第7話第一試験・サバイバル(2)

「出てこい」



 その言葉の後に、一つの黒いゲートが魔方陣を描きつつ現れた。そしてその中から十影雄の姿が出てきた。



「どうだ? 久々の外の世界は、俺の結界の範囲内ならどれだけ暴れても構わないぞ?」

「でしたら王よ、一つお願いがございます」

「なんだ?」

「我らのリミッターを解除して戴きたく存じ上げます」

「いいだろう。少し待て」

「はっ」



 この影の王のスキルは戦士たちを召還するまでは良いのだが、その他の権能を使うとなると、俺自身が影の王になる必要があるのだ。それを万が一他のメンバーに見られるのだけは避けたい。透視化(エコー)に加え魔力探知、そして俺の所有する二つの魔眼の一つである未来予知を行使し万全の状態で影の王を発動した。



 黒い影に包まれ全身に黒の紋章が浮かび上がり転生前の死霊使いとしての姿を子供の体のまま再現した。



「リミッターは外した。思う存分暴れろ」

「承知しました」



 十影雄は各々相手にもならない魔獣たちを蹂躙し尽くした。魔獣たちは自身の生存本能に従い逃げ回っていた。これで少しは王女様たちも楽ができるだろう。学園側の監視魔法にも対策をして、魔力妨害の結界を張っておいたので俺が何をしたのかは学園側に露見する心配もない。辺りの魔獣を全て排除した十影雄はまた俺の影の中に消えて行った。こいつらを満足させるなら十影雄一人に対し昔の勇者が率いていたロイヤルパラディン百人は必要だろうな。そんなこと昔の時代でもありえなかったのだし、今の時代では永久的に訪れることはなさそうだ。



 試験開始から半日が経過した。王女様たちも食事にありつけたようで一安心だ。魔獣たちも今は大人しくなってはいるが、この静けさがどうも怪しい。俺の魔力探知でも魔獣たちを率いている指揮官らしき魔獣は見当たらない。俺は何か大きな見落としをしているのか?



 日の光が落ち始め、辺りが薄暗くなり上空には星々が輝きを放ち始めた頃、動きがあった。この島全体に魔力を帯びた霧がかかり始めたのだ。この霧には感覚疎外と魔力妨害の二つの効果が見受けられた。俺自身霧がかかった直後は感覚を狂わされ、今自身がどこに居るのかさえわからない状況に陥っていた。すぐさまスキル浄化(パージ)を使い状態異常の効果を打ち消したから何とかなったものの、他のメンバーのことが気になり、先程最後に観察した場所の近くまで転移した。



 転移した俺の眼前には驚きの光景が広がっていた。



 霧がかかった直後魔獣の奇襲に遭ったらしく、数名の被害者が出ていた。



 被害から逃れた他のメンバーは慌てふためいていた。これは手助けをしてやるのが良いのだろうか? いや、待てよ、万が一王女様に何かあっては俺としても不本意な訳で、しかもこの霧のお陰で俺が手助けしたということはバレずに済みそうだ。よし、ここは王女様の安全を確保するため、そもそも王女様が被害に遭っていないかの確認もしなければならない。



 俺は霧を払うべく最下級風魔法・エアロを放った。



 エアロの発動により、周囲の霧が晴れて行った。すかさずスキル透視化(エコー)を使って辺りを散策した。その結果王女様は傷を負った模様で近くの木陰の下で座り込んでしまっていた。許さん、俺の天使様に傷を負わせた奴は一匹残らずに抹殺してやる。だが今は王女様の回復が先だ。周りのメンバーの中にも回復魔法が使える者が数名居たのだが、下級の回復術しか扱えない様子。これでは何時まで経っても王女様の回復が済まない、それに王女様が受けた傷は意外と大きくこのままでは命の危険すらある。今俺が王女様の前で傷を癒してしまえば必ず悪目立ちしてしまう。それだけは今後の俺のスローライフに影響が出かねん。それなら、遠距離から回復を施せばいいのか!



 俺は急ぎ弓を創造し、弓矢に超回復の魔力を込めて王女様目掛けて矢を放った。



 俺の放った弓矢は王女様に命中し、その光景に周りのメンバーは悲鳴を上げていた。それもそうか、いきなり矢が降ってきて王女様を貫通したのだから。悲鳴が鳴り響く中、王女様は一瞬で回復をしてその事実に理解が追い付いていないのか、辺りをきょろきょろと視線を泳がせていた。霧が晴れた以上この場に留まるのはまずいので俺はまた適当に転移し、この島の現状を今一度確認した。あの魔獣たちはまるで最初から霧がこの島にかかることを理解して動いているように見えた。それでも指揮官らしき魔獣は姿も魔力すら感知できていない。これは偶然ともましてやこの俺が魔獣如きに後れを取ることも万に一つとして有り得ない。ここに居る魔獣の体と魔力を的確に解析する必要があるな。



 今後の行動目標が定まったところでいいタイミングに魔獣の群れと遭遇した。



 魔力の反応により攻撃する行動パターンは変わることなく、目の前に居る俺に反応を示さない魔獣たちを他所に、俺は飛空魔法・フライで上空に上がり、右手を上空に掲げ雷中級魔法・ボルテックスを放った。上空から無数の雷が落ち辺りの魔獣を瀕死の状態に追い込んだ。群れの中から一体の魔獣に精神干渉魔法・メンタルインベイションを使い魔獣の精神の中に入り込んだ。精神の中に入りこめればどこから命令を受けているのか魔力の痕跡が必ずあるはずだ。それさえ見つければ今後の行動もかなり楽になる。



 メンタルインベイションに成功した俺はようやく、この魔獣たちの統率されている理由が理解できた。簡単に言うとこの島に指揮官は居ない。では何故この島の魔獣たちが統率された動きを見せていたかというと、この島の魔獣は学園の命令で動いていたのだ。魔力反応による攻撃、霧がかかったのと同時に攻撃を仕組んだのも全て学園から教え込まれたプログラムに過ぎない。本当にここの学園の教員たちはイカれてやがるとは思わなかった。この学園では英雄などともてはやされている奴らは皆この学園の卒業生、つまりはこの学園に凡俗は必要ないということだ。だからこの島では条件付きで参加者を襲わせているのだ。なるほど、家柄も関係なく、ただひたすらに才能溢れる卵を見つけるための試験か。



 魔獣の精神に刻み込まれていたこの試験のプロセスに気になるものがあった。そこに記されていた内容は最終局面。融合(フュージョン)と書かれていた。融合だと? どういう意味だ? この試験は後数時間で終わりを迎えるのだがまだこれから何かあるのか?



 メンタルインベイションを解き、辺りを探った。そして、その最終局面とやらが稼働していた。海中から大きな四本足の虎のような顔をした魔獣が現れた。

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