第15話第二試験(6)

 覚悟を決め、冒険者の大剣に身を委ねようとしていると、突如サイレンが鳴り響いた。そのサイレンにより冒険者の動きがピタリと止まり、同時に狂人化のスキルが解かれていた。……何が起きたんだ? 今にも倒れこみそうな俺の元にシャルルが足早に駆けよってきた。



「クロム! 大丈夫ですか⁉ 今回復を」


「悪い、毎度毎度シャルルに助けてもらってばっかりだな。どうやら俺にはシャルルが必要みたいだ……」



 朦朧としている意識の中シャルルのお陰で、視界が晴れていくのがわかる。そして、視界が晴れた先で今も俺の魔力の回復をしてくれているシャルルの頬はほのかに朱に染まっていた。



「他の二人は大丈夫なのか? それより、あのサイレンは一体……?」


「他の二人はクロムほど重症ではありません。あなたを先に回復した方が彼等の手当は効率よく進むと思ったので。それとあのサイレンは試験終了の合図です。私たち勝利したんですよ! あのsランク冒険者の方に」



 その言葉を受けて俺はフラッグの方に視線を送ると、フラッグは綺麗に横たわっていた。どういうことだ? 俺はあの冒険者と斬り合うのに精一杯だった。まぐれで倒れるような作りはされていないはずだし、一体誰が……?



 そこまで考え付いて、一つだけ可能性があったことに気付く。だが、それと同時に驚きと怒りの感情が俺を埋め尽くしていた。



「……シャルル、まさか、フラッグを倒したのはお前か?」


「……はい、私です」


「あれほどダメだと言っただろ! どうしてそんな危険な真似をしたんだ! もしお前の身に何かあったらどうするつもりだったんだ!」


「あなただって、毎回毎回こんなボロボロになって、あなたが私を心配してくれてるのと同じで私もあなたのことを心配しているんですよ! 少しはこっちの身にもなってください!」



 それを言われるとかなり耳が痛い話だ。だが、それと同時に驚きのあまり声が出なかった。まさかシャルルがそんなに俺のことを心配してくれていたなんて感じもしなかった、気付けなかった。



「あなたが私のことを助けて下さっていたことに気付いていないとでも? あの時から私はあなたのことが気になって仕方ありませんでした」


「すまない。まさかお前がそんなに思っていてくれていたなんて考えてもいなかった」


「ほんとですよ。今回のでイーブンということにしてください」


「わかったよ。但しシャルルは王族だぞ? その自覚を持て。お前に何かあれば国中が大騒ぎになるんだぞ」


「わかってます。それならあなたが私を危険に晒ないよう守ってください」



 妖艶な笑みを浮かべて悪戯っぽく俺をからかうシャルルの可愛さに自身の顔が赤くなっているのがわかるほど体温が上昇しているのに気付く。



 そんな感情を抱いていると、そこに先程まで激闘をしていた冒険者が俺たちの元に訪れた。



「完敗だ。見事な戦いだった。久々に負けるというものを感じたよ」


「いや、あなたはとても強かった。一人ではとてもじゃないが太刀打ちできない程に」


「特にお前は本当にこれからこの学園で研鑽を積もうとしているのか? とてもじゃないが、入学試験を受ける奴には見えない」


「お褒めの言葉感謝いたします。ですが、俺はごく普通の入学試験参加者ですよ」


 あまり納得のいっている様子ではなかったが、これが事実なのだから仕方がない。



シャルルのお陰でほぼ魔力が回復しきったタイミングで、今も倒れこんでいるナグモとワカツキを回復しに行った。

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