第14話 照れ隠し【前編】

 梅雨時の店内はいつもとは違い、ガラリとしていた。

 普段は小さく感じるBGMも今日に限ってはやたらと大きく聞こえる。

 厨房内にいた従業員も暇すぎて、裏の方でぺちゃくちゃと世間話をしている人もいれば、店内の掃除を始める人もおり、そんな俺はというと……荒木店長に呼び出されるなり、事務所にて事務作業を手伝わされていた。


「なんで俺が優待券やら商品券の仕分けをしなくちゃなんないんですか。大体、これ月一で本社に送るものですよね?」


 テーブルの上には数えきれないほどの使用済み券がどっさりと盛られていた。

 一体何ヵ月分溜まってんだよと思いながら、同時に添付のレシートを確認すると、少なくとも半年前の分からある。


「仕方ないじゃないか。私だって、こことあと一店舗を兼任して業務に勤しんでるんだぞ? マックとか大手外食チェーン店とは違って、人手不足だからこれくらい文句言わずに手伝ってくれ」

「いや、手伝う分にはいいんですけど……」


 一気に少なくとも半年分溜まっている券をひと月毎に仕分けろだなんて無茶苦茶すぎる。ざっと見て券の数は千枚以上。最低もう一人いないと営業時間内には終わらせることは無理だろう。


「わーったよ。じゃあ、白花さんと一緒にするがいい。どうせまだ新人さんだから指導係の玉城が一緒についてなきゃほとんどできないだろうし」

「わかりました。ところで荒木店長はどこに行くんですか?」


 荒木店長はパソコン作業が終わったのか、デスクを離れるなり、荷物をまとめ始める。


「兼任しているもう一店舗のところに向かうんだよ。そこでも仕事が立て込んでるからな」

「大変なんですね」

「ああ、本社で呑気に働いている輩と違って、現場仕事はかなりの重労働だからな。大体新商品を開発するにしたって現場仕事の状況を見て––––」


 荒木店長はどうやら本社に対しての不満がかなり募っているらしい。

 まぁ、現場で働く身としては荒木店長に言い分はわからなくもないが、その不満を持っている下で働いている以上は上の言いなりになるしかない。俺たちはそれを受け入れた上で毎月のように給与をもらっているわけだから。


「……おっと、ぐちぐち言っている場合じゃなかったな。それじゃあ、後はよろしく頼んだよ? 仕分けたものについてはデスクの上に置いてもらっていいから」

「了解です」


 荒木店長はそれだけを言い残すと、店舗を後にした。

 同時に俺は飲食店だけは将来働きたくないなと思った。飲食店業務はデスクワークと違ってマニュアル通りに進めたら営業がうまくいくとは限らないからな。時には臨機応変な対応だって求められるし、この界隈で働いたことが一度でもある人なら俺の考えは十分に理解できるだろう。


「さてと……白花さんでも呼んでくるか」


 ちょうど確かめたいことだってあったわけだし、いい機会になる。

 俺は仕分け作業を一旦中断したのちに事務所を出ると、ホールでテーブルなどを拭いていた白花さんを呼びに向かった。


【あとがき】

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 1話にまとめたかったけど、これから漫画動画の仕事が4つも立て込んでるので一旦ここまで! ホメノバとあかつき高校漫画部にて僕が担当した動画が公開されてますので是非とも探して見てください!

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