第4話ホッピー

中原と加藤課長は秋の人事に向けて後任の者の為に引き継ぎ書やマニュアルを作成し残業になった。

「中原君、今日はここまでにしないかい?」

「あ、もう7時。課長帰りましょう」

2人は身支度して、ネオン街を歩く。

そして、カナブンが光に引き込まれるように、赤提灯に吸い寄せられた。

おでん屋の大番と言う店だ。ここのおでんは味噌おでんで真っ黒だが、食べるとしつこくなく、酒のお供には丁度いい。

中原は玉子、大根、牛スジを注文し、課長は大根、白滝、きんちゃくを注文した。

それから、豚足も。

2人は、ホッピーの黒を飲んだ。

「中原君。ホッピーが似合うのは40を過ぎてからだ。君は今いくつだい?」

「酷い偏見ですね。43です」

「そうか、君が入社してきたときはまだ

22だったな。私が29の時だ。まだ、あの頃は平社員だったなぁ。友達もいなかったし」

課長はノスタルジックな気分になっていた。

「課長、いつもホッピー飲むとその話ししますよね?」

「そ、そうか?」

「今は面倒見の良い上司だとみんな言ってます。僕も加藤さんが上司だから、頑張れたんです。加藤さんが裏で僕を係長になることを働いたのも耳に入ってます。感謝しています」

「そうか?いかんいかん、ホッピーは悲しくなる。黒ビールに変えよう」

「はい」

中原は豚足にむしゃぶり付き、

「旨いなぁ。大番の豚足は」


「そうだ、課内の親睦を深めるために来週末、BBQしないかい?」

「いいですが、場所はどこで?」

「会社の屋上だよ」

「何ですって」

「これで、団結力を深めることが出来る」

「もう、団結してるじゃありませんか?」

「いいや。女性社員が付き合い悪い、いつも総務課の女性社員じゃないか!」

「彼女らには、彼女なりの事情があると思いますよ!」

「よし、君が人間を集めなさい」

「えー、めんどくさいなぁ」

「さっ、黒ビール飲んで、飲んで。ここは奢るから」

「!!……課長、やってみます」

「なんと、現金な人間なんだ、君は」

しばらく、おでんをつつきながら2人は店を後にした。

勘定は4800円だった。

「中原君、まさかここで帰らないよね?」

「はい。そのつもりです」

「じゃ、川魚料理のならむらに行こう。アユを食べたいんだ」

「御意」

2人はなかむらへ向かった。


かなむらは大繁盛していた。2人はカウンター席の端っこに座った。

アユの塩焼き、鯉の洗い、鯉こくを注文し、酒はひやを二合ずつ飲んだ。

アユの塩焼きを背からかぶり付く。新鮮なアユはスイカの匂いがする。または、キュウリの香りとも言われる。だから、魚篇に香でアユなのだ。

「課長は週どれくらい飲んでます」

「私は、家庭持ちだから週2回が精一杯だな」

「やはり、そうなりますよね」

「どうした?中原君」

中原は、日本酒をあおってから、

「43歳独身はもう詰んでますよね?」

「何を言う。私は30代で結婚したが、まだまだ若いじゃないか!」

「最近、加齢臭がするんですよ」

「経理課の女性社員は、君といつか飲ませてくれって五月蝿いんだよ」

「何ですって!早く言って下さいよ」

「じゃ、来週のBBQに呼ぼうじゃないか。彼女らには私から伝えておく」

2人は23時まで飲んで解散した。この店も課長が支払った。中原が割り勘にしましょうと言うが課長はいいからと却下した。

代金は5500円だった。

中原は課長のこういう所がかっこいいと思い家路についた。

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