第12話第二試験(3)
開始の合図が鳴り響いた瞬間、俺の魔力探知に反応があった。嘘だろ……、こんなのと戦うのか? 魔力だけで言えばあのサバイバルの時の魔獣よりも多いぞ。
おそらく、今回の敵、sランク冒険者であろう男がど派手な魔力を解き放ちながら現れた。その姿に皆絶句し、佇んでいた。
「嘘だろ、あんなの勝てるわけが無い」
一人の男がそう呟いた時、突如として圧し潰されそうなほどに濃い魔力が圧をかけてきた。スキル魔力覇気。魔力を放ち、その魔力の差に圧し潰され抵抗(レジスト)できない者は意識を飛ばされ、戦意を抜かれてしまう。このままではまずいな、せめて後方支援の役割だけでも果たさねば。
俺は今も尚その圧倒的な魔力に恐怖している皆を落ち着けるべく、光魔法・天使の羽衣(ホーリーベール)を使った。辺りに光の羽衣が舞い、皆の心を癒していく。少しずつ落ち着きを取り戻していたメンバーは一体誰の仕業なのかとあたりを見回していたが、気付いているのはシャルルだけだった。更にまた魔力覇気が来ても平気なように、今作り上げた対魔力覇気妨害の結界を展開した。
二つの魔法のお陰で魔力覇気の効果を感じなくなったメンバーは、一度乱れた陣形を立て直しつつ冒険者に向き直った。その光景を見た冒険者が感心したような表情で語りかけてきた。
「今ので誰一人も倒れないとはかなり腕の立つサポーターが居るな。それと、この無駄のない陣形と適正な役割分担を短期間で組み上げた統率者の腕もかなりいい。入学試験を受けに来た奴らとは正直思えんな。気に入った」
冒険者の男は感心していた表情から、臨戦態勢に切り替え、背に背負う大きな大剣を構え、ニヤリと笑みを浮かべていた。戦いの始まりを待つ静寂、緊張感。これは流石に経験がものを言う。他のメンバーはそれに耐え兼ねている物も数名居た。これが本当の殺し合いなら、先に集中力を切らした方が殺される。まあ、これは正直仕方がないと思う。
「ほぅ? 四人も居るか」
しまった、こいつは今の間合いで実力者を特定していたのだ。誰がこのグループを仕切っているのか判断するために。今ので俺もバレてしまったかもしれない。少しだけ困惑していた俺の脳内に直接声が聞こえてきた。ん? 誰からの通信(テレパシー)だ?
「クロム! 作戦は思い浮かびましたか?」
「シャルルか、通信使えたんだな。まずは、相手の出方を見た方が良い。後ろの後方支援組で一発でかい魔法を叩きこむ。シャルルはその指示と、前衛は詠唱が終わるまでの足止めとディフェンダーは俺たちの守りに入ってくれ」
「クロムとのやり取りで覚えました。わかりました! ではそのように」
シャルルは俺の指示した通りに他のメンバー全員に伝達していた。シャルルの手腕のお陰で即時集団儀式魔法の行使に取り掛かった。本来俺一人でも無詠唱で放てるのだが、この時代ではこれから扱う魔法は集団儀式魔法になってしまったらしい。
シャルルの号令の下行動を開始した俺たちは詠唱を開始した。冒険者はその詠唱を待ってくれるのか、特に動く素振りも無く大剣を構えているだけだった。ふっ、余裕をかましているな? sランクの実力しかと見させてもらおうか。
「集団儀式魔法・神の裁き(ラグナロク)」
上空に雷の柱が降り注ぎ、冒険者を襲った。この魔法には俺の魔眼の権能も上乗せしている、威力も申し分ないはずだ。倒せるとは思ってもいないが少しはダメージを負ってくれると今後の対策もしやすいのだが……。
俺の淡い期待も虚しく、冒険者は高らかに笑い声を上げていた。
「あははは、今のはかなり良い一撃だった。今年はかなり素材が良いのが集まっているようだな」
良い一撃? よく言うよ、全くの無傷、ノーダメージだった。冒険者は次はこちらから行くぞという言葉を放ち、構えていた大剣を未だ距離のある俺たちに目掛けて振り下ろした。まずい、この一撃は先程の集団儀式魔法なんて比じゃない。危険を感じた俺は急ぎシャルルにスキル通信を入れた。
「シャルル! あの攻撃はまずい! 急いでディフェンダーの奴らに防御魔法をかけさせろ!」
「え⁉ あ、はい! わかりました!」
シャルルは急ぎディフェンダー陣に防御魔法を展開させた。だが、この魔法ではまるでガラス細工を壊すかの如く砕かれてしまうと思い、俺も皆にバレないように防御結界を五層展開した。
「行くぞ! 爆竜斬!」
冒険者の大剣から振り下ろされた斬撃は魔力を帯びて、その名の通り燃え上がる竜の姿に形を変えていった。
斬撃がディフェンダーが展開している防御魔法にぶつかった。俺の予想通り、いとも簡単に粉々に砕け散っていた。そして、残されたのは俺が展開した結界のみ。防御魔法が砕けたのと同時に皆は絶望の表情に顔を変えていた。今も結界を維持するのに精一杯の俺の表情を見兼ねたシャルルが皆に結界に魔力を注ぐよう促していた。
俺はその行いに、目だけで感謝の念を伝えた。そして、五層の内四層の結界が破壊されたところで斬撃の威力は消え失せた。冒険者の攻撃を防いだことに安堵している皆だったが、俺とシャルルはあまり浮かない表情をしていた。たった一撃で皆満身創痍になっているのだから。この状況で勝利をすることはかなり厳しいものだと思う。
俺が打開策を模索していると、そこにシャルルが小声で囁いてきた。
「ねぇ、クロム、あなたの本気でもあの冒険者に勝つことは不可能なの?」
「ほぼ、不可能だな。俺の体がもたない」
「そう、それならあなたの体が最後までもつとしたらどう戦うつもり?」
「そうだな、悪い。説明ができないからこれを見てくれ」
俺は指先をシャルルの額に触れるか触れないかギリギリまで近づけて脳内に浮かびあげている勝利のイメージを映像として流し込んだ。
「え、これをクロム一人でできるのですか? あなたほんとに何者なの?」
「どこにでもいる没落貴族の息子だよ、これはあくまでイメージだ」
「これはとてもじゃないけどできそうにないですね……」
「あぁ、それはそうと、無駄話はここまでのようだ。あちらさんもまた仕掛けてくるぞ」
俺たちの全力の防御に感心したのか冒険者は嬉しそうに叫んでいた。
「俺の全力を受け止めるとは中々に骨のあるやつらだ。俺もこのフラッグを守らねばならないからな、ここからそんなに動けないんだよ。だから、さっきみたいな攻撃を何度も叩き込むぞ!」
そして、第二試験が開始して一時間あまりで俺たちのグループはほぼ壊滅状態に追い詰められた。くそっ、なんなんだこいつは、あの大技を一度に何度も打てるなんて規格外すぎるだろ。残ったのは俺とシャルルとこれまで目立ってはいなかったが、この入学試験を受けるにあたり、俺が注目していた二人の男と女が無事に今も意識を保っていた。
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