第4話入学試験(1)

 入学試験当日、俺は母さんにもらった黒の服装に着替え、父さんにもらった剣は、名を決めるため影の戦士たちと会議を開き決めた《バルムンク》を肩にかけ準備を終えた。



「じゃあ、行ってくる」

「クロムちゃん! 頑張って! ご馳走を作って待ってるからね! 今日はクロムちゃんの大好物のエッグタルトもいっぱい作ってあげるからね」

「クロム、お前ならできる。思いっきりやってこい」



 二人に激励をもらい、クシャナス王国、首都ポーラルに向かった。まあ転移で一瞬で着くんだけどね。



 転移して首都ポーラルに辿り着いた。やはり首都ということもあり、多くの出店やあちこちでショーなどを開いており、人々の顔付きも明るい表情をして賑わっていた。



 そして、俺が今回入学試験を受ける予定の魔剣学園はその首都の真ん中にかなり広く高く聳え立っていた。確かに俺の家からでも学園の姿は確認できるほど存在感を放っていたしな。



 学園に向け歩みを進めながら、俺と同様入学試験を受ける者たちの実力を確認しながら進んでいると、一言で言うならば、雑魚の集まりだった。まあこれから成長していく若人だ、今は仕方あるまい。俺の興味を惹きそうなのは、今の時点で二、三人だな。



 学園の門前に辿り着くと一際厳重に送迎されている一団があった。その一団に目を向けると、送迎の馬車から降り立ったのは一人の天使だった。いや、人間なんだが俺にはそう見えた。



 その天使は綺麗な金色の髪で大きな青い瞳、すっと通った鼻筋、表情は気品を兼ね備えつつも明るさが滲み出ているとても可愛らしい少女だった。



 見るからに王族だと判断できる護衛の数、育ちの良さが一目で理解できる所作。俺とはあまりにも境遇が違うし、ましてや王族様がこんな没落貴族の俺なんかと関わり合いを持つはずがない。昔から王族なり、一流貴族の連中は差別意識が強い。たぶん今回の試験の最中もそういった一悶着はきっとあるのだろう、俺は平凡に生きたいので、こういう上昇階級に位置するものではなく俺と同じくらいの没落貴族辺りの人とのんびり時間を共にしたいものだ。



 天使の降臨に釘付けになりながら考え事をしていた俺は不意に一人の男にぶつかってしまった。



「おい! お前! どこを見て歩いているんだ! どこの貴族だ、僕は侯爵家次期当主のアルベルト・ドミニクだぞ」

「あぁ、悪い。少しよそ見していた」

「この僕を前にしてよそ見していただと⁉ 貴様、その様子だと魔剣学園の試験を受けようと思っているんだろ? 貴様のような奴にこの試験を受ける資格は無い! この僕にぶつかった罰を受けるがいい」



 そう叫んだアルベルトは右手に魔力を集中させて、今にも俺に向けてその魔力弾を放とうとしている。やれやれ、これだから上昇階級にいる貴族様は苦手なんだ。



 それに、一応侯爵家次期当主というのは真っ赤な嘘ではなく魔力量もこの歳で考えるならかなり多い方だろう。その次期当主のアルベルトが本気で魔力弾を飛ばせばそれなりに被害が出るし、何よりアルベルトが攻撃しようとしている射線の先には先程の天使様も居る。これは俺が防がなければ周りなど正直どうでもいいが、あの天使様に砂埃一つとして飛ばしたくない。そうと決まれば俺の右手は自然とピストルの様な形に構え、言葉を放った。



「破壊」



 アルベルトが俺に向けて放とうとした魔力弾は破壊の力により跡形もなく消え去った。



「な、何をした⁉」

「このままでは周りに被害が出てしまうからな。だからお前の術式を破壊した」

「術式を破壊しただと⁉ そんなの聞いたことが無い! まさか、それがお前のオリジンスキルなんだな⁉」

「そうだ、だからお前の攻撃は俺に当たらない。どうか、俺の無礼を許してはくれないだろうか?」

「ふざけるな、この僕に無礼を働き、更には恥をかかせるとは父上に言いつけてお前の家族もろとも消し去ってやる」

「おやめなさい! これ以上の狼藉はこのシャルル・クシャナスの名において許しません」



 そう叫ぶ声が聞こえ後ろを振り返ると、そこには先程俺が釘付けになっていた天使がアルベルトを睨み付けながら声を上げていた。クシャナスということはやはり、王族のようだな。



「シャルル様⁉ ですが、この不届き物がこの僕に恥を……」

「お黙りなさい! 注意をするならまだしも、周りの被害も考えずに魔法を放とうとして、この方が防いで下さらなかったたら大惨事になっていましたよ!」



 まあ確かに俺が不注意であいつにぶつかってしまったのは認める。でも、ぶつかった理由はあなたがとても可愛いのが原因ですよ?



「あなたのお陰で被害が出ずに済みました。ありがとうございます。お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

「申し訳ありません。王族の方に名乗れるほどの家柄ではございませんので、これにて失礼します。もし、ご縁があればその時はまた」



 そう伝えて俺は踵を返し、試験会場に向かった。おかしい、ほんとにおかしいぞ。どうしたんだ俺は、この胸の高鳴りはなんだ。これが恋か⁉ 恋ってやつなのか⁉ 歩みを進めながら俺の意識は影の戦士たちがいる影の世界に向かった。



「おい、お前たち、緊急会議だ」

「どうされましたか王よ」



 俺の呼びかけに影の戦士たちの幹部が集まった。名を十影雄。俺が使役している戦士たちの各部隊の将だ。



「俺は今恋をしているのか?」



 十影雄に今の俺の現状を話し、この蟠る気持ちはなんなのかを問いていると、皆声を揃えてこう言い放った。



「はい、それは恋です!」



 ふむ、やはりそうか、俺は恋をしているのか。だが、よりにもよってまさか王族に恋をすることになるとは。昔には感じたことのない胸の奥が大きく脈を打ち、鼓動が早まっているのがわかる。焦りは禁物だ、じっくりいこう。



 意識を戻すと俺の目の前には大きな正門が聳え立っていた。そして、正門の前には大きな魔法文字で「入学試験参加者は正門を抜けた中庭にて待機を」と書かれていた。

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