第3話 仲間と合流
地面に足がついたと感じ、ガーネットZは目を開ける。ミンミンと鳴くセミの声。青い空に強い日差しと入道雲。肌で感じる暑い空気。夏の光景そのものだった。目の前に古びた駄菓子屋。その隣に雑貨屋がある。日差しをずっと受けるわけにはいかないため、屋根下に移動する。
「夏休みのしおりしかないのかよ」
数秒待っても、チュートリアルが来る気配がなかった。彼はゲームメニューを開き、アイテム欄にある冊子という名のデータを発見。それが原因で不満を含む声を発していたわけだが。
「自由度高いからか。納得。虫取りに魚取り、ゴーストバスター系、遊び系、おー……そういうのもあるのか。バトル系。彼奴らにも言わないと」
トントンと軽く叩かれる。ガーネットZは右を見る。人の良さそうな顔立ちの茶髪の男が笑っている。
「ガーネットでいいんだよな」
自分のプレイヤー名を言い当てている。プレイヤー名の表記を見て、自分の仲間であることをここで知る。
「……よく分かったな。ロイヤーン」
ロイヤーンという彼は観察力に優れている。攻略法を編み出す役目をすることが多く、司令塔ポジションである。
「時間帯的にそうかなって思ったんだよ。あとぼそぼそ声を出して読む癖あるし」
「癖あるのは否定しねえよ。それで。タワー(正式名はタワー男01である)は」
もう1人の仲間を探す。タワーと呼ぶ男はガーネット達3人の中で唯一結婚し、子供もいる。何かあったら遅れる可能性を彼らは十分理解していた。
「多分あの子達の悪戯対応中、だろうね」
ガーネットZはリアルのタワーの家に遊びに行ったことを思い出しながら言う。
「あり得るな。壁に落書きとか」
「実際直前までやってたよ。あの子らは」
糸目の優しい男、タワーがやって来た。ガーネットとロイヤーンは手を振る。ロイヤーンが楽しそうに言う。
「お父さん大変だな」
「いたずら盛りだからな。俺より嫁の方が大変だよ。それで。どの辺まで進めた」
タワーの答えに「だろうな」と2人は思った。年齢を何となく把握しているが故である。現実世界ならぐだぐだと会話を進めるのだが、ここはゲームの世界だ。タワーの最後の部分を聞いた2人は真剣な顔になる。
「いや。俺達もさっきログインしてきたからな。特に制限があるわけではない。ざっくばらんに読んでみたが、ただ遊ぶだけってのがウリみたいだ」
ガーネットZは「夏のしおり」という冊子から得た情報を2人と共有する。
「あとそうだな。朝昼夜のサイクルが早い。見た方が早いだろ。しおり出してくれ。ページ3のとこだ」
タワーとロイヤーンは冊子を取り出す。
「まんまガキの頃のしおりだな。でも冊子は初めてだ。端末に送られて終わりだったよな」
「古い時代のものってことだな」
データ化は学校教育にも影響があり、紙を扱うこと自体が稀になっている。教育制度自体が変わっているが、メインとだいぶ逸れてしまうため、割愛させていただく。
「なるほどな。確かにサイクルが早いし、子供の健康を考え、24時から6時までサーバーが閉じているのか」
タワーはうんうんと納得しながら発言した。VRのゲームは時間の流れは現実世界と合致しているとも限らない。ゲームによって変わって来るが、ここの場合は3時間で朝、昼、夜と変化していく形となっている。そしてタワーの考察通り、子供の健康を考えて、サーバー自体が閉じている時間もある。
「それだけじゃないだろ。この時間帯にメンテナンスも可能だ。そこまで考えてるかは知らないけどな」
ロイヤーンの推測は深夜の内にメンテナンスを行えるメリットがあるのではというものだ。2人はなるほどと思いながら、大げさに縦に頷く。
「まあ時間のサイクルは理解したとして。虫取りに魚に……なーるほど昔出てたゲームのVRゲー版って感じか。虫取りとか魚取りとか、要素がまる被りだ。あ。でもバトル系はなかったか」
ガーネット達が生まれるよりもずっと前、夏休みに関するゲームがあった。のんびりとプレイする形で、このVRMMOにも遺伝子が引き継がれている。雰囲気とかが完全に昭和そのものなのだ。因みにこの未来でもリメイク版があったりする。当然3人はプレイ済みである。
「だろ。とりあえず情報収集から始めるか」
ガーネットの台詞に2人は笑う。
「賛成」
こうして彼らは夏のゲームを遊んでいく。普段やるようなゲームにはいなさそうな人もいるのではという思いを持ちながら、何も考えずに駆けていく。
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