第6話第一試験・サバイバル

 第一試験が開始された。試験の内容は至ってシンプルなサバイバル。突如として飛ばされた島国で一日どう過ごすのかがこの第一試験で注目されているのかもしれない。生き残るのは当たり前、その場での臨機応変な対応も今後の試験に影響するかもしれない。何より、生き残るというのがどうも引っかかる。まさか、この試験中に死者が出る可能性があるというのか? そういえば、この入学試験に参加するにあたって記入した入試要項には確か、万が一試験中に死亡した場合当校は一切の責任を負いません。それは入学後も適用されます。と書かれていた。それは、どこの教育機関でも危険は付き物で、魔道、剣術を学ぶとなればそんなことは言われるまでもなく皆了承しているはずだ。どうやらこの試験何やらきな臭い匂いがするな。



 俺は急ぎ自分の居場所と正確なマップを構築するために辺りをスキル透視化(エコー)を行使して確認した。



 なるほど、どうやらここの学園の教員たちは俺が思っているよりも残酷な奴らなのかもしれない。その理由は現在俺たちが飛ばされた島国はどうやら魔獣の巣窟になっているらしい。今は全員纏まって転移され、魔獣たちの居場所から離れてはいるが、これは全く遭遇せずに試験クリアとはならないだろう。



 俺は早々に隠密(バニシング)のスキルで姿を消して暫く周りの様子を窺って行動に移そうと思っていた矢先に後ろから声をかけられた。



「あ、あなたは先程の私の恩人の方ではありませんか! 私たち同じグループだったんですね! あなたはこれからどうするつもりですか?」

「恩人だなんて大それたことはしておりません。当たり前のことをしたまでです。暫く身を潜めて様子を探ろうかと思っております」

「では、私と行動を共にいたしませんか?」

「え⁉ いや、王女様は俺なんかの近くではなく、もっと実力のあるパートナーを見つけるべきです。俺なんかではとても王女様をお守りすることは叶いません」

「そうですか……。それは残念です、ですがわかりました。お互い頑張りましょうね」



 王女様との会話を終えて、深く反省した。しまった! 何で俺はあの誘いを断ってしまったんだ……。一気に王女様との距離を縮めるチャンスだったのに、いつもの一人で行動する癖が出てしまった。今更一緒に行動しようだなんて口が裂けても言いたいけど言えない。



 俺は後悔の念に晒されながらも、隠密(バニシング)を行使し、グループのメンバーを透視化(エコー)も使い観察していた。すると、あたかもお調子者のような男たちが陽気に肩で風を切るような感じで皆に高々と声を上げていた。



「こんな島で一日生き残るなんて楽勝だろ! 俺は侯爵家の次男として厳しい英才教育を受けてきた。こんな何にも無い島で俺たちが落ちるわけがない。皆も俺の邪魔をしないよう精々俺のために尽くせ」



 また侯爵家か……、ほんとに貴族のお坊ちゃま扱いに困るな、ここが魔獣の巣窟だと判断できていない時点で先は長くは無かろう。



 そんなことを思っていた俺に魔力探知が何かを捉えていた。それは、今俺たちが居るこの場所目掛けてかなりのスピードで一体の魔獣が襲い掛かろうとしていた。狙いは一番近くに居る可哀想なことに名も知らない先程の侯爵家のお坊ちゃまだ。俺には正直助ける義理も無いのであくまで、高みの見物と行こう。本当に死者が出るほどのものなのか興味もあるしな。



 先の魔獣はもう視認できるほどの距離まで来ているが誰一人としてその気配に気付いている様子が見受けられない。おいおい、本当にこいつらは大丈夫なのか?



 そして、その魔獣は今も高らかに笑いを上げている侯爵家のお坊ちゃまに一切の躊躇なく嚙みついた。



「ぎゃあああー。何だこいつは、誰か俺を助けろ! 何してる早く!」



 魔獣の登場にそこに居たメンバーは皆大慌てでバラバラに逃げ回った。そして、一つ意外だったのはこの島の魔獣たちは統率された動きを見せていた。最初の魔獣が襲い掛かり他のメンバーがバラバラになったところで他の魔獣たちがそれを襲う。これは、どこかに指揮官が居るな。高位の魔獣には知識が宿る、その知識を得た魔獣は自然とそこら一体を仕切る指揮官として縄張りを確保するものなのだ。



 先程魔獣に噛みつかれたお坊ちゃまは抵抗虚しく哀れにも頭部を嚙み千切られていた。



 これで、この試験は本当に死者が出るものだと理解した俺はその後も他のメンバーを救うことなく、スキル気配遮断(ディレクション)を使いその場を離れようとした瞬間、一体の魔獣が俺めがけて襲い掛かってきたのだ。ふむ、スキルを使っているのに何故、俺に攻撃することができるんだ? まあ、今は考えても答えは出てきそうにもない。いや、一つだけ仮定は立てられた、それは後で確かめるとしよう。丁度父さんにもらった剣の切れ味も確かめたかったし良い頃合いだな。



 俺は襲い掛かってきた魔獣を難なく躱し、躱し際にバルムンクで一閃した。魔獣は綺麗に真っ二つに切り裂かれていた。おぉー、切った実感が無い位に良い切れ味だ。



 魔獣を軽く片付け、先程立てた仮説を立証しようと思った俺の魔力探知に何かが引っかかった。その魔力探知の結果に思わず息をのんだ。



 その先には王女様が他のメンバーを庇い、魔獣と一人戦っていたのだ。王女様に対し魔獣は先程俺が倒した魔獣と同等レベルの魔獣が三体居た。流石に王女様一人では荷が重かろう。何より、あのお坊ちゃまの様な光景に王女様をしたくはない。そう思うと俺の体は自然と創造のスキルで一つの弓を顕現させていた。



 この弓は必中を成す。狙った場所にピンポイントで命中する最強の弓、俺が昔に使っていた武器の中でもかなり愛用していた弓だ。狙いは三体の魔獣。三本の槍を弓矢に創造し作り変え、威力を底上げする。



 王女様も三体の魔獣を相手取るのは初めての経験なのだろう、段々と集中力が欠けてきているように見える。王族がましてや王女様が死と隣り合わせの経験などするはずもない、だが初めてにしては良く持ちこたえてくれたものだ。おかげで間に合った。



 そして、俺は狙いを澄まし、三本の弓矢を放った。



 俺が魔獣三体に対し放った弓矢はまるで生き物の様な動きで木々をすり抜けて魔獣の頭部を貫通していた。



 その光景に王女様も緊張から解かれたのか、地面に座り込んでいた。まあ辺りに魔獣も居ないことだし今は良いか。俺もすぐさま移動を開始してまずは食事の準備をするべく、食材を調達しに行った。



 島国ということもあり、食材調達には困ることなく入手できた。そして、ようやく、他のメンバーにも動きがあった。



「皆さん、落ち着いて下さい! 確かにこの試験で死者が出た事実は明らかです! ですがいつまでもパニックに陥っていては冷静な判断はできません。ここはどうか、私たちの力を合わせましょう」



 皆に語りかけていたのは他ならぬ王女様だった。王女様の言葉のお陰か、皆の顔色も良くなっていった。だが、あの統率力は普通じゃないな。おそらくだが何かしらのスキルだと思われる。他のメンバーも王女様の指示に従う姿勢を見せていた。これなら俺の助太刀も要らないだろうと思い、俺は今度こそ仮説を立証すべく、わざと魔獣が多くいる場所に転移した。



 先程とは異なり、今度は結界にて魔力を隠蔽した。すると俺の立てた仮説通りの事態が起きた。それは、ここの魔獣たちは魔力によって反応していることがわかったのだ。ふむ、やはりこれであっていたか。思ったよりも早くこの試験の打開策を見つけてしまったな。これは誰かに教えるべきだろうか? いや、教えるくらいなら少々あいつらの気晴らしをしつつ魔獣の数も減らしておいてやるか。



 俺は魔力隠蔽の結界の範囲をギリギリ王女様たちに届かない距離まで伸ばし、スキル影の王を発動した。

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