第15話 照れ隠し【後編】

 白花さんと二人っきりとなった事務所の空間。

 テーブルの上にどっさりと盛られた使用済みの優待券等を月毎に手分けしながら集めていく。

 冷房と客席側に流れているBGMが微かに聞こえるほどの静けさに俺は気まずさを覚えられずにはいられなかった。これが俗に言う嵐の前のなんちゃらというやつか?

 時折、白花さんは俺のことをじーっと見てくるし、この状態で作業を続けていくのは耐えられん!

 俺は一つ咳払いをすると、世間話を交えてアイスブレイクを試みる。


「そう言えば白花さん。最近、学校は――」

「先輩、世間話もいいですが、その前にお聞きしたいことがあります。特につい先日の件についてです」

「あ、うん、どうぞ……」


 アイスブレイクどころか俺のハートがブレイクされそう……。

 白花さんが口にした「つい先日の件」というのは間違いなく、健人たちとダブルデートした時のことだろう。

 いつかは話さなくちゃいけないとは思っていたけど、まぁその日が今日だったというだけのことだ。何も恐れることはない……すっごい睨まれてるけど。


「あの女の人、彼女って言ってましたけど本当に彼女なんですか!?」

「そ、そうだけど……?」


 だんだんと白花さんの声音に力が入る。


「いつからなんですか!?」

「二カ月くらい前から……」

「なんでもっと早く言ってくれなかったんですかっ! 先輩は最低です!」

「言う機会がなかったんだよ……ごめん」


 白花さんはがくりと項垂れてしまった。

 最低という言葉はさておき、白花さんとはバイト先の後輩という関係でしかないため、普通に接してれば話す機会は当然ながらない。会話の流れとかでもしかするとあるくらいだが、そのような会話もしてこなかった。


「ふふ……ふふふ……」


 次第に白花さんは不気味な笑みを浮かべ始める。

 俺はその様子に戦々恐々しながらも息を呑む。


「こうなってしまった以上は……仕方ないですよね」

「白花、さん……?」


 一体何を考えてるんだ……?

 白花さんは席を立つなり、俺の肩をぐいっと掴む。

 

「先輩をあの女から奪うしかないですよね。そうですよね? うふふ……」


 まさかの白花さんが闇堕ちしているだと……?!


「な、何を言ってるのかな? 白花さん」


 これで白花さんが俺に対して恋心を抱いているのは訊ねるまでもなく、明白な事実だろう。

 健人たちが言っていたように俺はいつの間にかJKに好かれていたわけだが……


「わからないんですか? 言葉のまんまの意味ですよ?」


 白花さんの端正でどこか幼さが残っている顔がどんどんと近づいてくる。

 

 ――本当にナニをしようと……?


 逃げたくても逃げられない。まるで影を縫い付けられているかのようにイスから体が動こうとしない。

 ふと、白花さんの薄くて艶やかな唇に視線が向いてしまう。

 きっと、その唇でキスをすればとろけてしまいそうなくらいに気持ちいいのだろう。

 しかし、同時になぜか紗奈のことが脳裏をよぎった。

 彼氏彼女の関係とはいえ、キスをしたことはない。成り行きの関係……紗奈の両親に押し切られる感じでお試しという形で成り立った現状。


「紗奈っていう人が恋愛感情的に好きでなければ、私を受け入れてくれますよね?」

「っ?!」

「……先輩?」


 俺は寸前のところで顔を背けた。

 紗奈については恋愛感情的に好きなのかそうでないのか未だに判然としていない。だからこそ、有耶無耶な関係性で他の女の子に手を出すわけにはいかなかった。

 俺はどうせ付き合うのであれば誠実でいたい。紗奈か白花さんか……もしくは他の誰かか心の底から好きな人でない限り、キス以上のことは出来ない。


「ごめん……」


 女の子からすれば、キスしようとしていた相手が寸前で顔を背けたらそれが答えと共に傷ついてしまうだろう。

 俺はどう言葉を返せばいいのかわからなかった。

 だが、白花さんは俺の表情を見て、微笑んでいた。


「わかりますよ。先輩がどう考えているのか」

「え?」

「先輩って、変なところで真面目ですよね〜。別にきっかけは不誠実でもいいと思うんですけど」


 白花さんは愚痴をこぼすかのように告げ、頬を膨らませる。


「それでも私はそんな先輩がから好きでしたよ」


 俺は幻想でも見ているのだろうか。

 白花さんの人懐っこそうな笑みが心の内に染み込んでくるかのように胸がざわざわとして……俺は目の前の女の子に見惚れていた。


「あ、玉城くん!」


 どのくらい時間が経過したのだろうか。目を離せない内に事務所の扉が勢いよく開くなり、同僚の田中先輩がやってきた。


「お客さんが増えてきたから戻ってきてもらってもいい?」

「……えっと」

「先輩、こっちは私一人でやっておくんで行ってきてください」

「わかった。ありがとう……」


 そして、俺は仕分け作業を中断して厨房内へと戻った。



【あとがき】

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サブタイトルミスった。


忙しいいぃぃぃぃ!!!



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