第16話 昔の記憶【前編】

 一人残された事務所にて、白花桃香は昔の記憶を脳裏に蘇らせていた。

 今から七年前。白花桃香は小学校四年生だった。

 夏休みに母方の実家に帰省することになり、そこで一ヶ月間過ごすことになった。

 ほとんど知らない街の風景に戸惑いを感じながらも家の中でのんびりと過ごしていたが、年頃の女の子なだけあってやはり外で思いっきり遊びたい。けど、当然ながら近くに友だちはいるはずもなく、外に出ても街中をぶらぶらするだけか公園で一人寂しく遊具で遊ぶことしかできなかった。


「いいなぁ……。みんなお友だちと楽しく遊べて……」


 この日も白花桃香は一人だった。

 公園のブランコに乗りながら遠くで遊んでいる子たちを羨ましそうな目で眺めている。

 家に帰ったところで夏休みの宿題なんてあまりの退屈さから全て終わらせてしまった。もう何もすることはない。

 このままなんの思い出作りもなしに一ヶ月という長期間の休みを浪費してしまうのだろうかとそう思っていた時だった。


「ねぇ、君もしかして一人?」

「…え?」


 唐突に声をかけられた白花桃香は驚く。

 横を振り返ると、そこにいたのは一人の少年だった。

 見た目は確実に自分より年上に見えるけど、どうして声をかけてきたのだろうか。ナンパ? ロリコン?

 白花桃香は瞬時に警戒体制へと入る。


「な、なんですか? 私、男いるんですけど!」


 何かのテレビドラマで観たナンパの断り方を実践してみる。大抵は男がいると言った途端にナンパ男たちは「チッ。男連れかよ」と言って去っていくものだ。

 ––––さぁ、正体を現せ! ゲス野郎!

 だが、目の前の少年は悪ぶる態度を見せることなく、若干困り顔になる。


「あ、そうだったんだね。てっきり一人だったから遊び相手がいないのかなって思って……。この辺りで見かけない子だったから……」

「あ……」


 この瞬間、白花桃香は自分の言動に激しく後悔した。

 目の前にいる少年は私のことを心配してくれて、わざわざ遊びに誘ってくれたのになんてことを口にしてしまったのだろうと。


「実を言うと、俺も暇してたんだよね。去年まではめちゃくちゃウザい幼馴染がいて退屈してなかったんだけど、別の街に引っ越してしまってさ……。他の友だちは家族旅行だの予定が合わなくて、こうして一人でぶらぶらしてたところだったんだよね」

「そうだったの?」

「うん、けど、友だちを待ってるみたいだから俺はそろそろ帰るね。邪魔しちゃってごめんね」


 そう言うと、少年は背を向け、立ち去ろうとする。

 白花桃香はその姿に妙な罪悪感が湧き、つい引き留めてしまう。


「ち、ちょっと待って!」

「え?」

「今、待っていた男から予定が入って来れなくなったって連絡が入ったから一緒に遊ぼ?」

「連絡って……君、携帯電話持ってないよね?」

「あ……て、テレパシー! 私、テレパシーが使えるの! だから、その子とも心の中で通じ合っているというか……」


 小学四年生の頭でもわかる。無理な言い分だと。

 しかし、この少年は違った。


「て、テレパシー使えるのか!? すげぇ〜!」


 目をキラキラと輝かせ、本気で白花桃香の嘘を信じていた。

 ――この人……バカなのかな?

 当時の少年の知能指数は白花桃花より下だった。年上なのに頭の中身は年下。白花桃花は小学四年生ながら目の前にいる少年の将来が心配になった。


「テレパシーって、どう使うんだ!? 俺にも教えてくれ!」

「あ、うん……。これは限られた極僅かな人にしか使えないんだよね。あはははは……」


 あまりのアホな会話に思わず棒読みになってしまう白花桃花。

 少年はその言葉にわかりやすく肩を落としてみせる。


「そうなのか……。これがあれば俺も一躍時のスターになれると思ったのになぁ。あ、そうだった! 俺、玉城祐! 小学六年生! 君は?」

「白花桃花……小学四年生」

「俺より年下か……。じゃあ、とりあえず今日はこの街のおすすめスポットを案内するよ!」


 そして、白花桃花は当時十二歳だった玉城祐に出会った。



【あとがき】

 作品フォロー(ブクマ)、☆、レビューなどよろしくお願い致します!執筆の励みになります!


 三人称で書いたことがあまりないから難しいなぁ…。


 残り6日で4万字はキツすぎる!改稿もしたいのに無理だ!









 

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