第41話最後の戦い(8)

 決勝のカードは俺とウルクで決まりだ。


 決勝戦の前にまたしても壊れてしまった舞台を修繕するために休憩が入った。


 闘技場の外で一人対策を練っていると俺を探していたのかシャルルが駆け足で俺のところにやってきた。


「どうした? そんなに急いで」


「だって急にクロムが居なくなるんですもの、探しましたよ」


 俺に何か用があるのか首をはてなと傾けて言葉を返す。


「俺に何か用か?」


 俺の言葉にシャルルは額に手を当て何やら呆れている様子だった。


「……はぁ、用がなければあなたを探してはいけませんか?」


「いや、そんなことはない」


 その会話を交わした後急にシャルルが大人びた顔をしながら言葉を紡いだ。


「ようやく、最後ですね」


「あぁ」


「これに勝って優勝を収めれば私たちやっと恋人になれるんですね」


「いや、一応今も恋人なんだがな、だけど国王に認めてもらわないとなんだか本当の

恋人になった気がしないのも事実だな」


 父親に反対されたまま交際をするのもなんだか気が引ける思いがするのも事実だ。


「そうですよ? だから必ず優勝してください!」


「そうだなー……、いや、無理かもしれない」


 突然の言葉にシャルルは驚きを露わにしてその理由を問いてきた。


「え⁉ 何故ですか⁉」


「パートナーの激励が足りないな」


 その言葉にシャルルは目を丸くしていた。少しの沈黙を経てシャルルは俺の体を包み込み、互いの心臓の鼓動が伝わるほど近い距離で十秒ほどしっかりと抱擁した後、細くしなやかな指先で俺の頬に触れながら唇を合わせてきた。


 唇を合わせながら、シャルルの思いが伝わり気合が漲ってきた。


「あなたは時々我儘ですよね」


 顔を赤らめたシャルルが悪戯っぽく笑みを見せながら言う。


 シャルルのお陰で気合も気力も充分に補給することができた。後は優勝を果たしシャルルと両家の賛同をもらって交際しよう。


 決勝戦ともなれば会場内も大いに賑わっていた。この四国祭に集まったほぼ全ての人々がこの観客席に集まっていた。


 四か国の国王の前には一つの大きなトロフィーが置かれ、俺かウルクのどちらかがこのトロフィーを手にすることとなる。それを予想しているだけでも相当に盛り上がっていたそうだ。


 決勝の舞台に上がった俺とウルク。互いに言葉を交わした。


「あの拳聖を倒すとはね、君が昇り詰めて来ると思っていたよ」


「悪いが負ける気は無いんでね。この試合勝たせてもらうぞ」


「面白い」


 互いに視線を外すことなく向かい合った。ウルクも本気で戦うつもりなのか、先のアルトリアの時に放っていた魔力を更に膨れ上がらせていた。この相手がおそらく俺が転生した時代では最強なのかもしれない。休憩時に噂話が聞こえてきた。どうやらウルクは自国では別の愛称で呼ばれているらしい。その名は魔道王。


 魔道王と呼ばれるだけの才覚は確かに持ち合わせているだろう。その実力を確かめるのが楽しみでならない。


「これより、決勝戦を開始します」


 大会側の開始の合図を待っている。その緊張感は会場全土を包み込み、会場内は静寂に包まれた。


 物音一つ立ててはならないと感じてしまうこの空気間。その静寂の中神経を研ぎ澄まさせ、コンマ一秒の遅れも許すまいと全ての集中力を開始の合図に回した。



「決勝戦開始!」



「テオ・ファイガ」


「テオ・ボルト」


 開戦直後、モード七つの大罪に変わり高威力の魔法がぶつかり合った。


「これでは小手調べにもならないか」


 ウルクはならと付け足して攻撃の手を強めた。


「テオ・ファイガ、テオ・ボルト、テオ・ブリザード」


 ウルクは怒涛のトリプルキャストを披露した。ほう? テオ系の魔法を三つも繰り出すか、やはり魔道王の名前は建てじゃないということか。


 ウルクの魔法に対応すべく、俺も同じ魔法で相殺した。


 相殺されたことにより、ウルクは魔力を最大限に高めて先の大魔法を繰り出そうとしていた。


「リオレクス・ウル・ファイガ」


「破壊(クラッシュ)」


 溜めの大きい魔法は俺には通用しない。俺の破壊を目の当たりにしたウルクは一瞬だが顔を濁らせていた。流石にこの魔法は見たことが無いようだな。


 だがウルクも頭のキレが良く、すぐさま多数の魔法攻撃に切り替えてきた。


「ジャイロファイガ」


 大きな車輪が炎を纏いファイガを連発してきた。その攻撃に即座に創造のスキルで二丁拳銃を顕現させた。その拳銃の弾丸に破壊のスキルを付与させウルクの攻撃を尽く破壊し尽くした。この技はあの魔獣とやり合った時に思い付いた技だ。まさか、こんな初歩的な方法を思い付かなかったとは情けない。


「忌々しい、そのスキルはなんだ!」


「破壊しただけだぞ?」


 ウルクは俺の攻撃に手間取っている様子だった。だがその不快感がウルクの心の枷を解き放ってしまったのか、魔法攻撃から槍の攻撃に切り替えていた。


 ウルクの手に持たれる魔槍グングニルから途轍もない魔力が溢れ出ていた。その魔力を一気に解放しながら俺に向けて投擲した。


「グングニル!」


 ウルクの全力の一撃。この出力はまずい、ウルクの魔法攻撃だけなら何とかなるが、これに加えグングニル本来の魔力が上乗せされている。これは防御魔法を使うより、攻撃魔法で相殺するのが妥当だろう。だが普通の攻撃では太刀打ちすることは不可能だ。普通ではない攻撃、これは俺がここで限界を超えるしかない。


 二丁拳銃を消し去り、崩殺拳の構えを取るために左手を前にかざし、右手を拳に変えて、腰を落とし中断の構えを取る。普段の崩殺拳ではどの技も通用しない、狙うは一の攻撃ではなく重の攻撃だ。


「崩殺拳破の型+ブースト《ゼクス》崩玉!」


 魔力の塊を拳圧に乗せて放ち尚且つスキルブーストを六重に重ね掛けして威力を倍増させた。


 グングニルと俺の攻撃がぶつかり合う。その凄まじい競り合いに全集中を注いだ。技の競り合いが火花を散らし魔力の波が周囲に行き交う。


 俺とウルクの競り合いは俺がどうにか打ち返した。そのまま勢いを失うことなくウルク目掛けて迫って行った。よし、このまま決着だ。


 そう思っていた俺の眼前に驚くべき光景が広がっていた。それは、俺の渾身の一撃がウルクの体に触れる前に突然軌道を変えてウルクの横を通り過ぎて行った。なんだ? 今何が起こった? 俺の目でも見切れなかった。

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