第4話:変わる日常

 次の日から全てが変わった。



「武ー! おはよー!」



 部屋のドアを開けたら、澪がいた。しかも、輝くような笑顔で!


 さすがに これまで朝ごはんまで一緒ってことは殆どなかった。朝はパンなんかで簡単に済ませるから、わざわざ一緒に取る必要性がなかったのだ。



「おはよう」


「朝ごはんできたよー!」



 元気よく言うと、テーブルの上に朝食を準備してくれていた。母さんはちゃっかりテーブルで朝ご飯を食べているし、澪がキッチンで料理をしている。誰の家だよ、もう。



「澪ちゃんありがとうね! 助かるわぁ」


「いえいえ、よかったらこれから、ちょくちょく伺ってもいいですか?」


「もちろんよ! 澪ちゃんならいつもでも大歓迎よ! なんなら お嫁に来る?」


「もう、かおるさんったら!」



 澪のヤツ 母さんとも仲良くやってやがる。昨日までの表面ツンツン、中身ポンコツはどこに行った!?


 テーブルの上にはサクサクに焼かれたトーストとふわふわのスクランブルエッグにカリカリベーコン。澪の料理スキルは驚くほど高い。見ただけでおいしいって分かる。



「武、今日はお弁当作ってみたの。足りなかったら購買でパンでも買って」



 そう言うと、カウンターに大きな弁当箱の包みを置いた。これだけで十分な量だと分かる。わざわざ「パンでも買って」と言ったのは謙遜かもしれない。



「ありがとう。朝から大変だったろ?」


「かっ、かっ、かっ、彼女になったんですからっ! これくらい当然ですけどっ?」



 顔を真っ赤にして、めちゃくちゃ力が入っていた。可愛すぎてついニマニマしてしまう。



「あら、あんたたち やっと付き合い始めたの! もう、とっくに付き合ってるのかと思った」


「揶揄うのはやめてくれよ、母さん。付き合い始めの微妙な時なんだから」


「あらあら、ごめんなさい。じゃ、私 一足先に出るわね! 澪ちゃん! ごちそうさま! 2つの意味で!」


「!」



 最後まで揶揄ってから母さんが仕事に出て行った。リビングは嵐が去った後のような静けさ。



「……庇ってくれて、ありがと。嬉しかった」


「あ、いや……当然っていうか……」



 いつもの「逆切れ澪」はどこにもいない。素直で、甘えてきて、なにこのかわいい生き物は! 昔の澪、俺の理想の澪がここにいた。



 *



 まさか、登校時に手をつないで行くことになるとは思わなかった。これまでは、一緒の時間に家を出たとしても、澪が走って先に行ってしまっていた。そもそも、これまでは出る時間を意図的にずらされていた気さえする。


 今日は一緒に家を出たから、一緒に行くと思ったけど、澪が当然のように手をつないできた。



「付き合い始めたんだから、当然手はつないでいくわよ?」


「うん、そうしよう」



 なにも異存はない。それどころか、澪のはにかんだ笑顔が見れて嬉しくてしょうがない。


 そして、変わったのは朝だけではなかったのだ。

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