第30話


ここ?…


凛子さんがシルバー色の扉に手を伸ばし開けた途端、無音の空間から別世界に足を踏み入れた錯覚に陥った。


周りに特大のスピーカーとアンプなどの機材らしきものに、真っ白なグランドピアノ、その中で演奏している5人の生徒…


凄まじいギターとベースの共鳴、それに合わせるように、超低音のドラムの振動とカミナリのような激音、キーボードとクラシックギターのメロディーが艷やかに絡み合った、和でも無く、洋でもない音楽が身体中に感じられる。


演奏しているのは紛れもなく、あの人達だ…


私とちあきは立ちつくしたまま、その熱いパフォーマンスに魅了され、あの、部活説明会の時以上の迫力ある音楽に言葉を失っていた。


特にギターの西島さんの演奏は、ギターがわからない私でさえも見入ってしまうほど…音も、そして…真剣に弾くその姿は美しく輝いていて、頼りなさそうな普通の時とはまるで別人、それに、あのドラムの吉川さんなんて、あの小さな体のどこから出ているの?ってそう思わせるスピーディーな叩き方に、パワフルなリズム感がめっちゃハマっている。


他の先輩達も…まじめにかっこいい…というより寧ろ…


綺麗!


こんな部だったの…


シルバーの扉にあったネーミングの…K ・ 音・学・部 って!


ねぇ…ちあき…なんか凄いね!


……う…ん…


横にいるちあきに何を言ったとしても、今は聞き入れてもらえないだろう


私達はしばらくの間、音の世界の中で興奮状態が覚めやらないでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る