第39話最後の戦い(6)

 拳聖と向かい合い、拳聖から放たれる圧力がじりじりと肌を掠める。先程までとは比べ物にならない緊張感を感じる。油断も隙もあってはならない極限状態、俺も全力で行こうと思い両目の魔眼を開眼した。


 開始の合図が鳴り響く。準決勝にもなり会場の喧騒が更に大きく感じる。


「モード神威」


 神威の状態になり全身から紫の雷を身に纏っている。この状態であれば拳聖の速さに対抗できる。


「テオ・ボルト」


 開始早々予定通り大技を仕掛けた。俺の右手から放たれた雷の光線が拳聖に音速を超える速度で迫った。


 テオ・ボルトが拳聖に直撃した。だがどうやら防がれてしまったようだ。次いで拳聖からの攻撃が始まった。拳圧に魔力を乗せた俺と似た技で攻撃を仕掛けてきた。


 俺もそれを察知し崩殺拳砲の型「空破」で応戦した。


 拳圧どうしのぶつかり合いにより激しく火花が散り合う。両者一歩も譲らぬ攻防に会場が最高潮に盛り上がりを見せていた。


 均衡した攻防戦も崩れが生じた。俺の拳圧が拳聖に少しずつ近付き、拳圧の嵐を打ち破り、拳聖に直撃した。


 拳聖もダメージを負い、動きが鈍くなっていた。ここまではいいのだが、俺が危険視していたことが起こったのだ。それは拳聖の隠された力が解放されたことだ。


「私をここまで追い詰めるとはそこのお若いのは将来有望ですな。ですが、私も拳聖として我が国の代表として来ている以上負けるわけにはいきません」


 そう言い放つ拳聖の体から魔力が溢れ出ていた。明らかに拳聖の顔付が変わったことに気付いた俺は少し間を開けて構えた。


 互いに膠着状態に陥った。だがこの膠着状態も一流同士の戦いでは珍しいものではなかった。細かいフェイントを入れ、お互いの間合いを測りつつ仮想的に戦いをイメージしているのだ。こいつは厄介だな。もしかしたら且つての魔王と勇者にも引きを取らないぞこの老爺。仕方ないもう一段階上げるか……。


 膠着したまま、俺は自身に魔力を集め、一気に解放した。


 先程まで紫色の雷を纏っていたが、今は黒い雷を身に纏っている。


「雷帝神威」


 神威の上位版、雷帝神威。通常の神威より何倍も身体能力が向上する状態。


 雷帝神威になったことで拳聖にも分がある戦いが繰り広げられていた。高速で拳を交えながらも時折拳聖に拳を当て、こちらはしっかりガードできている。


「ははは、参ったな。まさか私の本気が通用しないとはね。だが私もただで負けるわけにはいかない」


 拳聖の拳に魔力が一気に収束されていく。この感じ的におそらく打ち合いでは分が悪いと思ったのか、大技で勝負を決めに来るらしい。ならば俺も受けて立つ他ない。


「破邪拳聖」


「崩殺拳破の型破龍」


 拳聖の拳から膨大な魔力が込められた拳圧が打たれた。向かい打つ俺も魔力を込めた拳圧が龍の形に変えぶつかり合った。


 拳圧のぶつかり合いは俺の技が押し勝ち、拳聖を場外に吹き飛ばした。


「勝負あり、勝者クロム・ジルキア」


 俺と拳聖の激闘を見た観客はその戦いに拍手と喝采を以て評してくれた。ふぅ、かなり手強い相手だったな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る