第5話 計画を立てよう
日本家屋を探索しつくした後、3人は居間で寝そべっていた。ごろごろとだらしない。誰かが見かけたらそう言うかもしれないが、あいにくそれを言う人はいない。
「どうする。結構イベントあるぞ」
ガーネットはしおりをペラペラと捲りながら、聞き取りづらい声で発言。
「常時イベントと曜日イベントどっちもあるもんな。うわ。めっちゃある」
ロイヤーンが言った通り、イベントは常時と曜日に分けられている。
「問題はどれだけ参加出来るかだな。チーム練習とかもあるから、俺達がログイン出来るのはー……」
タワーはカレンダーを見て、脳内で計算を行う。
「5回だな」
タワーの結論に2人は口揃えて言う。
「少ないな」
「それだけじゃないぞ。数時間滞在するわけじゃないんだ。計画的に立てないとやりたいことが出来ない」
ガーネットは上半身を起こす。
「そういりゃカレンダーに何か書けるんだったな。えーっと。ペンねえけど」
しおりの中にあるカレンダーのページを見つけたが、書く道具がないことに気付くリーダー。ロイヤーンは転がって転がって、作業台の棚を漁っていく。木の箱から何かを取り出す。
「あるぞ。筆ペンだけど」
ロイヤーンが投げた筆ペンをガーネットは左手で受け取る。げえと嫌そうな顔になる。初等教育の授業を思い出しているためだ。
「なんでそういう扱いづらいのを出すんだよ。もっと楽なのねえの?」
「えー。それが一番マシなんだぜ?」
「他は」
「万年筆」
「確かに無理だ。悪い」
選択肢がないことを悟ったガーネットは謝った。ど真ん中にしおりを置き、3人が集まる。密集しているので暑くなると思われがちだが、このゲームの世界の気温は28度と比較的涼しい方だ。
「とりあえずログイン日の数字にまるを付けておこう。9日と13日と15日と16日と20日か」
不慣れな筆ペンを使い、円を描く。太さが安定しておらず、震えている筆跡である。
「13と20は土曜だから、土日限定イベントを参加したいよな。モンスターの類を倒すバトル系と水鉄砲戦があるわけだが……」
タワーとロイヤーンが楽しそうに笑う。
「どっちもやろうぜ」
ロイヤーンの答えにガーネットは縦に頷く。
「そうだな。そうしておこう。それまでに情報を集めておきたい。流石にサービス開始してから日にち経ってるだろうし、ネット上でも探れるはずだ」
ロイヤーンは右手をあげる。
「俺がやっとくよ。そんで他プレイヤーとの交流はどうする。そこまで競い合うシステムじゃないから気軽に出来ると思うけど」
「出会ったら程度でいいはずだ。かなり広いし、みんなが同じ活動をしてるわけじゃないからな」
夏限定のゲームに明確な目標がない。規模が大きい上に、全員が自由に動くプレイヤーである。そういうこともあってか、途中で他の人と出会えるとも限らないのだ。だからこそのガーネットの台詞なのだが。
「それもそうだな。平日はどうする。俺個人としては浜辺に行きたいんだが」
土曜日に当たる日にちはほぼ決定。そうなると残りは平日に当たる部分を決めなくてはいけない。タワーは海に行く事を提案する。2人はまあそうだろうなと予想していたものだった。
「タワーならそう言うと思った。でも俺ら……サーフィンなんてやったことねえぞ」
「右に同じく」
プライベートのタワーは海好きな男でもある。ある程度のものなら経験済み。一方でガチガチのインドア派(この時代だとそれが当たり前だが)である2人は経験といったものがない。ゲーム特有のアシストがないこのゲームではそう簡単に習得出来ないことを理解していた。
「サーフィンだけが海の遊びじゃないから安心しろ」
その辺りを把握しているタワーが安心するような言葉を使った。
「それならまあ……大丈夫か。タワー、9日でいいか」
ガーネットは確認を取る。
「特に決まったイベントがないみたいだからそれでいいよ」
了承を得たので、9日に海と書きこんだ。
「ロイヤーンは何か意見あるか」
即答だった。目がキラキラと輝いている。
「オバケ屋敷!」
呆れたような表情でガーネットはロイヤーンを見る。
「だろうと思った」
経験上そうなるだろうなと予測していた。ロイヤーンはゲームのジャンルの中で特にホラー系を好む。ゾンビだろうが、怪談類だろうが、何でもイケる。本人が言うには「スリリングがあった方が楽しいから」だそうだが。
「ランダム要素のある七不思議モードもあるぜ? それに当たるとも限らないけどいいのか?」
どこに行っても楽しめるのでガーネットとしては問題ない提案だ。だがこのオバケ屋敷、たまに洋風の屋敷から小さい分校に変わり、七不思議モードに切り替わる時もある。数日経っても、法則性が分からないらしい。こういう部分では恐らく、ロイヤーンにとって問題になるだろうとガーネットは考えている。
「大丈夫大丈夫。見るのも好きだから。あとでスパゲッティーにゃの見るし」
意外にも大丈夫そうだった。サムズアップしている。
「彼もこのゲームするんだ……」
タワーの何とも言えない笑顔を見たガーネットは同意をする。
「それな。ホラー要素、そこまでねえのに」
「え。あの人結構色々とやってるよ? 専門がホラー系なだけで」
「マジか」
この後、色々とぐだぐだになったが、どうにかやりたいことをまとめることが出来た3人であった。計画といっていいのか分からない簡単なものになり、カレンダーには落書きをした感じのものが描かれているが、まあそんなものだろう。遊びの計画は。
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