第17話 昔の記憶【中編】

 玉城祐と出会って以降、白花桃花は毎日のように遊ぶ仲へと発展していった。

 ほとんど知らない土地で初めて出来た友だち。祖父母の家にいる間だけの限定的な関係にちょっぴり寂しさや悲しさを感じることもあったが、玉城祐はそれすらを忘れさせてくれるほど、自分の知らない場所やオススメの場所へと連れて行ってくれた。

 まるで毎日冒険しているかのようで玉城祐の背中を追うだけでも楽しかった。

 だが、長いと感じていた夏休みは刻々と過ぎ去っていく。八月もすでに下旬を迎え、残り一週間程度となった頃。

 二人にとっていつもの待ち合わせ場所と化した近くの公園にて、この日も昼から集まっていた。


「ねぇ、玉城くん。今日はどこに連れてってくれるの?」

「そうだなぁ……。じゃあ、俺の秘密基地に連れてってやるよ!」

「秘密基地?」

「ああ! けど、今から行くわけじゃないぞ?」

「え?」

「今日、花火大会があるの知ってるか?」

「うん、運動公園であるやつでしょ?」

「そうだ。毎年一万発の花火が空いっぱいに上がって綺麗なんだけどさ、二人で一緒に行かないか?」

「い、一緒に……?!」


 夜にしかも異性と二人っきりでお出かけするなんてまるでデートみたいと思ってしまう白花桃香。この時はまだデートというものがどういった行為なのかざっくりとしか理解していなかった。

 ゆえに白花桃香は顔を赤くしてしまう。自分に好意を抱いているのではないかという勘違いのおまけ付きで。


「いや、だったか? 別に無理しなくてもいいんだぞ? 親が許してくれるかっていう問題もあるわけだし……」

「ぜ、全然そんなことない……。じゃあ、一緒に行こ? 玉城くん」


 幼い少女の胸にある心臓がドクンドクンと大きく響く。

 ここ最近は、ずっとだ。玉城裕と一緒にいるだけで胸が締め付けられるような感覚に襲われ、苦しくて切ない。

 初めての感覚に白花桃香は戸惑いすらあった。しかし、同時にこれが初恋というものなのではないかと気づき始める。彼の無邪気な横顔を見るだけで自然と笑みがこぼれ、いつまでもずっと見ていられるようなそんな感じがした。


「よしっ! ひとまず決まりだな! 待ち合わせ場所は迷子になるといけないからこの公園で六時から集合な?」

「うん!」



 午後六時。

 住宅街となっているこの地域では、花火大会が開催される運動公園へ向けて徒歩で移動する人々が多く散見された。

 普通の私服の人もいれば、浴衣を着ている子もおり、家族連れ、友人、恋人とさまざまな組み合わせが見て取れる。

 白花桃香は事前に親には、新しくできた友だちと一緒に行くことを告げている。夏らしく朝顔が模様になったピンクを基調とした浴衣を身に纏い、髪型もしっかりと決めてきた。


「まだかな〜? ふふふ♪」


 人生で初めてのデートに彼女は心を躍らせていた。

 好きな子と一緒に花火大会を見に行ける。これほどまでに幸せなことは生まれてからかつてない。

 自然と鼻歌を口ずさみながらしばらく待っていると、背後から肩をトントンと突かれる。


「ひゃっ?!」


 突然の出来事に思わず肩が飛び跳ねる。

 そのあとすぐに聞き馴染みのある笑い声が響く。


「ははは、びっくりした?」

「もぉ〜!」


 白花桃華は顔を赤くしながら目尻に涙を浮かべ、頬をぷっくりとハリセンボンのように膨らませる。


「玉城くんなんて知らないっ!」

「え……もしかして怒ってる?」

「ふんっ!」


 白花桃華は胸の前で腕組みをしながらそっぽを向く。

 彼女の反応が予想外だったのか、玉城裕はわかりやすくも慌てふためく。


「ご、ごめん! そんなに怒るとは思わなくて……」

「ふんだ! 知らないっ!」

「本当にごめんなさい! つい出来心というか……あ、そうだ! 桃華の食べたいものとか奢るからさ! この通り!」


 玉城裕はなんとか許してもらおうと必死に頭を下げた。

 その様子を見ていた白花桃華は我慢の限界といった感じで吐き出す。


「ぷっ、はははは」

「……え?」


 突如として笑い出した彼女に対して、ポカンとした顔になる玉城裕。

 白花桃華はしばらくの間、腹を抱えながら笑った後、「嘘だよ。じょーだん」と告げる。


「これでおあいこ、だからね?」

「あ、ああ……」


 呆気に取られている玉城裕をよそに白花桃華は手を掴んで走る。


「さ、早く行こ?」

「お、おう……」


【あとがき】

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 ノベプラのピックアップコンテスト辞退することにしました。

 いや、シナリオの仕事が忙しい上に今月、もう1つのチャンネルさんからご依頼をいただいたので時間がありませんでした。11月締め切りの講談社ラノベ文庫新人賞に応募しようかな…。

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