第4話 古い日本家屋へ

 1番近いところに何故か不動屋さんがあった。チェーン店で見かけたおじさんの像、アイスクリームの像、昔の道路にあった交通の看板のような何か……などなどが置かれた、やや汚い印象を持つところだ。ガーネットZはしおりを見る。


「なるほど。無料で家が借りられるのか」


 読み取ったことをそのまま2人に伝える。信じられないといった表情になる。


「無料でだと!?」


 同時に突っ込みが入ってきた。声量的に近所迷惑になりかねないが、田舎風景のところなので大して影響がないのが現実である。ガーネットはうるさいと軽く注意をした後、続きを言っていく。


「そういうシステムだとよ。家屋クラスだと絶対条件として2人以上の名義」


 ロイヤーンがボソリとひと言。


「ボッチプレイ購入出来ない奴じゃないか。あーでも部屋は借りられるのか。そういりゃ……違う話になっちまうけど、ログアウトとかどうすんだこれ」


 ガーネットとタワーがハッと気づく。確かにそうだと。


「お前まで驚くか」


 タワーはしおりを読んでいたはずのガーネットに言った。


「全部読み終わってねえよ。えーっと。ログアウトはー……どこでも出来る方式で、ログインしたら必ずあの駄菓子屋の前から始まるよ……だってよ」


 ログアウトに関することを音読。その後、不動屋さんに入る。ガラガラとすりガラスの引き戸を開けると、意外に清潔だった。分厚いファイルがぎっしり詰め込んでいる棚が左右にあり、真ん中に折り畳みの机と椅子がある。そこに主らしき真ん中が剥げているおじさんがいた。半そでのシャツにズボン。夏限定のサラリーマンの格好である。ただしおんぼろのサンダルを履いているが。


「らっしゃい。色々あるよ。条件あるかな」


 のんびりしてるなこの人。そう思いながらガーネットは真ん中の回る椅子に座る。


「とりあえず4人でくつろげる広さで。あと台所も欲しいです」


 思い浮かんだものをとりあえず言うガーネットである。


「あと庭も欲しい」


「分かる。古い時代の日本がいいよな。何だっけ」


 更に2人が要求してきた。座った男は思わず後ろを見る。楽しそうな顔なので、特に何も言わないリーダー役のガーネットである。不動屋さんのおっさんは気にせず、右の棚のファイルをひとつ取る。


「これはどうかな」


 辞書かと思うぐらいの厚さのファイルをドンと置き、真ん中辺りのページを3人に見せてくれた。屋根は瓦で出来ており、ふすまや障子、畳などの写真がある。庭付きで外での作業も可能。台所は広々としており、大人数での何かを作る時でも問題はないだろう。


「ここにするか?」


 ガーネットは2人に確認する。特に反論の様子がない。


「ここにします」


「ここに名前を書いてね」


 ボールペンで代表者のガーネットが書く。その後、3人は「流石ゲームだ」と感じた。指パッチンで古くからある日本家屋のところに飛んだのだから。慣れている彼らですら反応が出来ない辺り、ラグが全くなかった。


「あれ。俺ら不動屋のとこにいたんだよな」


 瓦の屋根の1階の家。物入れらしきものが右にあり、目の前に庭があった。誰かが手入れしていた跡がある。池があり、木々があり、花があり。眺めるだけでも十分楽しめるだろう。


「おー! 広い! ちょっと探検しに行ってくる! ふーっ!」


 ロイヤーンが珍しく、はしゃいでいる。早速家の中に入った。奇声をあげているが、誰も止める気ゼロである。


「俺も周りを見てくるが……お前はどうする」


 タワーの問いにガーネットは答える。


「俺も回る。色々と気になる。粗方見たらどうせ集合するだろうし、適当にやっとくか」


「言えてるな。そんじゃ」


 3人はほんの少しだけ少年に戻ったような、不思議な感覚になる。こういった田舎の、古い日本の光景を目の当たりにしたからか、あるいは夏休みというシチュエーションだからか。

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