9日目 追跡
昨日、襲撃など何もなかったかのように目が覚めた。
巨大な虫による尾の攻撃を2度食らったが、ダメージは全く残っていない。
太陽の光を全身で浴びて、むしろ体調は良好だと感じる。
「まずいぞ。あれから何時間経ったんだ? ジェシカは無事なのか?」
周りを見渡すと、昨日の襲撃の跡が色濃く残っている。
踏み荒らされた野営地の跡と、倒壊した天幕、千切れた結界の縄など散々な状況だ。
俺は昨日吹き飛ばされた際に手放した槍を拾い、散乱した荷物を集める。
冷静に思考をするために、俺は無意識で周辺の惨状の片付けをしていた。
昨日起きた襲撃に対して、振り返り考えてみる。
襲いかかってきた凶暴で巨大な虫だが、ジェシカを攫いどこかへ帰ったように見えた。
おそらく巣が近くにあるのではないか?
顎の挟む力は強く、俺でも抜け出すのに苦労したほどの膂力を誇る。
しかし、ジェシカを挟んで持ち上げたときは、傷を負わせないように優しく咥えていたように見えた。
もしあいつが本気で殺そうとして、ジェシカ位の力のない女性なら、持ち上げたり、運んだりせずにその場で噛み殺していただろう。
その力は十分にあるはずだ。
あの虫は、子育てをしているのかもしれない。
子供のために巣へ食料を持ち帰る必要があったのか。
もしくは、食料を時間を掛けて摂取する生態を持っているのだろうか。
希望的観測に過ぎないが、ジェシカを生きていると仮定しよう。
俺はジェシカの護衛として、命を守る義務がある。
可能性があるならば、助けに行かなければならない。
ふと天幕の横には、鞄がそのままの形で置かれていた。
そこにはジェシカ昨日見せられた、魔法の果実が入った箱も収納されている。
肌身離さず持っている魔法の水筒は、鞄にはなかったので、ジェシカの手元にあることを祈ろう。
「……もしジェシカが生きていたとしても、砂漠の中で食料がないと何日も持たない」
時間がない。
俺は、昨日虫が掘って逃げた穴の痕跡を発見した。
巨大な体が掘って逃げたにも関わらず、大きな穴の跡が塞がりかかっている。
砂漠の砂と風が、時間の経過とともに通った跡をどんどん消しているようだ。
早く追跡しないと、見失ってしまうぞ。
グシャグシャになった荷物を一通り纏めて、鞄にしまい込み、纏めて背中に背負った。
荷物を置いて行くことも考えたが、もし合流できたとしても、食料がなければいずれジェシカは餓死してしまうかも知れない。
それに、昼の俺なら荷物を持とうが置いていこうが走るスピードは変わらない。
俺は虫の通った穴の跡を追いかけ始めた。
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