第11話 カブトムシ専用の罠を仕掛けた後は

 8月15日。13日のバトルイベントでゲットした報酬を無駄にしないため、台所でせっせとカブトムシを捕まえるトラップを製作する。


「赤アロハが作ったレシピによると……まず」


 フレンド登録したアロハシャツのおじさんから貰ったレシピを見ながらやっていく。ロイヤーンが読む形だ。


「バナナを2つぶった切る。そんで袋に焼酎と砂糖を入れる」


 ガーネットが丁寧に包丁で切る。2本を切り終え、タワーは焼酎と砂糖を用意する。袋にバナナを入れ、適当にドバドバと入れる。文字通り、目分量である。それでいいのかという突っ込みが出ると思うが、気にしない方向でいて欲しい。


「で。揉む」


 ガーネットが両手でバナナを入れた袋を揉む。


「力入れ過ぎるなよ。そんで特殊な網の袋(運営公式の説明)に入れる」


 これストッキングじゃと思いながら、彼らは揉み込んだバナナを敷き詰める。因みにだが、現実世界でカブトムシの罠を作る際、発酵するための1日ぐらい必要である。ゲーム世界の時間のサイクルが独特なため、時間がかかる要素は排除されている仕様である。


「鞄に入れて。地図を持って。レッツゴー」


 完成したのでガーネット達は森に向かう。夕暮れの時間帯。茂みがあろうとサクサクと歩いて行く。


「お。いい感じの木、発見ぐえ」


 ロイヤーンが罠を仕掛けようとしたが、タワーに首根っこ掴まれた。


「適当にやってちゃカブトムシは来ないからな」


 へーと思いながら、ガーネットはタワーを見る。


「あるんだ。そういうの。てか。何だかんだタワーってアウトドア全般詳しいよな」


「実家が田舎だったからな。歩いて数分でカブトムシゲットできるとこだったし。数年以上もやってないから、赤アロハのレシピは助かったよ。材料もバトル報酬にあったし、店に買いに行かずに済んだし」


 タワーは木を見たり、触ったりしながら、奥に進んで行く。2人は彼に付いて行く。


「これだな」


 ロイヤーンとガーネットは見上げる。樹液をすするカブトムシがいた。2人は口を揃えて言う。


「あ。普通にいた」


「現実世界だとそう簡単に分からないもんだけどな。樹皮の確認もしないといけないしな。罠をくれ」


 ロイヤーンはカブトムシ専用の罠を投げる。タワーは右手で受け取り、枝に結んでいく。


「これで仕掛け終わったことだし、例の屋敷に行くぞ」


 森に入った理由はカブトムシの捕獲以外にもうひとつある。ロイヤーンご所望のお化け屋敷。既に様々な情報がサイトに載せられている。動画にも投稿されている。見るだけなら十分だろう。ただランダム性が高く、毎回同じとは限らない。だからこそ、楽しいと感じる人もいるのだとか。


「地図だともう少しみたいだな」


 タワーは地図を見ながら、両足を動かしていく。白いものが視界に入りつつある。


「てかもう見えてるし。洋風の屋敷、通常モードだな」


 木々を潜り抜け、白い洋風の屋敷のエリアに到着する。ロイヤーンの言葉通り、通常モードである。ガーネットは問う。


「ああ。どうすんだ。攻略した後に七不思議モード見る感じか」


「そう。スパゲッティーにゃの動画、更新されてたから後で見るつもり」


 ガーネットは動画サイトを頭の中に浮かべながら言う。


「そう言えば今日だったな」


「そうそう。さあて。何が出るかな」


 鼻歌が出て来るぐらい上機嫌のロイヤーンが両手で扉を押して開く。広々としたロビー。赤い絨毯とらせん状の階段がある。埃で汚く、絨毯の下が見えているというありさまだ。そしてシャンデリアに硝子の装飾が施されていたみたいだが、破片が床に落ちている。


「ボロボロだな。見事に」


 ガーネットのコメントを聞き、タワーが苦笑いする。


「ああ。こりゃ手入れしてないぞ」


 ピロロンという音が聞こえ、ガーネットはゲームメニューを開く。クエスト欄と書かれているところをタップする。参加人数とプレイヤー名を記入することで受託しましたというメッセージを受け取る。


「ガーネット。申請完了?」


 ロイヤーンが目を輝かせながら、聞いてきた。うずうずしているのだなとガーネットは感じ取る。


「ああ。油断するなよ? ここじゃ力の持たない人間扱いなんだからな」


 両手で開けた扉が閉じる音を耳にしながら、リーダーとして忠告をする。その辺りはロイヤーンも理解している。


「分かってる。命大事にだろ」


 バトルクエストとは違う。指定したものをカメラで写真を撮って、逃げて、ここから脱出する。オカルト系イベント、いやクエストの火蓋が切られる。

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