第7話水原の言い分

仕事が終わると総務課の水原涼子(27)は、営業課の中原拓也(43)を会社の正門で待っていた。

昼間に、待ち合わせのLINEを送っていたのだ。

5時40分、水原の前に中原が現れた。

「水原ちゃん、今日はどこ行く?」

「いつもの居酒屋千代でいいですよ。喫煙OKだし」

「水原ちゃんも、喫煙者?」

「ストレスがたまったら吸います」


居酒屋千代


「あ、中原さんいらっしゃい」

声を出したのは、この店のババアの孫、凛であった。

2人はカウンター席に座り、馬刺と焼き鳥を注文した。

2人ともレッドアイで乾杯して馬刺にたっぷりニンニクを乗せて食べた。

明日も仕事だが、会社にはマスクを利用するのでバレない。

それに、ブレスケアとMINTIAで誤魔化せる。

水原が中原に問う。

「中原さん、丸山さんとお付き合いするんですか?」

「い、いぃや~」

「私は丸山さんより、中原さんの事知り尽くしているんです。私じゃダメですか?」

中原は、モテ期に入ったのだ。


「よく考えたんだけど、丸山さんは飲み友達くらいの存在。この前、告白されて胸が痛かったんだ。僕は正直な話し水原さんともっと仲良くなりたいんだ」

そう言うと、中原はハイライトに火をつけ、水原はWinstonに火をつけた。

しばらく2人は沈黙していた。

静寂を破ったのは水原だった。

「私はお酒の飲めない人、信用しないんです。お酒は心を裸にします。そして、本音を話すんです。中原さん、黒ビール好きですよね?」

「うん」

「私の知ってる店に行きませんか?まだ、7時だし」

「そうしよう」

中原は3600円払い、水原御用達の店に向かった。


居酒屋沢の屋。

店内はこじんまりとしていて、水原オススメの黒ビールを飲んだ。まるで、コーヒーを飲んでいるような風味がした。

そこで、マグロのステーキを注文した。

マクロの尾っぽの切り取った断面の部位だ。

「いや~、今度、丸山さんと話す機会があったら、僕は断るね。僕には策士、水原が付いてるから。これからは、もっと頻繁に飲もうよ。秋から僕は係長になるんだ。給料もあがるし。まだ、交際は早いが僕は水原さんとの時間を楽しみにして、お互いの素の姿を見てみたい。付き合うのはそれからだよ」

「中原さん、ありがとう」

山芋ステーキも美味しかった。この店を中原は気に入った。

ここも、中原が支払った。

4780円だった。


「今日は、嬉しい言葉もらって良かったです」

「うん、僕も。でも、誰にも言わないで欲しい。色々あってね」

「はいっ、分かりました大魔王」

2人は各々、家路についたのである。時間は10時半だった。







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