第14話 お遊びで花火を

 タワーが客人たちを出迎える。涼しい夜の時間、灯りは僅かしかない。家の敷地内だと室内と門の部分だけだ。おんぼろランプが照らし出している光の下に2人組がいた。麦わら帽子を被る眼鏡をかけた青年とタンクトップの格好の青年。雑貨屋でアイテムを交換したプレイヤーである。


「CCA(麦わら帽子の男)とマッスルマッス(タンクトップの男)……でいいんだよな?」


 とは言え、ゲーム内では二度目である。自分達はゲームプレイヤー界では有名な方だと自覚している。そして目の前の2人が偽物の可能性もあることも否定できないため、タワーは確認を行う。


「合ってる合ってる」


「やっほー。時間通り遊びに来ましたぜ」


 手を振って笑顔で答えてくれた。ゲームメニューでもチェックを行い、タワーは2人が交換してくれた人たちであることを認識した。


「ああ。中に入ってくれ」


 客の2人はキョロキョロと周囲を見渡している。


「本当に広いんだな」


「お前たちは買わなかったのか?」


「いやーほとんど外での捕獲がメインでしたから。家を買うって言う発想なかったですよ。あ。そうだ。図鑑見ます?」


 タワーはCCAが保有する図鑑を見る。仕組みは把握していない彼でも、これは凄いと分かるぐらい、埋まっていた。


「どれだけの時間をかけてきたんだ」


 タワーの問いにマッスルマッスが答える。


「1日4時間プレイをやって、サービス開始してから2週間で虫の図鑑制覇。更に1週間で魚の方もやっと制覇。今はドライフラワー挑戦中って感じだ」


 ずっと運営が定めた空っぽの図鑑を埋めていた。収集癖がなせる業なのかもしれない。タワーは真似できないなと感じた。


「凄いな……」


「そーゆータワーさん達も凄いじゃないっすか。バトルイベント、俺達じゃ無理ですし」


 CCAが目を輝かせて言った。ここで玄関に入る。タワーは大声を出す。


「ガーネット、ロイヤーン。2人が来たぞ!」


「はーい」


 遠くから元気よく返事……と同時に走る足音が大きくなってくる。引き戸を乱暴に開け、ガーネットとロイヤーンが姿を見せる。タワーがはしゃぐ仲間2人に注意をする。


「いくらVR空間だとは言え……静かに閉めておけ」


「はーい」


 𠮟られた子供のようにシュンとする。それも一瞬で終わるが。さっと花火セットをアイテムボックスから取り出し始めている。


「とりあえず花火は庭でやる感じですかね」


「そうだな。火消しで水を入れたバケツの用意もしよう。ライターの用意は」


 このような感じで準備を進めていく。アウトドアに慣れている人がいるため、スムーズである。


「最初はこれにしとくか。ねずみ花火」


 ガーネットが楽しそうにカラフルな色合いの輪っかをひとつひとつ丁寧に紙の束から出していた。地面にいくつも置かれている。


「着火すっぞー」


 ロイヤーンが火を付ける。煙があがり、3秒後。くるくると回って動き始めた。


「あっぶね!?」


 唐突にねずみ花火が動き出したため、ロイヤーンは咄嗟に跳ねながら安全な場所に移動する。


「おっと」


 予想なんてものは出来ないが、慣れているタワーは驚く表情を見せていない。すぐに消えてしまった。


「あ。終わった」


「全部やっちゃうか」


 ロイヤーンが手早く着火作業を終えた。


「おい待てこら。一気にやるのはどうかと思うんだけどな!? つか何で俺の方ばっか来るんだこのやろー!」


 ねずみ花火の行動パターンはランダムだ。そのはずだが、運が悪く、ガーネットに集中。踊っていて、楽しそうに見えるが、本人は必死に逃げているつもりである。


「うん。現実世界でやる時はひとつずつやろ」


「最初からそうしろ!」


 ちょっとした反省会の後、次に使う花火を出す。灰色の小さい固形物。火を付けると、煙が出て来る。にょきにょきと。うねうねと。伸びていく。これだけなら地味だなと思われるのだが……色合いなどを考えると行きつく答えは……。


「う〇こだな」


 こうなってしまうのは仕方がないものである。全員同時に言ったため、吹き出す始末である。


「なんか大人の年齢を超えても、感性が子供だなと思いましたまる」


「CCA、そのタイミングで言うな」


 ロイヤーンはツボにハマったのか、ゲラゲラと笑い始める。たまにガーネットの背中を乱暴に叩くこともある。加減してくれているのか、痛みは全くないがやめて欲しいのがガーネットの本音である。


「痛いからやめろ」


「だって」


 しばらくは続きそうだと思い、ガーネットは冷たい対応を行う。


「よし。誰か此奴にトドメを刺してやってくれ。具体的に言うと、腹筋にダメージが行くレベルで」


 この発言でロイヤーンの限界が来た。お腹を抱え、地面に倒れる。タワーが言う。


「お前がトドメを刺してどうすんだ」


 地に伏している仲間を見たガーネットは困ったように答える。


「いやこれは俺でも予想外だったんだけど。時間は……21時30分か。俺達はまだ平気だけど、お前たちは明日何かあったりとかは」


 ゲームメニューで時間を確認。CCAとマッスルマッスに聞く。仕事の曜日がバラバラとなっているこの時代、こういった質問はしょっちゅうあるものだ。


「仕事があります。朝出勤です。マッスルマッスも」


 本当なら色んな花火でしばらく遊んでいたいガーネットである。しかし2人の事情で遊びの計画を変更する。


「分かった。おーい。ロイヤーン、いつまで寝てるんだ」


 ロイヤーンがガバッと起き上がる。


「線香花火やるぞ」


 カラフルで細い棒を持つ。パチパチと火花を散らし、それらを眺める。


「しんみりだな」


「そりゃそうだろ」


 座って駄弁るだけでも楽しい。最初はガーネット達のゲームプレイが話題になっていたが、いつの間にかこのゲームのコンプへと移っていた。


「虫と魚の図鑑、全部埋めた!? そりゃすげえ」


 ガーネットの声が夜中の集落に響く。CCAが照れる表情をする。


「会社員なのでこれでも遅い方ですけどね。最速だと1週間。確かリアルだと大学で教鞭とってる窪田先生だったかな。配信で解説しながらやってました」


「本職だからな。数が凄かったよ。参考になったとこもあるから、こっちとしても助かったよ」


 2つのコンプリート。だからこそ、ガーネットは疑問を浮かぶ。何故交換に応じたかどうかを。


「へー。いやでもそれなら何で俺らが捕まえたの、貰ったわけだよ」


「昆虫相撲だな」


 タワーは目的を分かっていた。だからすぐ発言したのだ。


「ご明察。俺達は図鑑コンプもやってたけど、昆虫相撲もやっていてな。個体によるから、同じ種類でも集めてたわけなんだよ」


「現実世界だとやらないですけどね。傷付きますから」


「あーどういう感じでやるのかさっぱりだけど、コレクター勢が嫌がることだけは把握した」


 ガーネットの台詞にロイヤーンが頷く。似たようなことを浮かべていた。こういった感じで話を弾ませていたわけだが、22時に回った段階で最終ステージに移行していく。線香花火が尽きたというのもあるが。


「さあて。最後はド派手にやるとするか」


 筒のようなものを出す。点火は手慣れているタワーがやる。


「おー!」


 噴水のように火花がありとあらゆる方面にまき散らす。バチバチと音を鳴らし、周囲に火花を散らしていく。ド派手だ。


「これはすげえな」


 ガーネットの感想を聞き、誰もが頷く。確かに力強いものだ。ゲームの中とはいえ、間近で見ると格別だ。しかしこれは永遠に続くわけではない。あっという間に燃え尽きてしまう。


「終わったな。タワー、確認できるか」


「ああ」


 眩しさがなくなり、音もなくなり、静かになる。タワーが本当に消えているのかどうかを確認する。


「消えているな。片付け完了までが遊びだからな。気を緩むなよ」


 タワー主導で片付けが始まった。火を扱う時はどうすべきか。どんなに楽しくても安全面を考慮せよ。そういうタワーの話を聞きながら、花火の遊びが終わったのであった。


「機会があれば、また遊びましょう!」


 CCAとマッスルマッスがログアウト。ガーネット達は手を振って、見送った。1日のサービスが終了する24時まで遊べる3人なのだ、ガーネットはあることを決意する。


「さて。俺らもログアウトして、いつもより早めに寝るとするか」


「賛成」


 いつもより早く寝ることを決定。そういうこともあるのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る