そういえばアンタ種族は何なんだ? あんまり見たことねえな」


 種族を聞かれて、なんと答えて良いのか分からなくなり、言い淀む。

 

「実は俺は記憶を失っていて、自分の種族がわからないんだ」

「マジかよ! 大変だな! 俺もアンタみたいに体のでかい種族は見たことねえな。毛も髭も無いし、俺たち“猫”とは遠い種族なんだろ。最初カクタイ族かと思ったんだけどよ、肌の色と髪が違うからそれも違うんだろうなー」


 砂漠を歩く道中暇なのか、ハツが色々と話をしてくれる。

 荷物もなく身軽なので、昨日遠征を嫌がっていたのが嘘のように軽快で遠征を楽しんでいるようだ。

 俺まで元気になる。


「ハーヴィさん。貴方はカクタイ族と狩りをしたとおっしゃいましたね? 記憶がなくてどうやって共に狩りをしたんですか?」

 ハクも会話に参加してきた。

 

「俺は、もう1人旅の相方がいて、そいつと一緒に旅をしているんだ。砂漠を歩く上で偶然カクタイ族の村を見つけた。村に滞在させてもらうために、狩りを手伝ったんだ」

「勇猛な戦士の集うカクタイ族が、身元のわからない旅人と一緒に狩りをするとは思えません」

 

「村に入るため、長のマミラリアと力試しをしたんだよ。それでマミラリアを倒して一緒に狩りをすることになったんだ」

 詳細は省くが、大筋は間違っていないだろ。


「嘘つけ! マミラリアといえば“蛇”の国との戦争で名を馳せた“戦姫”マミラリアだろ!? 王国最強の戦士と呼ばれているんだ!」

 いや、嘘つけと言われても本当なんだけどな。

 

「もっ、もしかして、昨日言っていたその槍はっ、マミラリア様の『生涯1個の棘』の槍ですか!?」

 ハクが俺の背負う槍を震わせながら指を差す。

「よく分かったな。マミラリアから旅の餞別として貰ったんだ。槍は得意じゃないけど」

 

「きゃあああああああ!」


 ハクが急に叫びだした。

 突如発された頭へと響く大声に、俺は思わず顔を顰める。


「ハクは“戦姫”マミラリアの大ファンなんだ。同じ女性なのに最強の戦士として名を上げたマミラリアを崇拝しているんだよ」

 俺と同じく耳がキーンとなってしまったようで、耳を抑えながらハツが言う。

 

「貴方、それは本当なの!? いやぁっ! 嘘だと言ってよ! マミラリア様が自身の槍を手放すなんて信じらんない! ましてやこんな木偶の坊に渡すなんて!」

 木偶の坊て。


「まあ信じたくないならそれでも良い。じっくり見てみるか?」


 背負っていた槍をハクに手渡そうとすると、引ったくるようにして俺の手から奪われる。

 穴が開く程、槍の穂先を見つめて何かブツブツ呟いている。


「私がマミラリア様を見たのは、戦勝記念の凱旋の時遠目からチラッと見えただけだもん。これが本当かどうか分からないけど、この光沢と槍の長さ、装飾の美しさは噂に聞くマミラリア様の槍と整合性は取れている。もしかして……本物!? いやいや! そんなハズ無い! でも本物だったらどうする? いやいやいや!」


 ハクはその槍が本物だったらどうするつもりなのだろう。

 悪いが上げられないぞ。勝手に持っていかないでくれ。

 もしジェシカに売られてしまったら、どこに売ったかは教えてあげようと俺は心の中で決めた。

 

 長い道中を共に歩くことで、お互い少し打ち解けたようだ。


 ハクは中々槍を手放さなかったが、巣の近くまで来てようやく俺に返してくれた。

 

 巣は、以前砂漠の村の戦士たちと討伐した際に発見したものと非常に似ていた。

 岩が乱立し、その影に動物のいた痕跡が散見される。

 糞や餌の植物などの食べ滓が落ちている。

 しかし、目的の獲物たちの姿は見えなかった。


「2日前は確かにここにいたんですが、どうやらどこかへ行ってしまったようです」

 

 ハクとハツが、巣の中に踏み入り検証する。

 糞や餌の状態、足跡の有無でわかるそうだ。

 巣から旅立って砂漠を渡ってしまった訳ではないようで、餌を探しに出掛けているらしい。

 足跡の向きでどちらに出掛けた予測する。

 出掛けた方向とは、別の方向で獲物の帰りを待つ必要があるからだ。


「いつ戻ってくるか分からねえ。ただ、あいつら大抵群れで動くからな。5匹もいりゃ遠くからでも見えるだろ」

 ハツは巣の検証に飽きたようで、今日の野営地をどこに定めるか探していた。

 巣の状況が見やすく、こちらからは遮られている理想的な岩陰を探して辺りを見渡している。


 この巣の近辺には、岩塊が多く、物陰に隠れるにはあまり困らない。

 問題は巣の様子を常に監視できるか、獣の帰り道に、こちらの姿が見つからないかが重要だ。


「ま、あいつら一度巣に帰ってきたら、腹が減るまでじっとしているからな。逃がすことは無いと思うぜ」

 経験豊富な狩人らしく、生態には精通しているようで実に頼もしい。

 

 獣が出掛けた方角とは反対側に、見つからない程度の安全な距離を取り野営準備を始める。

 持ってきた台車に2人の鞄が積んである。中に寝袋も詰め込まれていて、2人は泊まり掛けの準備してきたようだ。

 俺は今日中に帰れるつもりだったので、少し肩透かしだ。


 まだ日も高いが、獲物の帰りを待つ以外にやることもないため、3人して車座になって座る。

 獲物の姿は全く見えない。

 長丁場になってしまうかもな。

 無為に時間を過ごし、ジェシカに甲斐性無し煽りをされるのは避けたいところだ。


「獣は、巣を離れたらどれくらいで戻ってくるんだ?」

「そんな長くは掛からないです。“黒ラクダ”は餌として何でも食べます。狩りに時間を掛ける事は少ないので、遅くとも明日には戻ってくるでしょう」

「“黒ラクダ”? “黒ラクダ”ってのは、今回の獲物のことか?」

「え? ええ、そうです。今更何言ってるんですか? 昨日散々話したじゃないですか。貴方が“フタコブ黒ラクダ”も討伐したことあると自慢していたでしょ」

 

 そうか。

 昨日ジェシカに翻訳の魔法を掛け直されたから、名称が変わっているのか。

 長ったらしい黒色毛4足雑食獣特異種やら《普通種》と聞こえていたのが、黒ラクダに変わったのだろう。

 分かりやすくて良い。

 

「ああ、そうだった。黒ラクダだな。ボケてたみたいだ」

「ハーヴィさん。今回の狩りは貴方に掛かっているんです。しっかりして貰わないと困りますよ! 私はずっと貴方に不安を感じています。早く払拭してください。貴方の持っている槍が、マミラリア様から貰ったものだなんて信じられません! まさか盗んだんじゃないでしょうね!?」

 ハクは、マミラリアに対する並々ならぬ拘りがあるようで、やたらと俺に突っかかってくる。

 俺は助けを求めるようにハツを見る

 

「まあまあ姉さん。カクタイ族の槍が早々盗まれる訳ないだろ? 朝から晩までずっと背負ってるんだからさ。“戦姫”マミラリアの物かは置いといて、槍を譲り受けたのは本当だと思うぜ?」

 ハツが宥めてくれる。何故か知らないがハツは俺に気を許してくれている。

 同じ男同士ということで、気安く接してくれて俺としてもありがたい。

 

 ハクはマミラリアのみならず、カクタイ族全体に詳しいようだ。

 俺に対してカクタイ族の戦士がどうとか、戦争での活躍がどうとか色々話てくれた。

 

 そして、俺たちは一日中黒ラクダの群れが巣へ帰ってくるのを待っていたが、戻ってくることはなく日が落ちてしまった。

 しかたない。今日は狩るのを諦めて、明日に備えよう。

 

 

 2人は野営地で火を灯すことなく、持ってきていた携帯食を口にして食事を終わらせる。

 砂漠の夜は明るいので、作業するのに支障はない。

 元々“猫”の種族は夜に強く、瞳孔を大きく広げることで僅かな光でも視認することが出来るようだ。

 火の煙で、獣達に見つかりたくないから、巣の近くでは火を起こさないらしい。

 2人の食事は乾燥させた干し肉と果物だ。肉も果実も、乾燥しきっていて、元の姿が想像つかない。

 

「貴方は本当に何も食べないんですね。お水も飲んでなかったです。体は保つんですか?」

「ああ。俺は太陽と風の加護を受けていて、飲み食いしなくても大丈夫なんだ」

「そんな加護聞いたこと無いぜ! どうやって加護がもらえたんだ?」


 食事を終えた2人は、何も口にしない俺へと話題が移る。

 疑っているというよりは、興味津々なようで俺の回答を待っている。

 こうしてみるとやはり双子だな。そっくりだ。


「記憶がないから詳しくは分からないんだが、俺の相方がジェシカという女神なんだ。違う世界の女神だと言っていたが、その女神から加護を施されて、食事を必要としない体になった」

「女神なんて聞いたことないです。そもそも私達の神は人の形をしておりません。砂や岩や草木に宿る精霊こそ万物の神です。性別もありませんし……ましてや人の姿をしている神など存在するのでしょうか」

 ハクは俺の言を聞き考え込んでしまった。


「その女神とやらは、本当に神なのか? ハーヴィが騙されているんじゃないのか?」

 ハツの言葉を聞いて、俺は軽い衝撃を受けた。

 

 今まで疑ったことがなかったが、ジェシカは本当に女神なのか? そもそも女神とはどういう存在だ?

 

「正直なことを言うと分からない。……だが、俺達は遠い所から来た。神の定義が違っているのかも知れない。実際食事をしなくて良いのは助かっている。女神かどうかは置いといて、加護の恩恵は実感があるんだ」

 

 2人の狩人は女神の存在そのものを否定していた。

 神は人の姿をしておらず、目に見える形では顕現しない。

 それがこの“砂の世界”の常識である。

 宗教観の違いは、大きな争いを生むかも知れないので、俺はジェシカについての話を有耶無耶にした。

 2人の俺に対する疑いを煽ってしまったようで、これ以上余計な事は言わないように、口を噤む。


 ハクとハツは、万が一俺らの寝屋に獣が寄ってこないように、交代で寝ずの番をするらしい。

 俺は夜に弱いので、既に眠気を感じていた。若干の申し訳無さを感じつつ先に休ませてもらう。


 彼らは慣れているようで、特に咎める事もなく見張りの体勢を作っていた。





 

「おいっ、黒ラクダ共が戻ってきたぞ」


 俺の目覚めは、ハツによって齎された。

 既に周囲は明るくなっている。

 俺の体には寝ている間に砂が積もっていた。寝袋もなしに寝たので当然だが。

 体を起こして堆積した砂を払う。

 俺の横を見ると既にハクも起きていて、巣の方を眺めている。

 俺もハクに習い巣の方へ見る。


 話に聞いていた通り、5匹の獣が巣へ戻ってきていた。

 そのうちの1匹は口に小型の獣を咥えている。


 おそらく狩りで得た成果だろう。

 あいつらは何でも食うので、肉を得たら巣へ持ち帰る習性があるのかもしれない。

 砂漠の植物が齧られた跡は見たことあるが、持ち帰られた様子は見たことがない。

 生態を知ることでもっと狩りを楽にできるかもな。

 

「何をボンヤリとしているんですか? 貴方の出番です。大きな口を叩いたんです。すぐに討伐に取り掛かってもらえますか?」

 ハクが俺をけしかける。

 ようやく活躍できる場面がやって来たようだ。


「ああ。任せてくれ。サクッと殺してくる」

 

 俺は槍を背負い、主の戻ってきた巣へと歩き出す。

 300m程離れた場所に位置している奴らの巣は、視界を遮るものがないため、獣共も俺の接近にすぐ気が付く。

 俺の姿を見守るように眺めている。

 黒ラクダ共は、自分が強いと思っているのか、俺が近づいても逃げる素振りを見せない。

 好都合だ、逃げられる前に駆除してやる。

 

 

 巣の中から血気盛んな黒ラクダの1匹が飛び出して襲いかかってくる。

 まだ100m以上ある距離を一瞬で詰められる。太く長い4足の脚で砂の上を滑るように駆け抜けて来た。

 他の4匹は、俺の姿に気付いているが様子見をしている。


 その1匹は走る勢いそのままに、俺の肩へ噛み付いてきた。

 直線上に向かってフェイントも何もない動きだ。


 俺は突進を容易く躱して、背負っていた槍を手に取る。

 槍を振り回すために、体3つ分の距離を取る。

 相手の体の左側面に回り込んだ俺は、槍をガラ空きのどてっ腹に突き入れた。


 ザシュッっと爽快な快音が響き黒ラクダの体を槍が突き抜けた。

 刀身はほとんど抵抗もなく獣の身体を突き抜け、柄の中央まで刺さる。


 黒ラクダは、槍が刺さった事を認識して、首を振り回しながら暴れまわる。

 しかし、死に体の獣の抵抗に動じる俺ではない。

 腰を落とし黒ラクダの身じろきに微動だにすることなく踏ん張った。

 槍では切れ味が良すぎて一発で殺せないな。

 やはり俺は拳の方が合っている。

 

 槍を握ったまま止めを刺すにはどうすればいいか考える。

 槍から手を離した隙に逃げられても面倒だ。

 深く刺さりすぎて引き抜くのも難しい。


 

 そこで俺は、槍の柄の耐久性を信じて、黒ラクダに刺さったままテコの原理のように、黒ラクダの体を持ち上げた。

 槍の柄はギュウギュウとしなりながら俺の力を獲物に伝える。

 銛で魚を取る漁師のように、空に向かって黒ラクダを掲げた。

 4足とも地上を離れた脚をバタつかせて暴れる。

 

 これ以上高く掲げると槍がより深く刺さってしまうぞ。

 

 俺はそのまま近くに転がっていた岩まで黒ラクダを運び、頭から岩に叩き付けた。


 頭が潰れて夥しい量の血が周囲に弾ける。

 頭を潰されて全く動かなくなった。

 そして俺は体に刺さった槍を引っこ抜く。

 

 黒ラクダの戦いの顛末を見守ってた残りの4匹が、こちらを見つめている。

 恐怖を感じているのか? 襲いかかってくるでもなく、巣の近くをウロウロして落ち着かない様子だ。

 

 俺は地面に槍を突き立てて、置いていくことにした。

 囲まれたら、一々槍を引き抜いていられない。


 ゆっくり歩いて巣に向かう。獣共に俺はどう映っているだろうか。

 巣に近づく俺へ、4匹が並んで飛び出して襲いかかってくる。

 こいつらはそれぞれ体が大きいので、同時に飛びかかってくることは出来ない。


 まずは前に出た2匹から相手をする。

 

 俺を左右から挟み込むように噛み付いてくる。

 左側から来る大きな口を俺は左腕を掲げてあえて噛ませる事にした。

 ガギッと噛みつかれた腕から甲高い衝突音が響く。

 “ハグレ”を相手したときと同じように、俺の腕は痛みを感じず、喰い付かれたままにしておく。


 右から来る黒ラクダに体を向ける。

 俺の体勢変更に引っ張られ、腕に噛み付いたままの左側の黒ラクダは、重心を崩し左前足の膝を地面についた。

 

 そんなに俺は美味そうか?

 涎を撒き散らしながら大口を開けている右側のラクダの顎を目掛けて、カウンターとして右の拳を見舞う。

 

 やはり拳は良い。

 俺の意図した通り相手に当たる。

 右から迫った黒ラクダは二度と空いた口が塞がらなくなってしまう。

 顎から破砕音が俺の腕に響き、そのまま砂漠に倒れ伏す。


 黒ラクダのダウンを見届けた俺は、噛みつかれたままになっている左に向けて、同じく拳をお見舞いする。

 “ハグレ”を殴る時、力を入れすぎて脳髄と頭蓋骨を爆発させてしまったので、破裂しない程度の手加減をして顎を殴る。

 狂気を宿していた瞳が、俺の拳を食らって白目を剥き、泡を吹きながら倒れる。

 

 上手く殺せた。

 

 左右の挟撃に1テンポ遅れて、もう1匹の黒ラクダが俺に迫る。

 

 最早俺にとっては作業だ。

 正面から襲いかかってくる黒ラクダの突進を体をずらして躱し、すれ違いざまに首の付け根を狙って殴る。

 黒ラクダの首元に、どれくらいの力を込めれば殺せるかは体が覚えている。

 殺し損ねることは無い。

 

 ふと巣を見ると、残った最後の1匹が俺から逃げ出していた。

 巣を捨てて、一心不乱に明後日の方向へ走り去る。

 逃げ出す方向が良くない。

 そっちにはハクとハツがいる。


 黒ラクダは砂の上を走る速度が非常に早い。

 しかも距離が離れてしまったので、走って追いつくか怪しい。


 俺は、走って追いかけながら砂に刺した槍を引き抜いた。

 

「ハク! ハツ! 上手く避けろよ!」


 俺は、野営地に向かって走り出していた黒ラクダに向かってマミラリアの槍を投げる。

 腕の振りに伴い、怒号の如き風切り音が響く。

 ハクとハツが慌てたように、2手に分かれて黒ラクダの進行方向から距離を取っている様子が見えた。


 初めて行った投槍は、我ながら上手くいったと自分を褒めたい。

 逃げる黒ラクダの尻を目掛けて真っ直ぐ飛んだ槍は、背中の瘤と長い首を貫通し、そのまま岩の壁に突き刺さった。

 首と岩を縫い止められた黒ラクダは、出来の悪い昆虫標本のようだ。


 首に風穴が空いて、岩に刺さったまま、4脚の膝を地面につけて死んだ。

 1匹逃げられかけたが、これで5匹とも討伐完了だ。

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