第3話:小林武の場合

■ 武side


 な、なんだ……いまの……状況を整理すると、あれってもしかして学校で話題になっていた催眠術!? それを考慮すると、澪は俺に澪を好きにさせようとしている!? 


 澪は俺のことが好き!?


 このビッグウェーブに乗らない手はない。俺は少し芝居じみた感じでうつろな目で目を覚ました。



「うん……寝てた……」


「あ、起きた? 武、ちょっとこっち見て! 何か感じない?」



 目の前に澪がいる。手を伸ばせはすぐ届くところに澪がいる。



「ん? 澪? 好き……」


「すっ……! そう、好きなの……」



 瞬間湯沸し器だろうか、頭から湯気が噴き出しそうな勢いで澪が真っ赤になった。


 俺がソファでゆっくり身体を起こすと、澪が横に座った。



「たっ、武は……わたっ、私のこと好きなの?」


「あぁ……俺は、澪が好きだ……」



 益々顔を真っ赤にしてその場でじたばたしだす澪。普段、学校で見る「クールビューティー」とも違うし、家で見る挙動不審な澪とも違ってすごく可愛く見えた。


 俺は俺で、普段だったら絶対に言えないことを言った。「俺は澪を好き」言ってしまった。催眠術にかかっているんじゃあしょうがない。そう考えると、あながち催眠術は嘘じゃないかもしれない。



「ねぇ、武、頭なでなでして」



 そう言うと、澪は身体を傾けて俺の腕に頭を付けた。「なでて」ではなく、「なでなでして」だったからついニヤニヤしてしまった。


 俺は恐る恐る掌を澪の頭の上に載せ出来るだけ優しくなでる。澪は猫のように目を細めて気持ち良さ様な顔をした。


 これだ! 俺が求めていた澪は! 


 すごく昔は甘えっ子だった澪。俺はそっちの方が好きだった。最近は、年頃のせいか少し堅いというか、冷たい感じに思っていたので、久々の感触に感動してしまった!



「てってってってー……」



 てってってってー? 急にどうした? 澪がバグりだした!?



「てっ、手をつなぎませんか?」



 なぜ、急に敬語!?


 でも、憧れていた澪と手をつなげる!俺は迷わず手を差し出し、澪と手をつなぐ。催眠術をかけられているから当然だ。



「!!」



 再び、天頂から湯気でも噴き出しそうな勢いで澪が真っ赤になる。


 俺はできるだけ冷静にしていたが、内心はドキドキ。


 澪は、少し夢見がちに繋がれた俺達の手をまじまじと見ていた。



「抱きっ、だっ、だだっ……これはさすがにダメ」



 次の命令を口にしようとしているようだが、恥ずかしくなってしまったらしい。


 澪はすっくと立ち上がると、ソファに座っている俺の前に背中を向けて立った。なにこれ?



「後ろから……抱きしめて」



 よ、よろしいんですかーーーーー!?


 クラスではクールビューティーの名を冠している人気者美少女にそんなことを言われて断れるやつがいるのか!? いや、いるはずはない!(反語)



 俺は静かに立ち上がり、後ろからふわりと澪を優しく抱きしめた。


 身長差とか、腕のレイアウトとかの関係で、腕に澪の胸の膨らみのやわらかさが伝わってくる。こっ、これは捕まらないのか!?


 澪を見ると抱きしめた俺の腕に頬ずりしている。ヤバい! 愛しさが爆発しそうだ!



「たけ……る。私と……その……つ、つ、付き合って…! ください?」



 抱きしめられたまま、うつむきながら澪が告白してくれた。こんな可愛い告白 嬉しすぎる。



「ありがとう。もちろん、OKだ。これからよろしくな」


「ほんっ、ホントね! あとでやっぱり やめたとかないからね!?」


「そんなこと言わないよ」



 つい、笑みが漏れてしまった。どんだけ必死なんだよ。澪は自分のことをなんだと思っているんだ。こいつが告白したら誰でも落とせそうなのに。



「きっ……いいえ、これはデートの時に……」



 澪の命令は止まらない。よほど日頃 願望というか、希望というか、あったらしい。



「武、週末はデートに行きたいわ!」


「分かった。日曜でいいかな?」


「う、うん……空手の練習は!?」


「ああ、もうそろそろ引退でいいと思うんだ。今週中には先生に言ってもう少し自由な時間ができるようにしてもらうよ」


「ホント!? じゃあ、これから映画とか遊園地とかも行ける!?」


「まあ、受験があるから どんどん行くわけにはいかないけど、たまになら大歓迎だ」



 澪がその場で小さくガッツポーズをとったのを俺は見逃さなかった。


 普段、教室ではクールで通っている澪とは違う、俺の前だけでしか見せてくれない彼女の一面。なんだか嬉しくなった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る