第7話 デートしたことがない【前編】

「先輩、いつも送っていただきありがとうございます!」

「いや、これくらいのこと気にしなくていいよ」


 午後九時半過ぎ。

 俺は本当に可愛い後輩である白花さんを自宅まで送り届けていた。

 ここ最近では、不審者などが多発しているということもあり、女の子ましてや高校生一人の夜道はかなり危ない。そのため、シフトが被った日は必ず家まで送るようにしている。


「気にしますよ! でも、先輩のおかげで安心して帰れてるのは事実なので、今度何かしらのお礼をさせてください!」

「お礼かぁ。じゃあ、楽しみにしておこうかな」

「はい! 何がいいか考えておきますね! それでは、おやすみなさい先輩」

「ああ、おやすみ。またな」


 白花さんは軽く一礼すると、自宅の玄関ドアの向こう側へと消えてしまった。

 最後まで見届けた俺も自分の家へと帰宅するために街路灯がついた歩道を再び歩き出す。

 白花さんの家から俺の家までは約二十分ほど。地味に遠いだけにある悩みが生まれていた。

 それは……


「ただいま〜」

「お帰りなさい。今日も遅かったね」


 自宅マンションへと帰宅すると、サメのパジャマを着た紗奈が出迎えてくれた。

 ちなみにパッド騒動以降、自宅では装着していないためぺったっこである。

 紗奈は疑心暗鬼に満ちた目で俺をじっと見つめる。


「もしかして……女、できた?」

「なわけねーだろ。仕事が少し長引いただけだ」


 一応、ヤバいウソはついていない。後輩を自宅まで送り届けていただけなのだが、その子が女の子であることを知られては紗奈がどんな反応をするのかわからない。そのため、隠しているのだが、それが仇となったのかずっと疑惑をかけられていた。


「本当に? ちょっと失礼」

「おい!?」


 玄関を上がったところで紗奈が俺の衣服をくんかくんかと嗅ぐ。

 

 ––––お前は犬か……?


 人間如きが匂いを嗅ぎ分けることなんてできるはずがない。白花さんは真面目な子でもあるため、香水も一切つけていないからその点は大丈夫だろう。


「女の匂いがする……。しかも、女子高生の……?」

「っ?!」


 紗奈の疑念に満ちた眼光がこちらへと向けられる。


 ––––そんなバカな!? 女の匂いはともかくとして、女子高生まで嗅ぎ分けられるはずがない! というか、犬ですら無理だろ!


 きっとでたらめに違いない。そうだ。俺をふるいにかけている。


「ははは。冗談がキツいぞ紗奈。そんなはずないじゃないか〜」

「そう? でも、この甘い匂い絶対に女子高生だと思うけど……?」

「そう言えば、バイト先に新人の女子高生が入ったんだよ。その子の匂いがいつの間にかついちゃったんじゃないかな〜」

「……なら、いいけど……」


 決してやましいことをしているわけじゃないのにどうしてこんなに追い込まれなくちゃならないんだ……。

 背中にぐっしょりと冷や汗をかきながらも俺はすぐさまシャワーを浴びることにした。

 とりあえず紗奈には誤魔化すことはできたが、いつかは絶対にバレるかもしれない。紗奈の性格を鑑みれば……白花さんに迷惑をかけるのは必然的だろう。

 そうなる前にちゃんと真実を紗奈に話すべきだろうか。

 俺は一旦自室に戻ると、着替えを手に再び、廊下へと出る。


「あ、裕くん。ご飯はもう温めてもいいよね? お風呂から上がったらすぐに食べれるようにと思って……」

「うん、いいよ。今日のご飯はなんだ?」

「裕くんの大好物であるハンバーグだよ。丹精込めて一から作ったんだからねっ!」

「ほーう、これはまた楽しみだなぁ。言っておくが、ハンバーグだけは俺は手厳しいからな?」

「望むところよ! 私の主婦力を舐めないでねっ!」

「まだ主婦じゃねーけどな」


 紗奈と同棲生活を始めてから一か月あまり。

 空白だった約八年間を埋めるような毎日を過ごしてきているけど、紗奈は昔と変わらない性格をしていた。それがまた居心地がいいというのか、なんと表現すべきか……帰宅すれば、紗奈がいることに安心感を覚えるようになった。


 ––––今の紗奈なら……変に隠さない方がいいか。


 白花さんとはただのバイト先の後輩であり、それ以上でもそれ以下でもない。

 隠して、後からどうこう騒がれるよりかはちゃんと正直に話した方が互いのためであり、今後のためでもある。

 まぁ、紗奈のことだから俺が異性と二人っきりでいることは嫌うとは思うけど、状況的に理解はしてくれるだろう。

 浴室に入ると、俺はさっそく服を脱ぎ、一日の汗と疲れを流した。



 その後の夕食時。俺は紗奈にシフトが被った時だけ安全面を考慮して、自宅まで送り届けているということを話したのだが……早くも判断が間違っていたことに後悔していた。


「やっぱり女がいたんだね! どこの女よっ!」

「落ち着けって! 近所迷惑になるから!」


 俺の話をしっかりと聞いていたのかいないのか、地団駄を踏む紗奈。

 

「人の……人の夫に手を出すなんて許さないんだから!」

「まだ結婚してねーだろ! だいたい、何度も言うが、俺はただ送ってやっているだけからな? 邪な感情とかは一切ない!」

「……本当?」

「あ、ああ、本当だ」


 紗奈は俺の目をじっと見つめる。

 俺は視線を逸らした衝動をなんとか耐えながらも紗奈をじっと見つめ返す。


「なら、許す……」

「はぁ……ありがと」


 安堵の息とため息が同時に出てしまった。

 まったく……どんだけ俺のことが好きなんだよ。まぁ悪い気はしないけど……。


「裕くん……」

「ん?」

「お詫びに今度どこか連れてってよ」

「え?」

「ほ、ほら……私たち再会してからというものちゃんとしたデートなんてしたことないでしょ? 一応、付き合っているわけだし……」


 言われてみればたしかにデートをしたことがなかった。

 彼氏彼女の関係でもあるから、時にはそういうことをしたいと思うのも自然の摂理。ちょうど今度の週末はバイトも入っていないからどこか一緒に出かけるのもいいかもしれない。


「わかった。じゃあ、今度の休日二人でどこか出かけよっか」

「やったぁ♪ じゃあ、楽しみにしておくからどこに連れてってくれるかちゃんとプラン立てといてね!」

「え、俺が考えんの?」

「当たり前だよ〜。こーいうのは彼氏がエスコートしなくちゃダメなんだから」

「ほう……」


 そういうものなのか?

 女性経験ゼロなだけにどこに連れていけば喜んでもらえるかわからねぇ! ひとまず明日にでもヤリチン健人に相談してみるか……。


【あとがき】

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