第33話古の戦い(3)
「来い、ウラノス」
俺の目の前に黒いゲートが現れ、そこから俺が所有している影の戦士の中で最強のウラノスを召還した。
俺の思考を読み取っていたウラノスは膨大な魔力を放ちながらシャルルたちの前に現れた。
おそらく彼等彼女等の目には死を予感するような光景が広がっているのだろう。ウラノスの召喚に五人は再び退いていた。それもそのはず、言葉ではなんとでも言えるが実際目の当たりにすると話は別物になる。
「人間、我らが王に寄り添うつもりか? あのような不敬な態度を取りながらも尚、王の傍で歩みを共にしようと言うのか?」
ウラノスが言葉を紡ぐ度、魔力がどんどん大きくなってシャルルたちを威嚇していく。
その姿にルミナスの心が折れた。ちらと視線を向けると、ルミナスは口を押えながら涙を浮かべている。それほどまでに恐怖を抱いているのだろう。
だが、その行為を他の四人が許さない。即座にシャルルがルミナスを抱擁して、落ち着けさせている。その最中もナグモ、ワカツキ、ルイネはウラノスから視線を切らない。
「はい! 私はクロムと共に歩みたい。今は弱くてまだまだ資格があるとは言えない。だけど、人は成長する、だから私たちはもっと強くなってクロムと共に居たいです」
ルミナスを諫めたシャルルがウラノスに確かな言葉を放った。
シャルルの言葉を受けたウラノスが暖かな優しい笑みを浮かべながら俺に視線を向けてくる。やめろ、そんな顔で俺を見るな。お前まで俺を悩ませるのか? そして、もう一度厳しい顔付に変わりシャルルたちに言葉を放つ。
「ほぅ? この私を前にして堂々と言い切るか。その言葉信じていいのだな? 我らの王はこう見えてとても寂しがり屋なのだ。貴様らが王と共に紡いだ時間は王にとってかけがえのないものだったのだ。我らと王は精神を通じてリンクされているから、王の感じていることがダイレクトに我らにも伝わってくるのだ」
「おい! ウラノス! 余計なことを話すな」
ウラノスが余計な言葉を放っていたので強制的に召還を解除した。そして、シャルルたちに向き直ったのだが、言葉が出てこない。それを見兼ねたシャルルが今度は一人で正面から俺に抱き着いて唇を合わせた。
長い沈黙、その光景を誰も遮るものは居ない。
唇を合わせている間、気付くと俺の目からは涙が溢れていた。シャルルも同様涙を流しながら息が続くギリギリまで俺の唇から離す気配がない。
「ぷは……。クロム、あなたの思いを私に話して下さい。あなたはどうしたいですか?」
「……俺は、……俺は、お前たちと、その、これからも……、一緒に居たい!」
その言葉を受けたシャルルを含めた皆が涙を浮かべて俺に抱き着いてきた。あぁ、この感覚だ。この感覚を俺は一度味わっていたから忘れることが諦めることができなかったのだ。この熱を覚えているからこいつらを引き離すことができなかったのだ。
一しきり泣き終えると、シャルルだけは俺に抱き着いたままだった。今も決して俺を離しはしないと固い決意を露わにした抱擁を続けている。それを俺はできるだけ優しい声音を意識して、シャルルの頭を撫でながら口を開いた。
「シャルル、もう大丈夫だ。お前たちの想いはしっかり伝わってきた。もうどこにも行かない。どこにも行きたくない。お前たちが一緒に居ていいと思っていてくれる限り俺はどこにも行かないよ」
「嫌です、信じません! そうやって私が離した瞬間に転移して居なくなるつもりでしょ?」
ふむ、これはどうしたものか、どうすれば信じてもらえるだろうか? 契約(カーマ)を使ってもいいのだが、これは術者の俺は一方的に契約を解除できてしまうし、それに気付かないほどシャルルは馬鹿じゃないだろう。
「私が絶対に居なくならないと信じれる言葉を下さい」
「例えば? どんな言葉なら信じてくれるんだ?」
「……馬鹿。ここまで言われてわからないんですか! もういいです。私が代わりにいいます。クロム、私はあなたを愛しています。どうかこのまま余生を私と共に添い遂げていただきませんか?」
シャルルの言葉に驚きあられもない顔をしていたに違いない。シャルルが俺を愛しているだと⁉ 一体いつから? いや、そもそも俺みたいな平民に王族様が好意を抱くなんてことがあるのか? 俺はシャルルを愛している。この想いは紛れもなく本物だ。俺の感情とシャルルの感情は=で結んでいいのだろうか? それともこれは何かの巧妙な罠なのか?
「あ、愛してる⁉ お前が俺のことを?」
「はぁ、やはり気付いてなかったんですね。この朴念仁! ずっとあなたにアピールしていましたよ私は!」
やはり本当なのか? 本当にシャルルは俺のことを愛しているのか? ならばいいのか? 俺はシャルルと恋人になっても、いや、余生を共にということはつまり結婚を前提としてか⁉ だが、思い返せば俺の傍にはいつもシャルルの存在があった。あの愛おしいと感じる笑顔に仕草に何度も心を奪われていたのも事実。こうやって本来の俺の姿になっても、シャルルは引き下がろうとしない。ならば、俺も一歩踏み込んでいいのだろうか?
「シャルル、……こんな俺でいいのか? 王族のお前がこんな平民の俺なんかで……。もっとお前に相応しい相手がいるのではないか?」
「私は、あなたが良いんです。その他は要りません。あなたへの想いを超える人物なんてこの世界中のどこを探しても見つかりませんよ」
先程までの涙顔は一変し、可愛らしくはにかんで見せるシャルルの笑顔に釣られて、俺も思わずくしゃりと顔を歪めた。
「シャルル、俺もお前を愛している。出会った時からお前に心奪われていた。こんなバケモノみたいな俺でよければ、これからも傍に居させて欲しい」
「はい! 喜んで」
そう言うとシャルルは満面の笑みで俺に抱き着いてきた。今まで緊張していたのか、その解放感からまた俺の胸の中で涙を流しているシャルルの頭を優しく撫でた。
「みんなも本当にいいのか? 怖くないのか? こんな俺と一緒に居てくれるのか?」
「当り前だ!」
「もちろんです」
「早く貴様を暗殺してやる」
「クロムさん、王女様に飽きたら私がいつでも代わりになってあげます」
その他の皆も俺に視線を合わせ、こくりと頷いて賛同を示していた。
「お帰りなさい、クロム。そしてありがとう」
俺の胸元から顔を出したシャルルがそのまま背伸びをして俺の唇に合わせてきた。
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