6日目 偵察からの帰還
思いがけず戦闘となってしまったため、獲物を持ち帰る準備をしていなかった。
全員身軽さを重視した装いで、槍以外の荷物はない。
俺が殺した“ハグレ”の獣の肉、皮、骨など全ての物が人の役に立つ。
しかし、このまま砂漠に放置してしまうと、腐り落ちて乾燥し風化してしまうので、どうにかして持って帰りたい。
「マミラリア、俺が獣を持って帰る。怪我した戦士は頑張って歩いてくれ」
ここで俺の荷物持ちの経験が生きる。
頭の無くなった獣はそれでも人10人分くらいの重量があり、普通の人には引きずることも出来ない。
しかし俺は、前足を肩に担ぎ背負う形で持ち上げて、後ろ脚を引きずりつつ運ぶことが出来た。
ずしりと重量感を感じるが、まだまだ余裕がある。
太陽と風の加護の力は、荷物持ちにこそ真価を発揮するかもしれない。
戦果と怪我人をそれぞれが担ぎ、村への帰路を歩き始めた。
ちなみにマミラリアは大人の男を運ぶには背が足りない。
比較的怪我の程度が低い戦士は、自分の足で歩かされていた。
村に到着する時には、日が落ち始めていて、加護の出力が陰り始めた。
肩に増す重量感を強く感じ始めていたので、無事到着出来て安心した。
俺たちの周囲に、村人達がワラワラと集まってくる。
俺が獣を担いで帰ってきたのが村人達には衝撃的だったようだ。
長を含めた戦士達は、村人たちの歓待を受け、言葉を交わしている。
マミラリアは怪我人を天幕の1つに運ぶよう指示し、獲物を村の中央広場に持ち込んだ。
「皆の者、よく聞け!
この獲物は我らが偵察中に襲い掛かった“ハグレ”である!
襲撃を受け隊列を崩した我らを”英雄”ハーヴィ殿が救ってくれた!
獰猛な獣を一撃で仕留めたのだ!
そして、ハーヴィ殿から村へ獲物が贈呈された!
今この場にいない者にも伝えろ。
ハーヴィ殿は村の恩人であり、英雄である!
一族郎党全員で、あまりある恩を返すべく便宜を図るように!」
マミラリアは、獲物を見に来た村人全員へ響く声で伝えた。
俺は“英雄”に仕立て上げられてしまった。
「しかし、まだ我らを襲った獣を全て殺したわけではない! 奴らの巣を見つけた。明日最後の戦いに挑む! そしてハーヴィ殿も同行頂けるのだ! 勝利は約束されている!」
オオオオォォォォォオ!
村人から歓声が上がる。
マミラリアの報告を聞いたもの全員が高揚している。
俺とマミラリアを讃えるため、叫び声を上げる。
ちなみに俺は、勝利を約束した覚えはない。
しばらくの間、村人から囲まれ話し掛けられた。
肩を叩かれたり、褒められたり、質問攻めにされたりと。
凄い熱量だ。
マミラリアの言う通り、俺は彼らにとって“英雄”になったのかもしれないと思わされた。
村人からすると体全身に獣の返り血と砂に塗れていて、より迫力が増していることだろう。
しかし、悪い気分ではない。
「おかえり。“英雄”ハーヴィ。狩りは大活躍だったらしいね」
体を綺麗にして、天幕へ戻った。
ジェシカは既に俺の噂を知っていて、からかうように声を掛けてくる。
「ああ。偵察だけだと聞いていたのに、大変な目にあった。しかもまだ終わっていない。明日は3匹の獣を狩らねばならない」
「すっかり村の守り神じゃん! ヒーローになった気分はどう?」
「悪い気分ではない。こんなに人に話しかけられたのは初めてだ。そしてマミラリアから強い尊敬と好意を感じる。少し戸惑っている」
「獣は強かった?」
「いや、顔を殴ったら一撃で殺すことが出来た。今日の獣には脅威を感じなかった」
うんうんとジェシカは頷き、どこか嬉しそうだ。
「貴方の力は、そこらへんの害獣に負けるような陳腐なものじゃないからね。私の転生技術の粋を終結させた戦士だもん!」
「俺自身どこまでの力を持っているか把握しかねているが、明日戦う3匹の獣にも負けないだろうか?」
「広場にいた位の動物相手だったら、100匹でも200匹でも余裕だよ」
ジェシカは口元をニヤリと歪めて、誇らしげに呟く。
普段のジェシカらしからぬ、ねっとりとした声と表情だ。
どこか狂気を感じる。
施した加護に、相当自信があるようだ。
ジェシカはいつもの夜のお勤めを済ませてさっと寝床に付いた。
俺も、強く眠気を感じる。
明日も頑張ろう。
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