第14話第二試験(5)

「モード七つの大罪」



 俺の姿が変わったことに驚きを露わにする三人。そして、全員に同時にスキル通信(テレパシー)を使い指示を送った。



「皆聞こえるか? まずは俺があいつに向けて広範囲の魔法を打つ。その間にナグモは奴の懐まで潜り込め、狙えるならフラッグを倒してくれ、ワカツキは俺に後方支援のバフをかけてくれ。王女様はその場で待機して状況が変わった際の指示を頼んだ」



「「「了解」」」



 指示を出し終えた俺は上空に飛び、冒険者に狙いを定めて右手を上に挙げその右手に七色の魔力の球体が重なる。



 七色混合魔法・ラスターカノン。七つの属性が煌めきを放ちながら混じり合い濃密に濃縮された魔力の球体は冒険者目掛けて一直線に飛んでいった。



 俺の魔法に対抗すべく冒険者は大剣を振り下ろし斬撃をぶつけてきた。



「大破斬」



 斬撃と魔法がぶつかり大きな衝撃波が生まれた。その衝撃波による砂塵の出現にタイミングよく駆けだしたナグモが冒険者の背後を取りフラッグに手が届くその瞬間に冒険者が魔力を解き放ち、その圧力により、ナグモは吹き飛ばされていた。まあ一手で決まるほど甘くはないか。



「今のはかなり焦ったぞ、お前、魔力を消すのがうまいな」


「そりゃあどうも、でも防がれちまったけどな」



 ナグモは一度下がりまた攻撃をするタイミングを窺っていた。



 次に繰り出したのは炎最上級魔法・クリムゾン・ファイア。巨大な炎の塊を五つ出し冒険者に向けて放った。それだけではあの冒険者には防がれると思い、俺はこの試験が開始した直後に放った、集団儀式魔法・神の裁き(ラグナロク)を無詠唱でこれも五つ繰り出した。その光景にナグモをはじめシャルル、ワカツキはドン引きしていた。流石にやりすぎたかな? だが、俺はこれでも冒険者に致命傷を与えられるとは思っていなかった。



 俺の攻撃が冒険者に命中した。スキル透視化(エコー)で確認するとどうやら少しはダメージを受けてくれたようだ。魔法による攻撃を止め、俺もナグモに加わり接近戦で戦うことを選んだ。



 先の攻撃によりダメージを負った冒険者の動きが少し鈍くなっている。この機を逃すほど俺もナグモも馬鹿ではなかった。



 創造のスキルにより二本の短剣を創造した。



 二本の短剣を持ち、左はナグモ、右は俺の攻めで一気に畳みかけにいった。仮定的ではあったが、この冒険者どうやら近接戦はあまり得意でない様子。ナグモもスキルを使ってかなりの使い手に見えるが、まだ成長途中ということもあって、いいとこ俺の父さんレベルの剣技だと思う。それに加え、今の状態の俺は剣技も更にキレを増している。二方向からの攻撃に冒険者は防戦一方になっていた。このまま押し切る。そう思った時、俺の頭に警笛が鳴った。



 自身の警笛を信じてナグモに一時離脱を促した。



「おい、ナグモ。一度引くぞ! 何やら嫌な予感がする」


「何でだよ! このまま押しきれるだろ!」



 俺の忠告に耳を貸さずに冒険者に攻撃を続けるナグモに対して冒険者が不敵な笑みを浮かべながら、冒険者に光が集まり始めた。



 冒険者を謎の赤黒い光が包み込み、先程とは比べられないほどの魔力が解放された。



「俺にこのスキルを使わせるとは、お前らとんでもなく強いな。四人がかりとはいえ、この俺を追い詰めたこと誇りに思え。だが、ここまでだ。このスキルを使えば最後、俺は力加減が出来なくなる。死なないように頑張るんだな」



 冒険者の様子が変わったとき、俺の未来予知の魔眼が恐ろしい未来を見せてきた。それは、ナグモの体が真っ二つに切り裂かれる未来だ。この未来を見た瞬間、俺はナグモに叫んだ。



「ナグモ! 今すぐ離れろ!」



 だが、俺の叫び声が届くのと同時に冒険者の大剣が今まさにナグモに振り下ろされていた。



 ナグモは自身に迫る脅威を感じ、気付くのが遅かったと絶望した顔を浮かべていた。ナグモはその場で立ち尽くし、下を向いたまま目を瞑っていた。



 俺はその光景を目の当たりにした直後に、急ぎ転移をして冒険者の攻撃をギリギリ防いだ。ナグモに振り下ろされた一撃を受けた俺はその威力に今、圧し潰されそうになっている。冒険者の刀身が微かに俺の肩に触れ、その場所から少量だが血が流れていた。ナグモは自身が切られていないことを悟り、俺が代わりに攻撃を受けている光景に驚いていた。



「見てないで、お前も早く何かしろよ!」



 俺の声に反応したナグモは、冒険者に向かって剣を振り下ろした。その動きにより。一瞬だが攻撃の力が弱まり、その隙に零距離で炎最上級魔法・クリムゾン・ファイアを打ち出した。



 その衝撃に乗じて、俺とナグモは急ぎフラッグを目指し駆けていた。今もこの最中にワカツキが俺とナグモの魔力を回復してくれたり、ありとあらゆるバフをかけてくれていたりしていることもあり、第一試験の時より本来の俺の力を出せている。その結果として、おそらくあの時の魔獣よりも強い冒険者にもこうして優位に立ちまわれているのだから。



 そして、俺とナグモが戦いに専念できるようにシャルルが後方から随時スキル通信(テレパシー)にて指示を送ってくれている。かなりバランスの取れた良いチームだと思った。



 俺がフラッグに触れようとしたとき、砂塵の中から突如として大剣が横薙ぎで俺に襲い掛かった。



 その刹那に状況判断を済ませ、転移にてその攻撃を避けきった。危なかった。今のは肝を冷やしたぞ。



 砂塵の中から現れた冒険者はまるで狂人化のスキルを使ったのか、理性の無い獣のような表情をしていた。感覚は研ぎ澄まされ、フラッグに近付くことすら困難になっていた。



 俺とナグモが悪戦苦闘をしているとシャルルから通信が来た。



「クロム! 一つお願いがあります。これなら勝てるかもしれません」


「なんだ? 手短に頼む、こっちは今かなりやばい状況なんだ」


「わかっています。私に幻影魔法をかけていただきませんか? クロムとナグモさんが敵を引き付けている間に私が裏から密かにフラッグを倒します」


「ダメだ。今の奴は感覚が研ぎ澄まされていて、幻影魔法も見破られるかもしれない。それに、今の奴は狂人化していて下手をすれば殺されてれしまう。そんな危険な賭けをシャルルにやらせることはできない」


「なら、どうしろと?」


「それは今考えている。話は終わりだ」



 その言葉を最後に一方的に通信を切った俺は今も激しく冒険者と斬り合っていた。少しの油断もできない攻防。一つの気の緩みがまさに生死を分かつ極限状態。ナグモは早々にリタイアしてしまった。無理もない、この攻防は精神もかなり削られる。ナグモは幾らワカツキからの援助があっても心の疲弊は止められなかった。



 冒険者の攻撃は威力を増していき、創造で作り上げた短剣は尽く壊されてしまうはめになっていた。創造の武器ではこいつの攻撃に耐えられないと悟った俺はインベントリにてバルムンクを取り出した。オリジナルの剣ならそう容易く壊されることはないだろう。



 冒険者の大剣を剣で受け流しては、こちらも止められ、剣のグレードが上がったことにより、少しだけ戦力差が縮まった気がした。一合、また一合と剣を交えながら、隙を見ては魔法で攻撃をするが、狂人化した冒険者には全くダメージが入らない。そして、膠着した戦いに不意に終わりが訪れた。それは、ワカツキの魔力切れだ。



 俺にかけられていたエンチャント、バフが全て消え去り、同時にとっくのとうに限界を超えていた俺の体が悲鳴を上げていた。気付けば元の姿に戻り、魔力も枯渇して魔力欠乏症の症状により意識は朦朧としている。今にもそんな俺に対して大剣を振り下ろそうとしている冒険者の姿が朦朧としている視界の中に映っていた。……くそっ、ワカツキの魔力切れを計算に入れておくのを忘れていた。完全にぬかった。正直このメンバーの中で今現状、俺を助けることができるのはおそらく一人も居ない。

 ……これは詰んだかな。

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