第13話 VRMMOで久しぶりの工作

 お化け屋敷攻略をして翌日の21時。イベントが終わり、3人全員でログイン。ゲーム世界では太陽が沈み、星空が綺麗に見える時間帯だ。今回は珍しく1日のサービスが終了する24時までのんびりと遊ぶことが出来る。灯りを付けた広い部屋にガーネット達がいる。


 涼やかな風鈴の音をBGMにしながら、報酬を無駄にしない第二弾を実施する。具体的に言うとジェルキャンドル作りである。一部の材料は他プレイヤーからカブトムシと交換してもらっている。ジェルワックス、キャンドルウィック、耐熱ガラス容器、割り箸などなど必要なものを和風のテーブルの上に置く。


「まさかこの歳で工作やるなんて思ってもみなかった」


 ガーネットの台詞にタワーは同意する。


「初等教育の1回こっきりだもんな」


「そうそう。しかもめっちゃ簡単な奴だった。不安しかねえんだよな。こういうの慣れがいるだろ」


 ロイヤーンは作り方が書いてある本を見る。眉毛が少し動いている。


「まあ。これもそこまで手の器用さを求められるわけじゃないから大丈夫だろ。甥の手伝いもどうにかなったしな」


 タワーの発言に2人は同時に突っ込みを入れる。


「そりゃタワーだからな」


 色んな意味で信頼度が相当である。タワーは頭をかいて、苦笑いした。


「俺でもグダグダだったんだけどな。それじゃ。やっていこうか。キャンドルウィックを耐熱ガラスの器に入れるって」


 タワーが説明を読みながら進めていく。最初に火を灯す芯であるキャンドルウィックを中に入れる。


「そのあと重石用として、キャンドル用の砂を入れる」


 ついうっかりロイヤーンが入れ過ぎていたが、まだ入れていなかったガーネットにあげて、どうにか問題のない量まで調整する。


「で。飾りを入れると。俺この貝殻入れたいんだけど。でかいし」


 ロイヤーンが指す淡いピンク色の貝殻、実はガーネットも入れる気満々のものでもあった。


「それは俺もだ」


 互いに見つめる。片手をグーで差し出す。静かにじゃんけんが始まった。何回か繰り返し、ロイヤーンがガッツポーズをし、ガーネットは頭を抱え込むような仕草をした。無言でやっている。おふざけという奴だ。


「んじゃこれ俺の」


「はいはい」


 2人はさっさと決めている。一方でタワーはゆっくりと考え、使う分を中に入れた。


「火を起こしてジェルワックスを溶かしてくる。2人はキャンドルウィックの固定を頼む」


「了解」


 アウトドア活動に慣れているタワーは台所に向かった。ジェルワックスを溶かす時は直火やレンジでやらないようにしよう。数分後にタワーがダッシュで戻って来た。ミトン装着で3つのステンレス製のコップを持っている。


「おー。手際がいいな」


 静か……しかし素早く3つのガラスの器に溶かしたジェルワックスを入れていく。ガーネットは感嘆の声を出した。


「あとは冷やすだけ……なんだけど、ゲームの仕様で一瞬だな」


 容器の大きさによるが、現実世界えは30分程度で固まる。ゲームの世界のため、一瞬で冷えて固まり、完成である。


「意外に簡単だったな」


 ガーネットが感想を言った。


「確かにな。これ……彼女にプレゼントするのもあり?」


 ロイヤーンがぼそりと呟く。同じ独身であるガーネットはハッと気づく。


「その手があった。手作りプレゼント、流行ってるもんな。なるほどなるほど。ロイヤーン、ナイスアイデア」


「だろ」


 独身組が結託する。VRMMOの世界とは言え、成功体験をしたことで自信をつけたことが大きいのかもしれない。タワーは2人を暖かく見守る。しばらくは静かな時間かと思われていたが、


「おーい。ガーネットさーん達、いますかー?」


 貝殻などの飾りを交換してくれた若い男達の声が聞こえてきた。どうやら次の遊びに移るなと確信するタワーであった。

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