第40話最後の戦い(7)
俺は一度観客席に戻りシャルルたちとハイタッチを交わしながら、次の試合に注目していた。
「次の試合をどう見ます? あのラルクって人かなり強いでよね」
「あぁ。アルトリアさんには悪いが、多分決勝は俺とラルクで決まりだろうな」
「なんか見たことない魔法使ってたぜ? クロムもだけど……」
「あれは各属性の魔法を極めた者だけが使える魔法なんだ。だからあの技を使えるだ
けでかなりの強さだよ」
準決勝第二試合が始まった。アルトリアは一回戦の時とは身に付けている武器が違うことに気付いた。そしてその武器を見て驚愕の事実を知った。
アルトリアの身に付けている武器は且つて俺を切り裂いたあの勇者が使っていた聖剣じゃないか。持ち主を選ぶと呼ばれていて勇者以外所有することはできないとされていたがどうやら、新たな所有者にアルトリアが選ばれたのか。
「テオ・ファイガ」
ラルクは一回戦同様、魔法攻撃主体で戦法を構築していた。だがアルトリアも前回大会でも戦った経験からか即座に躱し、距離を縮めている。
「テオ・ファイガ、テオ・ボルト」
ラルクのダブルキャストに会場内がざわついていた。確かにこの時代でのダブルキャスト、二重魔法は失われた技術とされているからだろう。
アルトリアもその攻撃には驚いて判断を少し鈍らせていた。かろうじて聖剣で受け流しどうにか回避していた。
アルトリアの顔付が険しい表情になっていた。だがあのウルクとやらは相当に使い手だな。魔法の行使が早すぎる。流石のアルトリアも距離を詰めかねている。
防戦一方のアルトリアが現状打破するべく、斬撃に魔力を乗せてウルクに放った。
「月下雷鳴」
アルトリアが放った斬撃が雷を纏ってウルクに飛び交った。だがその攻撃ですらウルクには何ら効果がなかった。ウルクの出した魔力の城壁で弾かれた。
アルトリアもその一撃が本命ではなかった様子だ。ウルクが防御したその隙をついて反撃に出ていた。その一連の動きに俺も含めて観客席が湧いた。魔法が得意とする者はどうしても近接戦が疎かになってしまう傾向が強い。ウルクももしかしたらその一人なのかもしれないと俺は思っていたのだが、湧き上がった会場が一瞬にして沈黙した。その光景は近接戦を得意とするアルトリアが場外になる寸前まで吹き飛ばされていたからだ。
ウルクの手には一本の槍が持たれていた。そしてその槍捌きは常人を逸していた。四方八方から繰り出される槍術にアルトリアが翻弄されていた。
そして、ウルクの持つ槍に見覚えがあった。あれは確か魔槍グングニルじゃないか、転生前俺が所持していたが、戦の最中むしゃくしゃして上空からグングニルを思いっきり穿って地形を変えてしまいそれきり行方知らずになっていた物だ。
そこからのアルトリアはまたしても防戦一方になり、攻撃をする暇すら与えられず、体力をみるみる奪われている。このままでは決着が着くのは時間の問題だと悟った。
防戦一方になっているアルトリアに止めを刺すべくウルクが至近距離で魔法をぶち込んだ。
「テオ・ファイア」
テオ・ファイガの下位版にあたる攻撃でアルトリアが吹き飛んだ。皆その光景に決着が着いたと思ったのだがアルトリアは飛ばされながらも壁に向かって斬撃を飛ばし、その逆風により場外にはならずに堪えたのだ。その姿に観客は大いに沸いていた。
アルトリアはこのままでは勝機が無いことを悟ったのか聖剣に魔力を込め始めた。アルトリアの動きに即座に対応したウルクが槍をしまい、右手に魔力を溜め込んでいた。このパターンは大技同士のぶつかり合いだと観客も気付いたのか、観客席のほぼ全員が立ち上がり会場内を喧騒で満たせた。
「アルドノア・ノヴァ」
聖剣から放たれた光の斬撃がウルクに目掛けて飛ばされた。その計り知れない威力にウルクも防御魔法ではなく、自身の中でも最上級に位置する魔法で応戦しようとしていた。
「リオレクス・ウル・ファイガ」
ウルクの背後に炎を纏った火竜が現れ、その火竜の口から咆哮と共に超極大の炎の塊を放出した。
アルトリアとウルクの技がぶつかり合い、その衝撃は先の俺と拳聖の比ではなかった。重なり合う魔力の荒波が観客席にも吹き荒れ、立ち上がっていた観客たちも身を低くして身構えていた。その攻防を俺は目を逸らすことなく、見届けた。
「うおおおおお!」
「はあああああ!」
激しい技の競り合いが終わりを迎えた。アルトリアの放った光の斬撃がウルクの炎に包まれ飲み込まれた。そしてその炎は威力を弱めることなくアルトリアに直撃した。
爆風と共に砂埃が舞い上がり会場内では結末がどうなったか気になっている様子だった。やがて砂埃も収まりその決着が明らかになった。舞台を見ると場外にアルトリアが壁にもたれかかり気を失っていた。それを見た大会側の人間がコールする。
「勝負あり、勝者ウルク・ハーデン」
先と同様その激闘に対し拍手と喝采が送られていた。その中俺とウルクはお互い視線を外すことなく見つめ合っていた。
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