第16話 水鉄砲合戦 その②
校舎の裏にある井戸。水を補給できるひとつである。タワーがひとチームを仕留めている頃、ガーネットとロイヤーンはとあるチームと水の撃ち合い合戦になっていた。
「あーくそ! こういう時に来るのかよ!」
ガーネットは叫びながら、水鉄砲で撃ち込んでいく。相手も撃ち込むため、地面がびしょびしょになる。
「誰だって狙うに決まってるだろうが! もう残り僅かなんだっぜ!」
男は木陰から撃ってくる。下手に近寄れないとガーネットは井戸の校舎側に隠れる。狙撃手の役割を担うロイヤーンが定期的に撃つ。しかし場所の特定化が出来ていないのか、人数を減らせているわけではない。
「すまん」
ロイヤーンが謝る。
「いや。牽制出来てるだけマシだ。あっちが3人いるからな。固まって行動する方が得策だったかもしれねえ」
ガーネットは今更後悔をした。
「結果論だろ。気にすることではないと思うぜ。そんで今の状況はどうだ。タワーは無事か」
ガーネットは急いで参加者リストを見る。
「ああ。無事だ。あと今は俺達含めて4チーム。展開が早いな。こりゃ」
「そうだな」
どうすべきかを話し合うべきなのではと2人が思った瞬間、水の狙撃がどこかから来た。校舎側。角から狙ってきた形だ。
「げ!? 別チームと挟み撃ちかよ!?」
「みたいだな」
咄嗟に避ける。しかしもう一度避けられるという保証がない。狙撃という性質上、ロイヤーンはどこかに行く必要がある。ガーネットは指示を下す。
「俺が盾になる。ロイヤーン。狙撃スポットまで行け」
「了解」
ロイヤーンは狙撃銃型の水鉄砲を抱えながら、静かに井戸から離れようとする。挟み撃ち状態では難易度が高いため、ガーネットは牽制の目的で撃っていく。それだけではない。相手が撃たれることを願いながら、ギリギリで避けていく。
「流石にちとやべえか?」
ガーネットは世界規模の個人戦で一桁をとった経歴を持たない。避けながら攻撃をするという手法が最も苦手なためだ。実際、この場で誰も倒す事が出来ていない。ジリ貧でいずれ倒れるだろう。
「ガーネット討ち取ったり!」
誰かが興奮気味に言う。最低限の仕事を成し遂げたガーネットは思った。あとは2人に託すと。
「げ。タワー!?」
建物の方にいた相手チームが悲鳴を突如あげる。背後から不意打ちをくらったみたいだ。頼もしい味方が笑って登場。
「よく保ったな。あとは俺が率先してやろう。ロイヤーンは」
「狙撃スポットを目指している。もうひとつのチームの場所を特定化させておくべきだな。ここで倒して隠れるぞ」
「分かった。そうしておくとするか」
タワーはさりげなく井戸で水鉄砲の補給を行った。
「これで問題はない」
「ああ。適当にやっておくぜ」
ガーネットはいつもより適当に地面に撃つ。味方であるタワーを誤って撃たないようにするためだ。
「おっと」
ガーネットは井戸を利用して隠れる。あらぬ方向に撃ち続けながら、相手の照準を推測する。タワーを目の前にしているのか、かなりブレブレになっている。恐ろしいと思った時点で負けだ。タワーは接近戦に持ち込む。撃たれないように相手の銃を抑え、片手で水を腹に放つ。人を盾にし、隙間から水鉄砲で撃つ。DGOでよくあるパターンだ。
「おー。流石。複数だろうがお構いなし。あとは2人残りの1チームだけだ。ロイヤーンのことだから、場所の特定化は出来ているはずだ。俺達もそっちに行くぞ」
「ああ」
こうして探索を始めた。そして意外にも校舎の中に入っていた。小さい教室に雑に机と椅子が置かれている。隠れる場所が教卓、掃除用具入れ、先生の机。狙撃手でも見えづらい。
「誘い出すか」
ガーネットがそっと引き戸を開ける。両手で銃を構え、3発水を放つ。相手がびっくりして、教卓から1人出てきた。これが命とり、どこかにいるロイヤーンの狙撃が頭部ヒット。
「おい! タロー!」
仲間を呼んだ相手の幼い声が聞こえる。タワーが率先して教室の中を探っていく。ガーネットも手伝う。先生の机の下にいないとなると……。
「当然ここだな」
ガーネットが掃除用具入れの木のドアを開ける。縮こまっている黒髪の男の子がいた。Tシャツに半ズボン、サンダルと動きづらい恰好。数秒見つめ合い、ガーネットは引き金を引いた。男の子は髪の毛も顔も水で濡れる。
「うぷ。つめた。やっぱ強い」
圧倒的な差で負けた。そのはずなのに男の子は笑っていた。こうして水鉄砲の大会が閉じられた。後日、運営からレトルトカレーが贈呈された。ご当地系のものが多いのはありがたいことだったが、量が多かったため、知り合いや家族に送る羽目になったガーネット達であった。
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