第12話 3つのミッション@お化け屋敷

 ミッション3つを行うことでこのお化け屋敷のクエストが終了する。ガーネットはすぐにゲームメニューを開き、内容を確認する。


「最初は動く鎧だ」


「ってことはすぐ近くの。おーマジで動いてる動いてる!」


 1つめは動く鎧の撮影。階段を上ってすぐに発見。細い廊下に入ったところにいた。かつてのヨーロッパの戦争で用いられたもの。年季が入っているというより、長年の不手入れによってダメになっている印象が強い。カタカタと音を鳴らしながら、少しずつ動いている。ロイヤーンが興奮しながらも、デジタルカメラで素早く撮った。


「ほい。完了。あれ。どっかから近づいてきてね?」


 ロイヤーンの気づきでタワーとガーネットは周囲を見る。ガタガタと走る音、金属の擦れる音が大きくなる。もしも現実世界なら汗が大量に出てくるだろう。ガーネットがひと言。


「やべえやべえ。なんか近づいてきてるな」


 そしてとうとうその正体を現す。甲冑に紐のようなものを付けている戦士。目と目が合ったガーネットが大声で指示を出す。


「逃げろぉ!」


 全速力で逃げ出す。屋敷内での追いかけっこがスタート。捕まったらクエストは即終了。達成出来ずに終わるため、3人は必死だ。


「どこに逃げる!? てかどこまで彼奴は追いかけて来るんだ!?」


 ロイヤーンの疑問はごもっともだ。ずっと追いかけられながらクエストをやるのと、途中で追いかけっこが終わってクエストに専念出来るのか。この違いは非常に大きい。


「知らねえよ! 逃げるのに専念だ!」


 ガーネットが荒々しい言葉遣いで答えた。状況が状況なのでこうなる。


「だよなああ!」


 ガーネットはぐるぐると頭を回転させる。どうすればこの追いかけっこにピリオドをうつことが出来るのだろうかと。なおかつ次のミッションである透明のコックさんが調理する様子を撮影する台所までのルートはどうすべきかと。この2つを同時に行うにはとシミュレートを脳内で行っていく。


「あれ」


 無我夢中で逃げていた途中に気付いた。追いかけて来なくなったのだ。というか途中で停止状態になっている。気を緩めたいところだが、ガーネットは警戒を怠らない。


「向こうにある階段で下って、台所まで直行だ。油断するなよ。いきなり再開するかもしれねえ」


 タワーとロイヤーンは静かに頷く。走って端まで行く。灯りのない暗い階段を下る。追いかけてくる気配はない。そういうプログラムにしているのかとガーネットは推測を立てる。


「マジで来ないな」


 タワーは後ろを振り返りながら言った。警戒を兼ねての行動だ。下っても定期的に後ろを見てくれている。ガーネットは声をかける。


「タワー、悪いな」


「気にするな。こういうのも役割分担だろ。マップ上だとどうだ」


 タワーはマップを見る。5つの部屋があり、生活で必要な活動を行う場所が点在する。台所は左の前から3番目にあることが分かる。マップを閉じて、真っすぐ前を見る。蝋燭という灯りがある。そのはずだが、弱いのか薄暗い。埃と蜘蛛の巣など手入れがされていないということもあり、ホラーの雰囲気がにじみ出ている。


「前から3番目。左。そこに台所がある」


「うっし」


 ロイヤーンがさっとカメラを取り出す。ガーネットはリスクを抑えるため、ロイヤーンにあることを言う。


「そうだ。ロイヤーン。フラッシュと音を抑えておけよ」


「あ。おう? 分かった。やっとく」


 何故だろうとロイヤーンは傾げる。


「タワー、来る気配は」


「今の所大丈夫だ」


 何度も確認を行いながら、台所のある部屋まで歩いて行く。ガーネットはドアノブに触れる。


「静かに入るぞ。大きい音を立てるなよ。喋る時は小声でだ」


 ガーネットの言葉を聞き、2人は返事をする。


「了解」


「よし。入るからな」


 なるべく音を立てずに開ける。岩で出来た壁と床。木の箱にはじゃがいもや人参などの根菜が入っている。ぎっしりと入った麻の袋がいくつもある。台所というより食糧庫だと感じ取ってしまうが、台所の要素も確かにある。竃や鍋、フライパンがある。それだけではない。トントンと包丁で材料を切る音が耳に届く。


本来なら部屋全体に灯りを付けた状態で調理をするだろう。しかしここはランプしかない。手元だけで十分ということなのだろう。ロイヤーンは素早く対象物を見つける。包丁が宙に浮いている。事情を知らない人なら包丁が勝手に動き出したと言うことだろう。だが彼らは知っている。姿の見えないコックが手にしていることを。


「よし」


 ロイヤーンは野菜を切る様子を撮った。


「退散するぞ」


 邪魔にならないよう、3人はそーっと足音を立てずに、閉じる音を立てずに出て行く。ドアノブの操作まで完璧である。ふーっと息を吐く。神経を張り詰めてやっていたためだ。


「よし。地下室に行くぞ。最後のミッションはケルベロスだ」


 ガーネットはミッション内容を読む。


「それもうホラーじゃねえだろ」


 ロイヤーンの言う通り、ケルベロス自体、ホラーで出て来るようなものではない。どちらかと言えば、ファンタジー世界に出てくる類だろう。


「油断できねえぞ。雰囲気がガチだし」


 近くにある隠し階段で地下に降りる。廊下には紫色の瘴気が漂っている。匂いとかはないが、灯りを見えなくしている時点でヤバイ。ガーネットが言う通り、ガチの雰囲気が出ているのだ。


「なんか肌寒いな。それに暗いし……懐中電灯の出番だな」


 タワーは懐中電灯をアイテムボックスから出した。先まで見ることが出来るようになった……というのがきっかけで3人は気付く。白いワンピースを来た顔が見えない女性。不気味な印象が強い。


「うん。わんわんに気を付けろってことね。了解了解。餌ね。うん。ありがと」


 普通は躊躇するものだが、ロイヤーンは平然と話しかけていた。ジャーキーの類を受け取っている。ガーネットはバイバイと手を振っている呑気な仲間に注意する。


「罠だったらどうすんだ馬鹿!」


「だってえ。明らかにヒント臭かったし」


 ロイヤーンの言い訳を聞いたガーネットが強く注意をする。


「それならもう少し警戒しとけ!」


「うん。それはしとくべきだったとおも」


 ロイヤーンは最後まで言わず、ガーネットと共に床に伏せる。タワーも咄嗟に真似る。何かが通り過ぎた感覚。お面のような何かが走って行ったような形だ。


「サンキュ。なんだこのジェットストリームアタックは」


 ガーネットはロイヤーンにお礼を言い、何処かに行ったお面の方向を見る。


「これレアなケースだよ。やった。めっちゃラッキーだよ。スパゲッティーにゃですら遭遇してないケースなんだぜ?」


 ロイヤーンが興奮気味に言っている辺り、本当にレアなものだったらしい。


「そうかそうか」


「うわー棒読み」


 ガーネットの反応が薄かった。棒読みになってしまうぐらいには。


「当たり前だ。お前と違ってホラー大好き人間じゃねえんだぞ。あとちょっとで着くから、お前はカメラを用意しておけ」


「はーい」


 地下にある部屋は1つだけ。奥にある部屋のみだ。頑丈そうなドアを開け、僅かな隙間から様子を窺う。5mほどの大きい三つ首の獣がいた。ケルベロスと呼ばれるものだ。ロイヤーンがわんわんと言っていたが、可愛い要素が一切ない。鋭い牙で殺しにかかるだろう。ガーネットがジャーキーを投げる。匂いで分かったのか、真ん中が餌を拾う。3つも頭があると喧嘩するのではと3人は思っていたが、仲良く食事を始めていた。


「今だ」


 ガーネットが小声でロイヤーンに指示を出す。音とフラッシュがない状態で撮る。サムズアップをすることで完了の報告をする。


「そーっと閉じるぞ」


 終了だと受け取ったガーネットはタワーと共にドアを閉める。


「特に異変はないみたいだな。脱出経路はどうする」


 タワーの問いにガーネットが答える。


「1階から脱出する。掃除道具入れに丁度いい台があるからな。馬鹿正直にロビーから出る必要はない。安全な方法でやろう」


「賛成」


 正面からやらなかったため、ガーネット達は帰り道の障害に遭わずに済んだ。裏ルートと呼ばれるものだ。


「よいしょっと。これで全員いるな」


 外に脱出することが出来た。だが油断は出来ないとガーネットは仲間がいるかどうかの確認をする。無事にいることを確認出来たと同時に拍手の音が聞こえてくるようになる。ガーネットが素早くゲームメニューを開ける。


「お。クリアした」


 クリアしましたという報せが届いていた。静かにハイタッチし、報酬などを確認しながら、カブトムシがいるかどうかの確認をしてから、ログアウトをする3人だった。

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