次第に
ッ……十時。ラジオ番組が始まり、女の声が流れる。
『この番組は視聴者の皆さん、そう。貴方の好きや嫌いをワタクシ
はいっ。二月の第二金曜日!
今宵も始まりました“棚からお気持ち“。
いやはや、今週はオリンピックの観戦で
ワタクシはフィギュアスケートを観ていたんですが、本当に選手も衣装も演技も素敵っ、美しかった!
嬉しい!!
…はてさて!
ちゃんとなんとかお便りありますのでね!
じっくりとゆったりと読んでいきます!
最初のお便りはペンネーム・ムンクの文句を聞き入れたい受付嬢さんから。
ボタモチさん、こんばんは。
こんばんわぁ〜!
私は全部上手くいったらつまらないだとか、失敗は肥料だとか、そうやって失敗を正当化するような歌詞が嫌いです。
最高、絶頂を否定するような曲がイイとされる世の中に息苦しさを感じていた所、それを全部食い潰すようなこの歌に出会い、私は解放されました。
志望校にも受かりました。
わ、おめでとうございます。
どうかこの曲を聞いてください。
それでは、“夕闇の底ナシ野郎“で。
“ドラマティックは終わらない。“どうぞ。
…………
ぉーほっおぉ!お便りにワタクシが曲流す文句まで書かれてましたァ〜い。
この歌はインディーズらしく、なんとお便りにCDも同封して頂いてね。いやぁ、助かる!!
オーソドックスなラブストーリーを豊かな声色で飽きさせず、正にドラマティックに表現したいい曲でしたね。
メジャーデビューが楽しみっ。
うん、でね。お便りに戻るんですけど。
多分、
インディーズからメジャーになるような……
そういう野心に熱心な時、同時に失敗、挫折だとか無力感、嫉妬をしたりされたり……
色々
なので…あ!今回は既に解決されてるんでしたね、じゃぁあ あははっ
受付嬢さんの嫌い、分かります。
それが好きな人の気持ちも、また分かります。
ということで。
お便り、ありがとうございました!!』
決まり文句を言う。
──この調子で三十分間の放送を熟した。
萩野冬凪、二十二歳。家路につく。
街頭を反射する白く輝く雪道を歩く。
人は何かを好きになるほど嫌いになる。
逆も然り。
疑った分信じたり、下ろした分背負ったり。
逆も然り。
「うん、もうすぐ着くよ」
一瞬を咀嚼して飲み込むのに人生を費やしてしまう。
「
何度も。
何度も、人は。
「……明日は、お墓参りに行こっか」
そんな気持ちたちを中心に据え、この番組をやっている。
冬凪が突き落とした人間の人生は壊れた。
四年前、冬凪が高校三年生の時、
その“人生を
その死は小春子を弱らせた。
それが尾を引き冬凪と移り住むに至った。
不幸は度重なる変換変容によって幸福へと変わった。
他人の。張とは程遠い本人の。
あの日も……その日も。
この日も、罪責が不可視の系譜に綴られた。
常に至る所で。
斯く、何度も。
書く、幾度も。
殴り描かれ続ける。
「……え?」
家の扉の前には、
『人は、幼少から目の当たりにして培ってきた自分にとっての当然、それに当て嵌る物事はいくらでも受け入れられる』
「あの……どうしました?」
当然ではなかったが、冬凪はその存在を拒絶しなかった。
「うん、外で人が……鍵開けてカイロ用意しといて」
『だけど、他の人を見た時。
その当然が摩擦を、火花を起こして、衝突して、砂埃の中で瓦解してしまう。
色んな感情が駆け巡って、それが自然の不平等を埋め立てるように外へと引き出される。
吐き落とされる』
当然の瓦礫で世界はいっぱい。
わたしたちはその上を長靴を履いて無理やり歩いてる。
これからも、ふたりで歩き続ける。
『それでは聞いてください』
『“轍達“で“あの日のポエムへ“』
モルタルと金魚 鳳 @ootori5
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