第10話 修羅場?【中編】
最寄駅から電車で移動すること約二十分。県内唯一のターミナル駅にして、九州新幹線の最南端発着場でもある中央駅へとやってきていた。ここは駅全体が複合型商業施設となっており、改札を出て西口方面のエスカレーターを降りるとすぐに家電量販店がある。その反対側へと向かうと多くの専門店が軒を連ねるショッピングモールとなっており、駅舎二階にも飲食店が立ち並んでいることから「えきマチ」とも呼ばれている。
健人たちとの待ち合わせ場所は西口方面にある家電量販店の前の通称「出会い杉」付近。
中央駅は前述の通り、新幹線の発着場でもあり、ターミナル駅となっているため、特に午後一時前は大変混雑していた。
よくもまぁ、こんな人混みの中を平気で行き来できるもんだなと人酔いしそうになりながらも電車を降りると、階段を登って、改札口へと向かう。
そして、待ち合わせ時刻より十分も早く出会い杉へと到着したのだが……
「遅かったじゃないか」
「おーい、モリサナ〜!」
毎度おなじみの大親友ともう一人見かけない女子がいた。今日はダブルデートということもあって、間違いなく健人の新しい彼女だとは思うけど……どこに清楚要素があんだよ。
見た目はゆるふわのウェーブがかかった茶髪のショートボブに目鼻立ちはしっかりとした端正な顔立ちではあるが、どちらかというとギャルっぽい出立ちをしている。
そう言えば、ヤリサーの見学時に見かけた時は黒髪の清楚系だったか?
しっかりと見たわけではないため、記憶が曖昧だがこの子もまた遅い大学デビューをしたのは事実だろう。
それがまた彼氏である健人に感化されたものかはわからないが。
「あ、この人がモリサナが言ってた許嫁?」
「どうも……」
「マジウケるw」
どこにマジウケる要素があったんだよ……。
外見に限らず、中身までギャルだった。
「あたし健人の彼女の千咲芽衣! よろしくね? ゆうぽん」
「え、あ、うん。よろしく……」
千咲芽衣は俺のことを知っていたようだから自己紹介はしなかったが、ゆうぽんってなんだよ。初絡みにして、いきなりあだ名をつけて呼ぶとか、健人に負けず劣らずコミュ力高すぎんだろ。
こんな得体の知れない奴が紗奈の友人だったとは……
「そんじゃあ、揃ったことだし少し早いけど行くか」
☆
中央駅で待ち合わせとなると、その付近にある県内で一番の商店街であり、観光名所でもある天文館辺りをぶらぶらするのかと思いきや、意外にも併設されたショッピングモールだった。
ここは駅舎から一歩も屋外に出ることなく、行くことができ、地下一階から地上七階まである。入店しているテナントの数は優に百を超え、食材や日用品を販売しているコーナーから飲食店、衣服類もあり、ゲーセンや映画館もあったりと退屈させない空間となっている。極め付けは屋上にある観覧車。そこからは市内の風景が一望でき、シンボルと言っても過言ではない桜島まで堪能できる。デートスポットとしては文句ないところではあるが……
「なんでここなんだ? てっきりちゃんとプランを練っているものだと思ってたんだが?」
千咲芽衣と紗奈が楽しそうに会話をしながら前方を歩いている後ろで俺は健人と一緒に歩いていた。
「なんだ〜? 手抜きって言いたいのか? 全部俺に丸投げしたくせに〜?」
まるで俺のことを厚かましいと言いたげな顔をする健人。
そう言われてしまえば、それまでなのだが……
「だって、外暑いじゃん。別にここ以外でもよかったけど暑い中歩くのって嫌じゃね?」
「それはそうだが……」
「デートってのはな、別に場所なんてどこでもいいんだよ。大切なのは楽しませられるかどうか。それさえきちんとできればいいから……って、前にも言ったか?」
彼女を楽しませればそれでいい……なんて言われてもこれまでの経験がないだけにそこが最大点わからない部分ではあった。
が、健人は「何も難しいことじゃないだろ。まずは自分がやりたいことをやってみればいい」と言い、千咲芽衣と連れてどこかに行ってしまった。
――これじゃダブルデートじゃなくて、ただのデートだろ……。
「裕くん、どこ行こっか?」
「そ、そうだな……」
と、言われても俺の中でのレパートリーは限られている。ゲーセンは最終手段として、まずは映画館でもどうだろうか? よくドラマやアニメでデートスポットの定番として挙げられてるし、こんな時は恋愛系でも見たらいいだろ。
そう思っていたのだが……
「いらっしゃいませ! ご注文は……って、あれ? もしかして先輩……?」
七階にある映画館にて、二人分のチケットを購入した後。上映時刻までの間に何かしらの軽食と飲み物を求め、併設されているファストフード店に立ち寄っていたのだが、そこで今一番ある意味で顔を合わせたくない後輩がいた。
「なんでここに白花さんが……?!」
「なんでって言われてもここでバイトしてるからとしか……先輩は映画を見に来たんですか?」
「ま、まぁ、そう、だな……」
俺は戸惑いながらも後方を確認する。
紗奈には軽食を買ってくるとだけ伝え、ひな壇形式になったベンチで待ってもらっている。
まだバレていない今のうちにパパっと注文を済ませ、戻った方がいいだろう。でなければ、紗奈が白花さんと接触してしまった暁には……想像するだけで顔面蒼白を禁じ得ない。
「注文いいかな?」
「はい、どーぞ! ちなみにオススメは桜島大根味のポップコーンです!」
お客に対して、オススメを言えるとはさすが白花さんだ。
しかし、桜島大根味のポップコーンってなんだ? ガリガリ君ナポリタン味並に謎すぎる。需要なんて絶対にないだろと思いながらもどんな感じなのか少しだけ興味をそそられた。
「キャラメル味を――」
「桜島大根味オススメですよ?♡」
「そうなんだ。でも、キャラメル――」
「桜島大根味オススメですよ?♡」
「……キャラメル味――」
「桜島大根味、ですか?」
執拗に桜島大根味を勧めてくる白花さんの営業スマイルが怖い。
顔には絶対に買ってくださいと言わんばかりに現れていた。
「どうした?」
「先輩、実は桜島大根味が売れなくて困ってるんですよね。在庫もかなり抱えてて……」
「そりゃそうだろうな。味も想像できないものを好き好んで買いたいと思う奴なんてそうそういないだろ。せいぜい面白半分で購入する奴らくらいだろうな」
「ですよね……なので、先輩買ってください!」
「俺の話聞いてたか?」
「桜島大根味思った以上に売れないからせめての在庫処分として、従業員全員にノルマを課せられてるんですよ! 一人十個は売らないとクビにされちゃうかもしれないんです!」
そんなことでバイトをクビになることなんてあるのだろうか? 法律面上いろいろと引っかかりそうな気もしなくはないが……
「裕くんまだー?」
「っ?!」
桜島大根味のせいで注文が長引いたこともあり、紗奈がこちらへとやって来た。
「もうそろそろ上映時刻だけど……って、どーしたの?」
「え、いや、なんでもないぞ?」
「先輩、この人は誰ですか?」
「先輩? 裕くんこの人誰なの?」
とうとう危惧していた事態に発展してしまった。紗奈はもとより白花さんまでもが不穏な雰囲気をまとっていた。
まるで見えない気迫がぶつかり合っているかのように注文カウンターを隔てた間で睨み合う二人。
俺は当然ながらこの状況を沈静化できる手段を知らない。
「さ、紗奈落ち着こうか? 白花さんも、ね?」
「私は裕くんの彼女ですけど?」
「っ?! 先輩、か、彼女いたんですか!?」
「ま、まぁ……成り行きと言うか……」
白花さんは一瞬毅然とした態度を崩し、悲しそうな表情になったもののすぐに戻る。
「成り行きということはつまり先輩はまだこの人の事を好きではないんですね?」
「違う! 裕くんは強がってるだけであって私のこと本当は心底愛してるんだから! 同棲だってしてるし」
「ど、どどど同棲?! はは、ははは……」
白花さんの不穏な笑みが怖い。
「し、白花、さん?」
「いいでしょう。先輩、私もうすぐ上がるので一緒に映画見ませんか?」
「え?」
「ダメ! 裕くんは私と一緒に映画を見るんだから!」
「怖いんですか? 彼女なのに先輩を取られそうでビビってるんですよね?」
「そ、そんなことあるわけない! 裕くんは……」
「なら、問題ないですよね?」
俺、個人としては問題大ありなのだが、修羅場と化したこの現状では当然ながら言えるはずもなかった。
それにしてもなぜ白花さんは紗奈に対してここまで対抗心を燃やしているのだろうか。紗奈はともかくとして女心はいつもわからん。
【あとがき】
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連日のバイトで書けなかった。
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