第10話 巨大モンスターを倒せ その②

 10人の編成パーティーが壊滅となり、ガーネット達が見ていたバトルは終了。モンスターになっていたスイカは小さくなり、戦っていた10人は場から離れる。受付係らしい金髪褐色肌の10歳ぐらいの少年NPCが軽い足音を立てながら木の柵の周囲をまわる。


「次は誰が挑みやがります?」


 やや乱暴な敬語でプレイヤーに問いかけていた。ガーネットが手をあげる。


「俺達が挑む」


「はい。了解しました。こちらに参加メンバーの記入、それが終わり次第、武器を選んで入ってください。ああ。名乗るの忘れてました。俺、おんみょーじ君です。よろしくお願いします」


 おんみょーじ君と名乗る少年からタブレットを渡されたガーネットは素早く入力する。木の柵を超え、いくつもある武器から1つを選ぶ作業にとりかかる。


「水鉄砲の方はスナイパー型とハンドガン型があるのか。ロイヤーン、ライチェおん(ライバルチームのモヒカン男)はスナイパー型でいいよな」


 ガーネットは2丁の銃を投げて渡す。ライチェおんというプレイヤーが銃を構える動作をしながら言う。


「おう。DGOと同じシステム採用か。問題ねえな。前衛組はどうすんだよ。草刈りで使う古臭い鎌とか、包丁とか、フライパンとか、戦闘用じゃねえのばっかだけど」


 ガーネットは眉間に皺をよせ、しゃがんで武器候補を見る。家庭用の代物ばかりだからだ。


「そうなんだよな。似たようなのって考えるとこれなんだけど」


 ガーネットは包丁を手にする。右手で持ち、さっと身構える。ライチェおんが吹き出す。


「動作はいいのに手元が」


「うるせ。お前たちは……はえーな」


 ガーネットは仲間に質問しようとしたが、既に決まっていたみたいだ。ロイヤーンが確認目的で発言する。


「タワーはバットで。ジェイソンD(金髪の男)は鍬。ピンギー(毛先が黒い白髪の男)はハンドガン型の水鉄砲か」


 歩く音が聞こえ、それを見る。おんみょーじ君が近づいてきたのだ。彼の周りにふよふよと人型を模した小さい白い紙が浮遊している。


「準備完了しやがりましたか?」



 ガーネットは仲間に目配せをする。誰もが覚悟を決めた顔付きになって、縦に頷いている。


「ああ。準備完了だ」


「そうですか。せいぜい頑張りやがれです」


 おんみょーじ君は両手を叩く。真ん中にぽつんと置かれていたスイカが巨大化。見上げるほどの大きさ。現実世界でも育てられない巨大なサイズだ。


最初はヌルゲーだ。動くこともなく、攻撃すらもしない。その一方で体力の数値は3本ゲージの中で最も多い。刃物などで刻んだりすると、果汁などが出るため、ぬかるみになるのは確実。慣れていないプレイヤーなら苦労するだろう。しかしガーネット達は違った。


「1本ゲージブレイク! こっからだ!」


 ただの巨大なスイカから変貌する。それと同時に10秒の無敵時間が入り、攻撃が通じないため、ガーネット達は移動する。3人1組体制になり、2つのチームが別々に動き始める。


「10秒経過!」


 スイカが元通りになり、複数のスイカを組み合わせた熊のようなモンスターに変貌する。口のような何かが開く。


「げ。ボムが来るな」


 ロイヤーンが嫌そうな顔で言った。その予想が当たっていた。黒い種と白くて薄い種が吐き出される。プレイヤーがいる方向に追尾するタイプで、種のような爆弾が直行してくる。


「ふん!」


 タワーはバットで打ち、爆弾はスイカのモンスターに当たっていく。ライバル側はハンドガン型の水鉄砲を持つピンギーが撃ち落とす。


「水鉄砲の癖にバ火力だよな」


 ロイヤーンが呟く。


「そうでもしねえとゲームバランスが崩壊するからじゃねえの?」


 ガーネットが適当に答えながら、スイカのモンスターに接近する。ぬかるんでいようがお構いなし、スピードを緩めることなく、加速していく。股の下を潜り、切り刻んでは離れていく。


「スナイパー陣、狙ってけ!」


 3回似たような行動をしたガーネットはスイカの化け物の下から出て、木の柵の近くまで行く。ずっしゃあと音を立て、ぐるりと自身を回転する。泥が木の柵に付く。


「了解」


 ロイヤーンとライチェおんが短い足(?)を狙い撃つ。胴体と頭に当たるスイカのサイズが大きいため、足という土台が崩れた瞬間、スイカの化け物が地面に倒れる。


「一斉に攻撃だ!」


 ふるぼっこ開始。刻んだり、崩したり、穴を開けたり。見た目がボロボロになっていき、体力も減っていく。こうして2本目の体力がなくなっていき、割れるような音がフィールド内に響く。再び無敵時間が入る。崩れたものが集まり、元の巨大なスイカに戻っていく。キラキラと輝き、綺麗な花を模したものと変化する。芸術だと言う人も出てくるほどの出来だ。3mとデカいが。周囲に白と黒の種が数個、宙に浮いている。


「あっぶね!」


 浮遊する黒い種がビームを放つ。ロイヤーンは咄嗟に避ける。普段から遊んでいなければ、回避できなかっただろう。


「前から分かってはいたけど、めちゃくちゃだな。このバトルイベント! ガーネット、コアを狙ってくぞ!」


 ジェイソンDはそう言いながら走っていく。ガーネットは付いて行く。


「分かってる! 水鉄砲で支援頼む!」


 遠距離攻撃が出来る仲間は種を正確に撃ち落としていく。それでも減る気配がない。種が定期的に増えていくためだ。とはいえ、撃ち落とすことで前衛組の負担が減っているため、この行動は間違っていない。


「タワー、頼む!」


 芸術作品と化したスイカの近くにタワーが待機していた。ガーネットはスピードを緩めることなく、組んだタワーの両手の上に右足を乗せる。その瞬間にタワーは高く上げる。スイカのコアがあるてっぺんに着地する。ジェイソンDは鍬を投げ飛ばし、自分の身を軽くし、ガーネットと同じアクションを取る。突き刺さっている鍬を回収し、ガーネットと共にコアと呼ばれるものを探し始める。


「とりあえず掘っておくか」


 ジェイソンDは鍬を使って掘り始める。包丁を持つガーネットは周辺を切り崩していく。柔らかいものはひとつにまとめ、作業を進んでいく。開始してから十数秒後、あっさりとその例のものが見つかった。


「赤いもの見つかったぞ。これがコア、此奴の核となる奴だ」


 ジェイソンDは説明しながら、ガーネットに渡した。手のひらで包まれるような大きさの赤い宝石。透明度が高く、売ったら相当いい値段になる。


「攻撃回数5回で破壊だ。この鍬だとでかいし、やりづらいから……はえーなおい」


 ジェイソンはガーネットが包丁で素早く突っつく様子を見る。


「そうでもしねえと彼奴らの負担がデカくなるだろ。ほい。これで終了っと」


 5回攻撃。核となるコアが破壊され、体力ゲージが一瞬でゼロとなる。これで全ての体力がなくなり、バトルが終わった。


「おーい。2人とも降りろ。おんみょーじ君が消すって」


 タワーの呼びかけに2人は応じる。さっさと飛び降りて、両足で着地する。おんみょーじ君が偉そうな態度で接してくる。


「よくやった。なので褒美をやります。届いてるかどうか、確認しろください」


 ガーネットはゲームメニューを開き、プレゼントボックスを見る。報酬と書かれているものに新着のマークがあった。


「届いてる」


 こくっと頷いたおんみょーじ君は両手で音を鳴らす。巨大なスイカが消失する。


「ならさっさと出てください。他の奴らが待ってやがりますから」


 ガーネット達は木の柵を超え、バトルフィールドから離れる。のんびりと草を食べている牛を眺めながら軽く話す。


「いやー楽しかったわ。誘ってくれてサンキュ。協同バトルなんて久々だったしな」


 ジェイソンDが楽しそうに笑う。


「感謝をするのはこっちも同じだ。楽しかったわ。ありがとな。またDGOで会おう」


「ああ。今度はぜってえ負けねえから」


 ガーネットはジェイソンDと握手を交わした。このライバルチームと協力した土日限定イベントは翌日、ネットの記事に載せられていたとか。有名プレイヤーとなると、ひとつひとつが記事になっていく。これも彼らにとって日常茶飯事なのである。例え夏限定だろうと。


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