6日目 狩りの準備
目を覚ますと、そこには天幕の天井があり、朝なのに薄暗い。
日光を全身に浴びないと、太陽の加護が十全に働かないようだ。
俺は重い体を引きずりながら天幕の外に出た。
砂漠は相変わらずの快晴で、全身で光を浴びるとようやく体が起きてきた。
転生して6日目だが、未だ雲や雨を見た記憶がない。
俺の感覚(記憶がないので、感覚との比較になる)とこの世界の気候はかなり乖離している。
空にはもっと雲があったはずだ。違和感を感じる。
ジェシカは既にいない。敷物も畳んであり、どうやら既に出掛けたようだ。
今日は村を襲う獣を狩る段取りを組む予定だ。
マミラリアには起きたら顔を出せと言われている。
昨日の道中でマミラリアに案内された、彼女の天幕に向かった。
行く途中でジェシカを探したが、あまり広くないこの村で何をしているやら、姿が見つからなかった。
「ハーヴィ殿! よく来て頂いた!」
マミラリアの天幕に着くと、彼女が嬉しそうに天幕の中へ向かい入れた。
天幕の中には既に、戦士が3人、座って打ち合わせをしていた。
昨日マミラリアと一緒にいた取り巻き達だ。村の戦士の中でも、長に付く側近の連中なのだろう。
「改めてハーヴィ殿には、狩りの段取りを説明させて頂く」
戦士の一人が俺に説明を開始した。
マミラリアは俺の隣に座り俺の方をじっと見ている。
説明に集中できないな。
あまり見ないで欲しい。
その戦士曰く、通常の狩りの段取りとして、まずは巣を探すことから始まる。
巣を探し出し、距離と場所を認識し、個体数を確認する。
獣は、3~5匹の群れをなして生活しており、サボテンモドキの植物を食料に砂漠中を渡る。
食料が潤沢な場所を見つけたらしばらく滞在するが、食欲旺盛のため周辺の食料をすぐ食べ尽くしてしまう。
今回は、俺とジェシカが巣の場所を発見したので、その巣へ偵察に行き個体数を確認する。
獣は非常に凶暴で、力が強く、雑食のため、狩りへ行ったら返り討ちに会い、逆にエサとなってしまうこともある。
しっかりと敵の勢力を確認してからでないと危険なのだ。
巣の場所と個体数を割り出したら、群れを分断する。
分断の方法は非常にシンプルだ。戦士達3~5人のチームを群れの頭数分作り、襲い掛かる。
1チーム1匹を引き受け、槍と投石で獣を刺激しながら距離を取る。
上手く距離が離れた獣をそれぞれのチームで狩る。
上手く分断できなかったチームは、他のチームと協力して、1匹になった獣が群れに合流できないように、体を張って群れを引き付ける。
1チーム対1匹の構図にならない限り、手を出してはならないのだ。
1チーム5人態勢でも1匹の獣に破れ、死者を出し潰走したことがあるらしい。
「非常に危険な獣狩りだが、長が狩りに出てから負けた事がない。マミラリア様は、村の歴史上最強の戦士なのだ」
戦士の一人がマミラリアを讃えて、マミラリアが少し照れている。
「そうだ。私は今まで自分が最強の戦士だと思っていた。だが昨日で打ち砕かれた。今は人類最強の戦士であるハーヴィ殿と共に狩りへ行ける事を光栄に思う」
人類最強は言い過ぎではないか?
戦士の説明のおかげで、大まかな狩りの流れは分かった。
「それで、いつ狩りに出るんだ?」
「まずは今日、巣の偵察をして必要な人数を把握する。長とお主を含めた5人で偵察隊を組む」
急な話だ。
「ハーヴィ殿には申し訳ないが、この狩りは急を要する。既に村人が5人獣に襲われている。ここ数日の話だ。あいつら人の味を覚えている。これ以上被害が拡大する前に討伐したいのだ」
昨日も俺たちが戦っている間に、別のチームが巣の探索をしていたらしい。
残念ながら見つけられなかったらしいが。
ふと俺はジェシカと砂漠放浪2日目に見た、獣の巣の様子を思い出す。
ここの村人らしき、死体の食いカスと糞が巣に散乱していた気がする。
近辺の植物にも沢山齧った跡が残っていたので、今も滞在している可能性は高いだろう。
しかし、マミラリアの話だと5人も犠牲者が出ていたのか。俺の記憶だと多く見積もっても2~3人分の残骸しか見受けられなかったが……。
俺は違和感を感じながらも、偵察の段取りを引き続き聞いていた。
「では今から獣の偵察にここにいる5人で向かうわけだな」
「そうだ。目的はあくまで獣の状態の確認だ。狩りをするには人数が足りない」
戦士達は立ち上がり、準備を始める。
俺は巣への道案内を務めるが、ジェシカは付いてこない。
来ても足手纏いになるだろう。
「ジェシカに声を掛けてくる。少し待っててくれ」
俺はマミラリアの天幕を抜け出し、ジェシカを探す。
ジェシカは村の井戸の近くで、年配の女性複数人と立ち話していた。
おそらく調査のための情報収集の一環だろう。
初対面だろうに楽しそうに盛り上がっている。井戸端会議ってやつだ。
「ジェシカ、俺はマミラリア達と獣の偵察に行ってくる。ジェシカはどうする?」
「あっ、いってらっしゃーい。気を付けてね」
自分は全く行く気が無いようで、軽やかに送り出された。
井戸端に共に佇む女性陣は俺を見てこそこそと噂話をしていた。
どうやら昨日マミラリア相手に大立ち回りをしたのが既に噂として出回っているようだ。
このような狭い村では噂はすぐ広まる。
ジェシカは、噂を誇張し面白おかしく伝えて、女性たちとコミュニケーションを取っていた。
何を言っているか分からないが、おそらく俺の噂話をダシに仲良くなろうとしている。
相変わらずの適応力だ。
ジェシカと別れ、村の入り口でマミラリア達戦士と合流した。
彼らはそれぞれ自分の槍を背中に背負っている。
この部族は自分の背丈程の槍が標準装備なのだろう。
目的は偵察のためか、荷物は槍と腰に下げた水筒以外持っておらず身軽だ。
俺は槍も水筒も持っていないため、もっと身軽だ。
俺たちは散歩にでも行くかのような軽装で、砂漠にある巣へと向かい歩き始めた。
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