第6話:魔法が解ける時
何気なく家のリビングのソファに座ってテレビを見ていた。澪はすぐ横で俺にもたれかかって同じようにテレビを見ている。
ホームアローンが放送されていた。もう何度見たことか。下手したら次に何が起こるか覚えているほどだ。
番組最中のCMを見ていると、コンビニの新商品のスイーツが宣伝されていた。
生クリームが多く使われているらしいプリンで以前のヒット商品の再販らしい。現在はコンビニ戦国時代だ。統廃合を繰り返し、名前がなくなったコンビニも数知れない。
そんな中、合併後のコンビニで合併前に人気だったスイーツを復活させる動きがある。まさに幻なのだ。これは絶対に食べる必要がある!
澪が帰ったあと、夜中に一人でコンビニに向かった。だいたいこういう時は、狙った商品がなく、何店か回ったりするのが あるあるなのだけど……あった!
1店目で発見! 無事ゲットすることに成功した!目当てのプリンと同時発売のエクレアを買うとまっすぐうちに帰り、コーヒーを淹れ自室でひとり「宴」を開催した。
早速 味を堪能すると、プリンは甘すぎず、それでいて甘さが足りないこともなく、ちょうどいい甘さ。やわらかく そして濃厚。これこそがプリンだと思った。
コーヒーで一旦口の中をリセットしたところで、次にエクレアを一口……
(バタン)「武、言い忘れたけど、明日は……」
この時世界の時間が停まった。固まる二人。1秒か、1分か、10分か……。
―この催眠術は強力すぎるから「暗示を解くキー」が必要
―甘いものを食べるまで暗示は解けない
―現在、プリンとエクレアを食べている
ここから導き出される結果は……「暗示が解けた」だ!
澪のあの表情は、全てを理解した表情だった。そして、全ては終わったのだと理解した顔だった。
俺の部屋に何を言いに来たのか、今となってはもう分からないが、無表情のまま俺の部屋の扉のところで膝から崩れ落ちる澪。
「澪! 大丈夫か!」
床に座り込んでしまった。あまりのショックで起き上がれないらしい。俺は慌てて駆け寄り助け起こす。
部屋に運んでベッドに座らせた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。私が悪いの……」
光の射さない瞳、暗い表情のまま、急に澪が謝り始めた。
「こんなの本当じゃないって分かってた。いつか壊れてしまうシャボン玉みたいなものだって……」
うわ言のように そう言うと、驚いたことにベッドに座ったまま、澪は涙をボロボロと流し始めた。
「いつか終わるって分かってた。ずっと続かないって分かってた。でも、心地よすぎて……やめられなかった……武、騙しててごめんなさいーーーーーー!」
しまった。俺があわあわしている間に、顔を隠して澪が号泣し始めてしまった。
「澪! ごめん! お前は悪くない! 悪いのは俺だ! 騙していたのも俺だ!」
俺の告白に涙が止まらないままに澪が顔を少しだけ上げた。
「お前が甘えてくれるのが あまりにも嬉しくて、あまりにも可愛くて、ずっと催眠術にかかったふりをしていた! あの時だって本当は目が覚めてた!」
ベッドに座っている澪の前で俺は跪いて贖罪の言葉を続けた。
「俺もずっと続かないとは思ってた。ずっとずっとお前に嘘をつき続けていた! ほんとは甘いものが大好きだし、全然 硬派じゃない! お前に好かれたくて硬派なふりをし続けていた!」
「……」
「……催眠術は最初から かかっていなかったってこと?」
「かかってなかった。 あの時 俺は寝たふりをしていた」
「……クールじゃない甘えっ子の私 だったのに?」
「甘えられるのは昔から大好きだ。無理してクールな澪より、甘えてくれる澪の方が俺は好きだ」
澪の目が目まぐるしく動いている。色々考えているらしい。
「はあーーーー!? 知ってたけど!? 騙されてあげてただけだけど!? 」
しまった! 澪は、恥ずかしいことがあると逆切れする性格だった! 澪が急にキレだした。これまでのことを思い出して、よほど恥ずかしかったらしい。
「帰る!」
ドアをバタンと閉めて澪は帰って行ってしまった。
……終わりだ。全ては終った。
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