11日目 狩人組合
昨日の話し合いの衝撃が尾を引き、昨日は中々寝付けなかった。
朝目が覚めると、ジェシカは早々に出かける支度をして、一人で出掛けて行った。
どこへ行くんだ? と声を掛けた所、王都滞在許可申請の手続きをして、王都での情報収集を行うとのことだ。
街は警邏の兵士の巡回が多く、治安が良さそうなので一人で大丈夫と言っていた。
護衛は必要ないらしい。
代わりに、狩人組合に行き一刻も早くお金を稼いで来いと、活を入れられてしまった。
女神様は、獣を狩って生活費を献上せよとおっしゃっている。
いつまでもジェシカの生み出す水を切り売りして、糊口を凌ぐわけにはいかない。
警邏の兵士に教えてもらった狩人組合の集会所へ、うろ覚えの道をたどり王都を彷徨う。
何度か通りを歩いている人に道を尋ねて、狩人組合の事務所に到着した。
声を掛ける度にぎょっとした表情で見られる。俺はこの国の住人からすると、非常に背が高いらしい。俺より背が高い人を今の所見たことが無い。
そして、俺の話す言葉はひどく聞き取り辛いようだ。狩人組合はどう行けばいいですか? と聞いただけなのに何度か聞き返された。近いうちジェシカに相談しよう。
狩人組合は、国が直轄で管理している施設だった。
こじんまりとした石造りの平屋に、受付が一人常駐している。
机に座り、手元の資料に何か書き込み、事務作業をしていた。
受付の女性は、見た目はジェシカと大きく変わらない。
年齢も大きく離れていないだろう。
ほぼ俺ら人間に近い外見をしている。
長く茶色の髪を左右へ流れるようにして、両肩に届くまで伸ばしているが、髪が太く針のような形状をしている。
一部ハリネズミのような身体的特徴を持った種族なのだろうか。
受付の女性の後ろにも扉があり、奥にも部屋があるようだが、入り口からは見えない。
「獣を狩猟する仕事を受けたい」
話し掛けられた受付の女性は案の定驚いた表情で俺を見上げる。
「カクタイ族の方ですか? 村からの出張で狩猟を受けるのでしょうか?」
「いや、違う。俺はカクタイ族ではない。カクタイ族の村には寄ったが、出張で仕事を受けているわけではないんだ。狩猟の経験があり、捕った獲物をお金に換えたい」
「ここでの仕事は初めてですか?」
「初めてだ。旅をしていて王都に来るのも初めてだから勝手が分からない。どのように狩りの仕事が受けるか教えてくれ」
「なるほど。分かりました。それでは、狩猟組合の仕組みについてご説明させて頂きますね」
受付の女性は、何も分からない俺に対して懇切丁寧に説明してくれた。
所々意味の分からない用語が出たが、俺なりに解釈を進めていく。
曰く、狩猟組合は国の税金で運営されており、人に危害を加える害獣の討伐による報酬と、食料・素材が役立つ獲物の討伐による素材買取を行い、狩猟者にお金を払っている。
狩猟者は登録が必要で、登録したら狩猟仲間の斡旋や、討伐対象の目撃情報などサポートしてくれる。
報酬は、討伐後狩猟者本人による獲物の持ち込み後、支払われる。
超大型獣の場合、出張査定もあるらしいが、滅多に出ないので、持ち込みが基本だ。
大物の査定には時間が掛かることもあるが、人に害をなした害獣の場合は懸賞金が掛かって決められた金額は即座に支払われ、素材の売却で得た利益は後日支払われる。
「登録にお金は掛かりません。登録なさいますか?」
「ああ。頼む」
「ではこちらにお名前と住所・滞在している宿泊施設の場所でも構わないです。ご記入いただき提出してください」
「すまないが、俺は字が書けない。代筆をお願いできるだろうか? あと、宿屋の住所が分からない。名前はわかるんだが……」
受付の女性は、特に気にすることなく代筆をして処理を進めてくれる。
字を書けない住人が、狩人の登録をすることはよくあるらしい。
俺と宿の名前を伝えて記載をしてもらう。
名前の綴りを聞かれたが分からないので、適当な字を充ててもらった。
受付の女性が地図を開き、俺の宿泊している宿の住所を調べている。
宿の名前は“ジプシーズレスト”だ。安直なネーミングで覚えやすく助かっている。
おそらく俺が“ジプシーズレスト”と覚えている言葉は、翻訳の魔法により現地の言葉に適切に変換されて伝わっているはずだ。
「これで登録は完了いたしました。狩猟要請や、他の狩猟組合会員が、仲間を探している際の呼び出しは、登録された宿泊施設に手紙を送ります。手紙はきちんと読んで要請に沿うように行動お願いします。字が読めなければ、人に読んでもらってください」
「助かった。ありがとう。早速仲間を探したい。俺は獣を見つけたら狩りをすることが出来るが、巣を見つけたり探したりすることが出来ない。獲物の位置や生態に長けた狩人の仲間と組みたいんだ。そんな奴はいるか?」
我ながら都合のいい要求だと思う。
獲物の位置も分からず、どんな獣がいるかも分からない狩人とは狩人と呼べるのだろうか?
「仕事なので、候補者を探し出し紹介することはできますが、チームとなるかは狩猟者同士の判断になります。あなたは狩りの実績や特技を証明することはできますか?」
受付の女性が疑いの目で見つめる。
俺の能力に疑問を持っているのだろう。
受付の前で力自慢をする狩人はいくらでもいるに違いない。
そして、その証明をしろと言われても中々難しい。
ふと俺は、マミラリアから貰った首飾りを思い出す。
「これは、カクタイ族の戦士達と一緒に狩りをした際にもらった、“フタコブ”と呼ばれる獣の結晶を首飾りにしたものだ。“フタコブ”は“ヒトコブ”と呼ばれる獣よりも獰猛で、狩りをするときに死者が出ることもあるらしい。カクタイ族は討伐した際に、一番手柄の大きい者に与えられる。俺が獰猛な獣を討伐した証明にならないか?」
首から外し、受付に手渡して見てもらう。
「これはっ……初めて見ました! “フタコブ”はカクタイ族独自の呼び方ですね。組合では黒色毛4足雑食獣特異種と呼ばれています。非常に凶暴で、人里に現れた際には、討伐指令が出ます。狩人にも何人か犠牲が出てしまうので、害獣として報奨金が高く設定されています。武力に秀でるカクタイ族の戦士達ですら返り討ちにあってしまう事もあるので、未熟な狩人には、近づかない様に警告がだされるのです。……カクタイ族の戦士達が貴方の手柄を認めたという事は、大きな実績としてアピールできますよ!」
先程まで、事務的な対応だった受付が、結晶を見た瞬間、急に興奮して喋りだした。
首飾りを手の中でこねくり回し、色々な角度から注意深く見る。
「この結晶は、宝飾品としての価値も高いんですが、何より戦士の勲章として重用されます! 貴方の実力を証明するに充分値しますね!」
しばらくの間、結晶を観察していた受付を眺めていた。
事務手続きを頑張ってもらったから、好きなだけ触らせておこう思い、満足するまで声を掛けなかった。
それにしても“フタコブ”は、黒色毛4足雑食獣特異種と呼ばれているのか。
呼び名が長い、“フタコブ”で通じるようなので、正式名称は忘れることにしよう。
「……すいません。目の前で見たのは初めてだったので舞い上がってしまいました……触らせてもらう機会も中々なくて。では、ハーヴィ様。貴方の狩りの実績は証明出来ましたが、得意な事は獣と対面した際の討伐でよろしいですか? 他にアピールできる能力があれば、優秀な狩人から声を掛けてもらいやすくなりますよ」
「あとはそうだな……荷物持ちが得意だ。重いものを持ちながら、昼間のうちは何時間でも歩くことが出来る」
俺は荷物携行能力を証明するために、建物の中にあった、石造りの机を片手で2個ずつ持ち上げて、屋内を歩いて見せた。
机は1人分より若干重い程度で、持ち辛いが重量としては、全く問題ない。
「ひえええ……その机すごく重いのにっ! もう分かりました! 落として壊さないでくださいねっ!」
受付の女性を怖がらせてしまったようだ。
ゆっくりと足元に机を置き元の場所に戻す。
「ふぅ……さて、貴方の能力は記録させて頂きました。もう机を持ち上げなくても結構です。狩猟仲間の募集でしたら、条件はどうなされますか?」
落ち着きを取り戻した受付の女性は、事務処理を進めるために、書類に向き直る。
「獣の場所を探すことが得意な奴を紹介してくれ。出来れば体力があって、昼間のうちに狩りを終われる方がいい。夜活動するのは得意じゃない」
「承知いたしました。あっ、そういえば丁度いい
方々?
「はい。本日組合に、獣の巣の調査任務の報告に来るはずなんですが……その方々は探索を専門に行っており、巣の痕跡や獲物の情報を見つけて、組合に報告いただいて報酬をお支払いしているチームがいらっしゃいます。報告期限が今日なので、そろそろいらっしゃると思います」
情報提供でもしたらお金が払われる訳か。
行く当てもない俺は、その狩猟チームの方々が、組合に来るまで待たせてもらうことにした。
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