第8話 デートしたことがない【後編】
学生においての本分と言えば、なんだろうか? 大抵の人は考えなくても、すぐに勉学と答えるであろう。俺もそう思っている。
日本における大学への進学率は大体全体の半分程度。同級生の中にはもう社会人として働いている者も少なくない。
だが、大学生である俺たちは高校までに習わなかった分野をより深く学ぶために過酷な受験シーズンを乗り越えてきた。多少の理由は個々それぞれ異なるだろうが、入学前は誰しも単位を落とさない程度に真面目に頑張っていこうと思っていたはず。なのだが……
「次のクエストどこ行く?」
「あー、適当でいいんじゃね?」
「オーケー」
「このプリ可愛くね」
「えーマジ可愛い! てか、今度一緒に撮り行かね?」
「さんせー!」
隣を見れば、男子二人でゲームを楽しみ、その反対側に視線を向ければ、女子たちがスマホを片手にキャッキャッしている。
講義中なのに半分近くの人は遊んでいた。
――お前らは大学を何だと思ってるんだ!
入学前の想像していた様子と現実では、随分と大差がある。
先生も特に注意するわけでもなく、真面目に受けている身からすれば、邪魔でしかない。おまけに前のチャラい学生の香水がマジでキツい。もはや俺にとっては地獄と化していた。
ある人が「大学は社会人になるまでの猶予期間。自由時間だ」と言っていたがまさにその通り。大学は学ぶところではなく、遊ぶところだ。
そして、親友である健人もまた講義に参加していなかった。いつもは俺の隣に座っているはずなのに今日は机が広々としている。
――あいつ一体何してんだ……?
先ほどラインで連絡は入れたものの、既読はついていない。少なからず、今朝キャンパス内で健人と会ったからいるはずだとは思うけど……
「すまん、遅くなった」
隣の席にようやく健人が腰を下ろす。
「遅刻なんて珍しいな。お前何してたんだ?」
「彼女と少し歩いてたら時間忘れてな――」
「リア充死ね!」
「おーおー、いきなりの暴言はどしたん? もしかして妬みかぁ?」
健人は俺を小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「なわけねーだろ。だいたい何が彼女と歩いてたら時間を忘れただよ。バカバカしい遅刻理由にも程があるだろ。つーか、いつから彼女ができたんだよ」
「そんなに怒んなって。彼女か? えーっと、二日前だったかな? 例の女の子なんだけど、告白したらオーケーもらっちゃってさ」
例の女の子ってたしかヤリサーに見学しに行った時に紗奈と一緒にいた子だったよな? 健人からは清楚な美女と見えているようだが、少なくとも違うことくらい会わなくてもわかる。
ひとまず健人の浮かれた表情を見ていたら、ますます腹が立ってきた。
「やっぱりお前、クリ◯ンみたいに爆発しろ」
「それ遠回しに死ねって言ってるのと一緒じゃねーか……。あのなぁ、お前も恋人がいない奴らから見れば、十分にリア充だからな。で、なんか話があるんだったけ?」
俺はホワイトボードに板書された内容を書き写しながら、本題を切り出す。
「デートって、どこに行って何をすればいいんだ?」
「……は?」
「その、今度紗奈とデートすることになって、行き場所を探してたんだ。ほら、お前も知っての通り、俺はこれまで女性経験がゼロだったからな。そういった知識はないに等しいんだよ……って、なんでそんな残念そうな顔してんだよ」
健人は大きなため息をつきながら、額に手を当てる。
「そりゃあ、するだろ。今朝会った時に深刻そうな顔で『後で重要な相談がある』って言われたから訊いてみたらこれだよ。まずググれば解決する問題だろ」
「いいや、こういったのは経験豊富な奴に訊いた方が確実だからな。それにあんまりネット情報を鵜呑みにしてはいかん。時には嘘情報まで載ってたりするからな」
「デートの情報に関しては少なくとも嘘情報はほとんどないと思うけどな。で、デートにおいてどこに行けばいいのかって話だけど、彼女が喜びそうなところであれば、どこでもいいと思うぞ」
「適当すぎないかっ?!」
「大抵はこんなもんだろ。彼女が行きたいと言っていた場所に連れて行くとかさ……そういったところないわけ?」
俺はしばしこれまでの紗奈の言動を思い出す。
「そう言えば、この前俺の実家に行きたいとか言ってたな。俺の親に挨拶するんだって」
「あー……うん。まだ早すぎるんじゃないか。やめとけ」
健人は引き攣ったような表情をしながらもまたしてもため息をついた。
「んじゃあ、せっかくだし今度ダブルデートするか? 彼女同士友だちなわけだし、問題ないだろ?」
「ほう……」
ということで今度の休日、ダブルデートすることが決まった。
行き場所などは健人が事前に決めておいてくれるらしく、後ほど連絡するということになった。
初めてのデートがダブルデートという人は世の中、そうそうにいないだろう。
一体どこに連れていってくれるのだろうか。紗奈の彼氏という立場ではあるが、内心楽しみにしておこう。
【あとがき】
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クリリンのことかぁぁあああああ!
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